第48話 意外な客
この世界に古くから伝わる伝説では、精霊、あるいは妖精に導かれ力を覚醒させた一人の少女がいた。
少女は王国を脅かす怪物を退け、平和をもたらしたヒーローだった。
少女のおかげで、国は災害から復興し、正式に新生を遂げた。
感謝の証として王は少女に大魔女の称号を授け、同じく精霊の祝福を受けた女の子たちを支援し、守るための機関設立を許可した。
それが今の魔法省の起源だ。
時が経つにつれ、精霊に選ばれし魔女たちは魔法少女と呼ばれるようになった。かつては手の届かない存在だった彼女たちも、SNSの普及によりアイドル化していった。しかし、魔法省の主たる業務は変わらずに続いている。
今日も魔法省は魔法少女たちの保護と教育、そして管理の大任を担っているのだ。
そのような魔法省にとって、年に一度の重要な行事が、まさに
この街の人々にとって、建国祭は先祖である大魔女が国の存続を脅かす怪人を打ち倒した重要な
もし魔法省で第三位のスターリーアイズがこんな重要な祭りに欠席したら、住民たちに大きな不安を与えるだろう。と、雪野がそう言った。
雪野の言葉を考えながら、私がカウンターにもたれて
見渡すと、至る所にカラフルな灯りやリボンが飾られている。
祭り前ということもあり、最近は怪人の数も少ないため、人々の顔にはリラックスした笑顔が浮かんでいる。これらの人々の表情が不安に変わるかもしれないと思うと、思わずため息をついてしまった。
正直に言って、スターリーアイズにはあまり良い感情を持っていない。しかし、魔法省の戦力損失が街の混乱を引き起こすと、私にとっても利益にはならない。行動が楽になるかもしれないが、怪人が街に損害を与えるのを見るのは望んでいない。
それに、私の知る限り
店内で流れるBGMがちょうど一区切りついた時、入口の鈴が再び鳴り響いた。
「...いらっしゃいませ。」
ドアが開く音に気づき、もともとだらけた気分が一瞬にして緊張感に包まれた。
入ってきたのは一人の少女だった。紫色に染めた髪、かすかに見えるイヤリング、パンクスタイルの服装。彼女は入ってすぐに店内を見回し、笑顔を浮かべながらカウンターへと大股で歩いてきた。
「よっ、久しぶり。まさか本当にここで店員をしているとはね。いい店だ。」
「リコシェ。なぜここにいる?」
リコシェは肩をすくめた。
「何って、もちろん用事があって来たんだよ。」
「どうして私がここにいることがわかったの?」
「あたしは人探しが得意だからさ。」
リコシェは慣れた手つきで自分のジャケットの内側を探った。彼女がタバコを取り出そうとしていることに気づき、私は彼女の肘を押さえて止めた。
「ここは禁煙だよ。それで、何の用事?端的に言って。」
「せっかちだね。いいよ。」
リコシェの笑みが深くなった。
「取引しよう。」
「取引?」
「そう、取引。正直言って、あたしの弾薬もそろそろ底をつきそうなんだ。ちょっと分けてくれない?」
リコシェの言葉に、私は一瞬反応できなかった。彼女は私が返事をしないのを見て、胸の前で指で円を作った。
「もちろん、値段は相談しよう。損はさせないぜ。これでどう?」
リコシェは紙切れを差し出した。私は想像以上に高い価格に眉をひそめた。
「…ここは本屋だ。
「知ってる、知ってる。あたし、口は堅いから。安心しもていい。」
突然の事態に、私は頭を抱えた。
「そういう問題じゃない。それに君自身もコネがあるじゃないか。どうしてわざわざ私のところに来たの?」
「最近建国祭が近づいているから、魔法省や警察たちが神経質になってるんだ。あたしがよく知っている売り手たちは、そんな状況で姿を消してしまったんだ。だからこそ、あんたのところを思いついたんだ。同じ銃を使う仲間として、少し分けてくれないか?」
リコシェは手を合わせて、上目遣いで私を見てきた。
「ねえ、頼む。」
「断る。そういう商売はしていない。」
「そう言わないでよ。あたしたち、どんな仲だったか忘れたの?」
リコシェは身を寄せて、私の胸に指で円を描き始めた。
「ちょっとだけでいいんだ。ちょっとだけで、この期間を乗り切れればいい。」
私は彼女の手を払った。
「ダメだ。君がそのものを何に使うかわからないし、もし殺人の共犯者になったら困る。」
リコシェは私の言葉を聞いて最初は少し驚いたように目を見開いたが、その後肩をすくめて苦笑いを見せた。
「これらは自衛のために使うだけだって保証するよ。あんたが心配しているようなことには使わない。もし発砲するとしても、怪人にだけだ。」
「口約束じゃ何も保証されない。」
「頑固な奴め。」
リコシェは少し考え込んだ後、指を鳴らした。
「それじゃあこんな提案はどう?非殺傷性のものをいくつか譲ってくれたらいい。これであんたが心配していることは起こらず、あたしも自衛のための道具を手に入れられる。あるよね?煙玉。それがあれば、戦闘を避けることもできる。知っての通り、あたし、外では敵も少なくないからね。」
「はあ…それくらいなら。」
「取引成立だね。とりあえず、煙玉を2、3個くれ。」
リコシェは嬉しそうにジャケットから札束を取り出したが、私は手を伸ばして彼女を止めた。
「待て。私は武器を売っているわけではないから、今回の取引で金は受け取らない。」
「ふむ?なるほど、
「スターリーアイズ。あいつがどこにいるか知りたいんだ。」
その名前を聞いて、リコシェは片眉を上げ、口角をわずかに持ち上げた。
「ほう、スターリーアイズを探すのか。なに?彼女と決着をつけるつもりかい?」
「誤解しないで。ただ、スターリーアイズが魔法省と連絡が取れなくなっているって聞いたから、少し気になっただけ。」
「…ちょっと確認させてくれ。まさか、奴の安全を心配しているわけじゃないよね?前回、奴に傷つけられたじゃないか。どう考えても、あんたがスターリーアイズを心配する理由が見つからないんだが。」
「別に。魔法省の戦力が損なわれるのも、私にとっては良くないから。」
「ふーん。まあ、いいだろう、奴を探してみるよ。ちょうど、あたしにも彼女と
「ほどほどにね。私はスターリーアイズと戦うつもりはない、ただ彼女の居場所を知りたいだけだ。」
「りょうーかい。今のあたしは戦う余裕もないし。」
「ならいい。報酬は先に渡しておく。一週間以内に集めた情報を報告して。」
「はいよ。あたしに任せて。」
こっそりとテーブルの下でスキルを発動し、いくつかの煙玉をリコシェに手渡した。罪悪感に苛まれる私とは対照的に、リコシェは慣れた手つきでそれを袖に隠した。
「ありがとう。これで建国祭を何とか乗り切れるだろう。やっぱり世の中、信頼できる友がいてこそだ。そうだろ、戦友?」
満足そうな表情を浮かべて、リコシェは笑いながらカウンターを越えて私の肩に手を置いた。彼女からはタバコとリンゴの混じった匂いが漂ってきた。私はため息をついて、彼女の手から一歩後ずさった。
「私、今は仕事中だから。」
「まあまあまあ。そんなに冷たくしないでよ。どうせ今店には誰もいないし。」
「っ…おい!」
リコシェはいたずらっぽく何度も手を私に伸ばしてきた。
「はは。よいではないか?」
私は彼女の手を払いのけ続けた。苦戦していると、再び店のドアの鈴が鳴った。
「もう!…んんっ、いらっしゃいませ!」
「ごっめん、さっき時間の約束をするのを忘れて...ん?」
リコシェの抱擁を避けてドアを見ると、雪野がドアを押し開けたまま目を見開いていた。猫のような目をした少女の眼差しはすぐに鋭くなり、長いポニーテールを揺らしながら素早く近づいてきて、リコシェの肩を掴んだ。
「すみませんが、私のサヨさんに何をしているんですか?彼女が困っているのが見えないんですか?」
「あぁ?あんたのサヨ?何様のつもり?引っ込んでな、脇役ふぜいが。」
リコシェは笑いを止め、不良のような表情を浮かべて雪野の手を振り払った。雪野の顔の表情は冷たさを超え、まるで吹雪のようになった。
お互いに威嚇しあう二人を見て、私が頭が痛くなるのを感じた。
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