第20話 轟く星

「私が君の先輩の心を乱す存在、だと言うのか?」


「そう。先輩。魔法少女スノーランス。カッコいい、しっかり者、凛々しい、可愛くて強い。みんなの憧れ。」


「はぁ。」


「でも最近、よくぼんやりしていて、時折バカな笑顔を見せる。突然恋愛小説を読み始めたり。普段は仕事以外ではあまり衣装に気を使わないのに、プライベートではデパートのファッションコーナーをウロウロする。」


少女の口調が重くなった。


「それに、今は口に出すことがサヨナキドリばかり。」


「は、はあ。」


「サヨナキドリの見た目が可愛い。サヨナキドリの戦闘スタイルが素晴らしい。サヨナキドリ、サヨナキドリ、サヨナキドリ。」


少女の身に纏わる魔力の濃度が一段と高まった。


「私には理解できない。一体、あなたのような法外な魔法少女に何がいい?」


「そう言われても。自分のライバルが少し気になるのも普通だろう。」


「そんな程度じゃない。先輩の顔を見る時、まるで…まるで…っ!」


少女の魔力が再び高まった。周りの空気が重さを帯びて圧迫されるような重苦しさが広がった。


「先輩をあんな表情にさせた奴は許せない。」


「…それは八つ当たりでは?言っておくけど、気持ちが乱れているのは私だ。奴はいつも意味不明なことを言っている。」


「…いつも?つまり、あなたたちは密かに連絡を取り合っていたの?」


「あ。」


スターリーアイズの身に湧き上がる魔力が一瞬で静まり返った。


「潰す。」


背中に電流が走り抜け、直感に従い横にかわす。一筋の閃光が私のいた場所を通り過ぎる。閃光と共に煌めく魔力の光が空間を伴った轟音と共に爆発する。


「っ…」


「照準!拡張!概念二重拡張!概念三重拡張!」


「退避!退避!スターリーアイズが本気になった!全員退避!」


警察の慌てた声が聞こえる中、体を刺すような魔力が周りを包む。十字のように点滅する光が重なり合い、地上に銀河が形成される。そして私は気がついた時には、自分自身が渦を巻く銀河の中心になっていた。色彩豊かな光の点が夢幻的な景色を作り出すが、私の直感は警鐘を鳴らしていた。


「ストレージ!格納庫十三番!」


異空間から大盾を取り出すと同時に、目の前の魔法少女の目が一瞬にして大きく見開かれた。星が凝縮された瞳がまるで一等星のように輝いていた。


「シュート!」


轟音。


豪雨のような砲撃が襲ってくる。


巨岩が衝突するかのような激しい衝撃が、大盾を介して伝わってきた。私は体を縮め、盾に対して肩で力を入れて耐える。


続けざまに襲い来る、体が麻痺するかのような強烈な衝撃に、思わず歯を強く噛み締めた。点滅する光の中、全身の筋肉に力を込めて動かし始める。床を突き破るかのような勢いで、大盾を前に押し進めた。


ピシッ。


爆音が鳴り響く中、細かく澄んだ音が唯一、私の耳に届いた。直ちに、手に持つ大盾を放り投げた。特製の大盾は既に高熱で溶け歪んでいたのだ。


私は身を低くして前へと突進し、地面と自分の顔との距離をわずかに拳一つ分に保ちながら、前方へと進んだ。視界の隅で、大盾が光に呑み込まれ消え去るのを見た。


斜め上を睨むと、スターリーアイズとの間の距離を数歩分と目算した。相手の無表情だった顔に、突如として驚きの色が浮かび上がった。


カウントダウン、五歩。


顔を横に振って迫りくる魔力の砲撃をかわしながら、身体を低く保ち猛進する。爆発によって舞い上がった砕けた石が私のほおに引っかかる。


四。


身を前方に捻って、下半身に向かって放たれる砲撃をかわした。転がる勢いを利用し、再び歩を進めた。


三。


二。


Zの字のような身のこなしで走り抜け、私は左右から襲いかかる二つの砲撃を避けた。


一。


跳躍し、身体を回転させて建物の壁に蹴りを入れる。スターリーアイズは抱いていた妖精を放り投げた。少女の双眼の輝度が再び増す。


「爛き…」


「遅い!」


ゼロ。


空中で、私の左拳が少女の顎に当たった。少女の目に集まっていた魔力の光が霧散する。足でスターリーアイズの体を掴み、私は彼女を抱きしめながら地面へと落下した。


「カッアッ!」


激しい衝撃が地面に蜘蛛の巣のような痕を刻んだ。私に押し倒され、スターリーアイズは必死に視線を私に集中させようとする。私は至近の砲撃をかわしつつ、彼女の胸元に一撃を加えた。


気絶した少女を見つめながら、私は思わずため息をついた。








「さすが我が君。雑光ざっこうなんか、君に勝てるわけがない。」








悪寒おかん


びっくりして振り返ると、黒い霧を放つ扉が目の前に現れた。


テールコートの怪人が優雅な足取りで扉から歩み出た。彼女は手を伸ばして露わになった胸元に触れた。まるで形状を確認するかのように、細い指先が胸元の黒い穴をなぞった。彼女は黒い液体にまみれた指を伸ばし、うっとりと自分の唇に塗り広げた。


黒い笑みを浮かべ、G.ラポスは両手を開いた。


「おいで、我が君。アンコールの時間だよ。」

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