第40話 乱戦
怪人はやっぱり謎が多い。敵に囲まれた中で、不適切ながらもそんなことを考えてしまった。
起源や構成物質、行動原理など、すべてが謎に満ちている。これらの謎は、より高等な怪人になるとさらに目立つ。高等な怪人は明らかに文明と関係した特徴を持ち、流暢に答えることができる。彼らは人間に近い外見をしていて、自分の執着や主張まで持っている。時には、自分の名前も持っている。
まるで人間みたい。
違う高等な怪人が示す特徴は、研究価値があると思う。例えば、彼らの武装や服はどうやって生まれたの?体の一部と考えていいの?それと、いわゆる固有能力について、重複することはあるの?発生する基準はあるの?それに、前にテールコートを着た奴が最後に言った言葉、怪人にも心があるのか、それともそれはただ私を惑わす言葉なのか?
「まずは私から動こう。出口をしっかり守って。」
「ああ、わかった。」
大男に簡単な指示した後、美しい女怪人が刀を持って私たちの前に立った。彼女が放つ悪意と圧迫感に、私は思わず下唇を噛んでしまった。
見た目は、簡単に言えば「男装麗人」だ。凹凸のある体型にきれいに仕立てられた灰色のスーツ、半閉じの目と刀を持つ姿勢が、刃のような雰囲気を出している。とても人間に近い外見に、一瞬だけ物好きが怪人を自称しているのではと疑ったが、魔法少女としての本能と相手から溢れる黒い魔力が、それが倒すべき敵だと警告していた。
よく見れば、怪人特有の、人間にはない特徴も見える。
例えば目。半閉じではっきり見えないが、よく見ると、その瞳はトンボなどの昆虫のような赤い複眼だった。
手に持つ武器も相手の異常さを物語っている。昆虫などの生物を圧縮して作ったかのような刀は、生き物のように微かに脈打っていた。
相手静かには立っているように見えるが、私は自分と怪人の間に張り詰めた線があることをはっきりと感じていた。
怪人を中心に、透明で、見えない、呼吸のように拡大縮小する円が広がっているようだ。十中八九、その透明な円が怪人の攻撃範囲だ。
怪人は動かない。ただ静止して、構えを保っている。
少しずつ足を動かして、私はリコシェを怪人から守るように自分を位置づけた。
「立てるか?」
「多分大丈夫だけど、まだ少しめまいがする。ちくしょう、あの爆弾がなければ...」
後のリコシェはまだ爆発の衝撃から完全に回復していないようで、その重い息遣いが耳に入ってきた。
「とりあえず、回復に集中して。こっちは何とか抑えておくから。」
冷や汗が頬を流れるのを感じ、私は思わず唾を飲んだ。
おそらく割れたワインのせいだろう。何かが滴る音が私の耳に届いた。その瞬間、目に見えない、張り詰めた線が切れたことをはっきりと感じた。
怪人の足元の透明な円の境界が、瞬時に私の足元に達した。
「まずい…っ!」
「
男装の麗人がささやき、放たれる魔力が手に持つ刀に集中した。
「『
一瞬にして、巨大な昆虫が翅をたたくような音が響いた。
いや、それは怪人が刀を抜くのが速すぎて、空気と衝突した音かもしれない。
直感に従い、私はすぐに地面に伏せた。轟音と共に、何かが飛び越えた感じがした。まるで、猛スピードの列車が頭上を通過したようだ。
「っ!」
背後から巨大な衝突音がした。でも振り返る間もなく、冷たい刀の先が再び襲ってきた。怪人の突きに対し、急いで体を反転させて避けた。側に転がりながら、私は拳銃を取り出し相手に向けて撃ったが、相手は体を横にして弾丸を避けた。
距離を取り直し、私は拳銃を構えた。どうやら
「ふーん。あなた、初見なのに私の技を避けたわね。」
男装の麗人がゆっくりと刀を鞘に収めた。
「運が良かったのかしら。いや、直感が鋭いのね。一歩下がれば避けられるという偽装をしていたのに、それが見抜かれた。彼が選んだ敵に相応しい。歯応えのある相手みたいね。」
「あの円、やっぱり罠だったのか。」
「ええ、そうよ。」
「…最初に偽の情報を出して、攻撃の距離を延ばして相手の判断を誤らせるってわけ。ずる賢い手口ね。」
「戦いの中では、そんな程度のやり取りは当たり前よ。」
男装の麗人は微笑みを浮かべた。
「剣の先、視線、足取り、間合い。私の主人が言っていた、戦いは踊りのようなもの。互いにリズムと距離を探り合い、相手に合わせつつも意外な一手を狙う。あなたがお踊りの基礎があることを証明した。褒めてあげる。」
怪人は再び体を低くして、居合の構えを取った。私も相手の動きに合わせてナイフを取り出し、拳銃を持つ手の下に構えて迎撃の姿勢を取った。
「それで、次にどう踊る?『
「……っ!」
目の前にいた怪人が、霧のように消えた。代わりに、背骨から脳にかけて鋭い電流のような感覚が走った。背後に微かな気配を感じ、急いで振り向いた。
女怪人がすでに私の背後に回り込んで、袈裟斬りで刀を振り下ろしていた。
限界の時間の中で、私は必死にナイフを振り上げ、斬撃の軌道に入れた。銀色の刀と私のナイフがぶつかり合い、耳障りな打撃音を立てた。
「くっ。」
「まだ終わってないわよ。『
気が付いた時には、まるで粘着性があるように、相手は刀の方向を変え、刀の側面で私のナイフを軽くはじき飛ばした。怪人は一瞬で私の胸に飛び込み、鎌のように二方向に分かれた斬撃を私に向かってきた。
「ストレージ!十三番!」
空中に現れた大きな盾が、交差する斬撃を防いだ。盾が視界を遮ると、怪人のつぶやきが再び耳に入った。
「『
「っ!」
空中の大盾を素早く掴み、足を固めて盾に肩を当てた。
巨大な衝撃が伝わってきたが、私は歯を食いしばって盾を支えた。
まるで巨大な昆虫の口器が盾に噛みついたようだった。錬金で強化された金属の盾が不快なギギギという音を立てた後、瞬間的にねじれた。
衝撃が過ぎ去ると、もともと盾があった場所を境に、地面に何かに引っかかれたような深い傷跡が残った。
私はねじれた盾を捨て、再び視界に現れた怪人は驚いた表情を浮かべていた。
「予想より硬かったね、あの盾。盾ごと噛み砕くつもりだったのに。」
「特別に強化してあるのよ。壊されたことがあってね。」
「なるほど。」
怪人は自分の顎を撫でた。
「これは面白い。どうして彼があなたにそんなに執着しているのか、理解できるわ。最初はちょっと味見しようと思ってたけど、今は私も火がついちゃった。」
男装の麗人の言葉を聞いて、出口を守る大男をちらりと見た。その男は依然として口を閉ざしたままだった。
「『彼』って誰のこと?私に執着してるって、どういうこと?」
「彼は彼よ。今は名前がないから、彼。まあ、彼のことは今はどうでもいいわ。」
目をギラリと開き、怪人の昆虫のような複眼が赤く光った。
「もう、優雅に踊る気はないわ。思いっきり噛み砕いて、
大上段の構えを取り、怪人の笑みが深まった。彼女を取り巻く気配と魔力が濃厚で重くなった。その様子を見て、私の全身に警報が鳴り響き、血が引いていく感覚が明らかになった。
「行くよ?全力で...」
「遊びすぎだ。」
私が相手に集中して、怪人からの攻撃に備えていると、太い手が男装麗人の刀を掴んだ。渦巻く魔力も突然、消散してしまった。
「ここで魔力を解放するなて約束していたはずだ。魔法省の注意を引いてしまう。」
私を無視し、男はがらがらとした声で男装の麗人に言った。
「…私の刀から手を離してくれる?他の人に触られるのは好きじゃないの。」
「わかった。」
男が刀から手を離すと、女怪人はため息をついた。
「ごめんね。さっきは興奮しすぎで、危うく私たちの居場所をバラしてしまうところだった。」
「構わん。」
「それじゃ、もう一度やり直そう。魔力の使用を最小限に抑えること。時間がかかるサヨナキドリは後回しにして、弱っているリコシェから始めましょう。」
「...っ。ナメやがって!自分たちが優勢に立ったと思っているのか?手加減しているときにあたしを倒せるとでも?」
激昂したリコシェがフラフラと立ち上がり、手に持っていたリボルバーを構えた。
「あら。事実だもの。今立ち上がったとしても、生まれたばかりの子鹿みたいに震えてるじゃないか。」
男装麗人が上品にクスッと笑った。
「心配しなくても、すぐに家族のもとへ送ってあげる。」
「何を、言っている?」
リコシェが聞いた。彼女の怒りに満ちた表情が突然消えた。その問いに対して、男装の麗人は笑顔を一層深めた。
「聞こえなかったの?可哀想なひとりぼっちのリコシェちゃん。家族全員が5年前のブラックホール事件で亡くなったよね。前回は送り損ねたけど、今回はあなたを彼らの元へ送ってやるよ。」
「...っ。......っ!」
リコシェの体から高まる魔力が渦を巻き、彼女の足元にはまるでルーレットのような魔法陣が浮かび上がった。
「やめろ!彼女に挑発されるな!」
止める間もなく、紫のルーレットの模様は拡がりを見せた。リコシェの瞳はまるで炎を宿しており、声帯を裂くかのような勢いで、少女は魔法のキーワードを叫んだ。
「
「そうだ!その調子で!第二ラウンドを始めよう!」
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