第13話 夜の死闘

巨大な斧がコンクリートの壁を擦る音が響き、私に向けて横断するように振り抜かれた。死を呼ぶような風を感じながらも、私は身を低くして前へと進み出た。一歩踏み込んでミノタウロスの怪人の腕をすり抜け、手にしたパイルバンカーを巧みに彼の腹部へと突き付けた。


ドカン。


短く鋭い機械音の後に、爆発音が小路を揺るがせた。怪人の体が衝撃でわずかに弓形に曲がり、その両足は地面から持ち上がった。私は全力を込めて前進し、鉄の杭を相手の体に深く打ち込んだ。


「ガァアアアアアアアッ!」


怪人が叫びを上げた。その声は、怒りの怒号なのか、絶望の悲鳴なのか判別がつかないほどに耳をつんざく。彼はその手に握った巨大な斧を力いっぱい振り下ろしてきた。


側に身をかわしつつ、私はパイルバンカーの機構を引っ張った。


カチャッ。


高温で真っ赤に熱された薬莢が、機構から飛び出してきた。空を切った斧は、地面を力強く突き刺し、破片と煙塵を巻き上げた。私は、地面に深く突き刺さった斧を踏みしめながら、怪人の腕を蹴り台にして彼の肩へと跳び移った。


今度はパイルバンカーを怪人の頭に押し当てた。


「危ない!『開け』!」


「…っ!」


足元がじわりと沈む感触を覚えた瞬間、私は反射的に後ろへと跳ねた。逆さまになった視界の中で、地面に突如として現れた巨大な扉が、ミノタウロス怪人を一瞬にして飲み込んだ。


テールコートを纏った怪人が軽く指を弾くと、彼女の背後にまたもや金属製の大扉が静かに開いた。地面に足を着地させると同時に、ミノタウロスは腹部の傷を手で抑えつつ、その扉から姿を現した。


怒りに燃えるミノタウロスの視線と咆哮に包まれながら、私はテールコートの怪人を睨みつけた。


「貴様っ。」


「さすが輓歌の姫君。戦闘が雲のように流れ、優雅に舞うかのようだ。紙一重の回避の後には、正確かつ必殺の攻撃が続く!どれほどの度胸だ!ああ、こんな貴重な光景は記録されるべきだ!こんな演技を特等席で見ることができるなんて、この世界に来て良かった!」


「少し厄介だね。」


Qは私に囁いた。


「ああ、手強い。」


私は小声で答え、パイルバンカーを再び構えた。


基本的に、ミノタウロスの怪人は巨大で強力だが、スピードは対処可能な範囲内にある。


問題となっているのは、後方に構えるテールコートの怪人だった。


ミノタウロスに致命的な一撃を加えようとするたび、彼女は先程見せたテレポート能力を持つ扉を駆使してミノタウロスを別の場所へと移動させる。さらに、テールコートの怪人を直接攻撃しようとすると、ミノタウロスがまるで盾となって彼女を守り抜く。この二人の組み合わせは、完璧な前衛とサポートのタッグのようだった。このように連携を取る怪人たちを打ち破るのが、こんなにも難しいとは思わなかった。


でも、わかったものがある。扉の開閉速度は大きさによって決まる。扉が大きければ開くのに時間がかかるが、テールコートの怪人がキーワードを言った場合は速度が加速する。そして、約十秒ほどのクールダウンがある。詠唱があればクールダウン時間が短縮される。転送の距離はまたわからない。扉の向こう側にどんな結果が待っているのかは考えたくない。飲み込まれないように注意が必要だ。


「もう少し見せてくれ!踊り続けてくれ!輓歌の姫君よ!僕たちとの共演を続けてくれ!クライマックスだ!『ああ、君の人生には光は不要だ。闇に包まれて、僕と共に来い。僕たちは一人で、闇の中で共にいよう。』」


「来る!全方位の魔力反応!」


Qの叫び声と共に、電撃が背中を貫くような激痛が走った。直感に従い、前方へ転がり回避すると同時に、「パン」という鈍い音が響いた。


何か重たいものが、私が先ほどまでいた場所を直撃したのだ。頭を持ち上げて辺りを見渡すと、四方八方に大小様々な扉が出現していた。いくつかは空中に浮かび、他のいくつかは路地の壁から突如として生え出し、またいくつかは地面にぴったりと密着しているようだった。


視線を遠くにやると、太い腕が巨大な斧を握り締め、開かれた扉の中へとゆっくりと引き込まれていく光景が目に飛び込んできた。


「っ!」


ミノタウロスが直接扉を通じて攻撃を放ってきたことを察知し、私は下唇を噛んでしまった。


テールコートを纏った怪人は、まるで指揮者のように両手を高く振り上げていた。ミノタウロスは一声、轟かせるような咆哮を上げ、目の前に立ちはだかる扉に向かって次々と激しい攻撃を仕掛けていった。


「『顔をぎらつく昼の光からそむけ。』」


「『冷たい無情な光から想いをそらせ。』」


「『目を閉じて、最も暗く深い夢の中に身を委ねよ。』」


私を包み込むのは、暴力によって奏でられた嵐だ。


周囲の扉から、乱暴な攻撃が容赦なく押し寄せてくる。直感を頼りに、視界外から飛び交う乱雑な一撃を何とか避ける。


横に大きく身を捻り、転がり、そして高く跳躍する。耳には歌声や咆哮、そして周囲の建物が壊れる音が響き渡る。


停滞したような時間の中で、冷たい汗が頬を伝い落ちるのを感じた。


身体をかすめる破片の飛散を感じながら、私は自分の激しく鳴り響く心臓の鼓動に気づく。


「『そして耳を傾けるのだ、夜の調べに。』」


私は斧の横払いをかわし、体を跳び上げる。空中で回転する間に、地面が突如として巨大な扉となった。その扉は大きく開かれていた。中を見ると、ただただ無尽蔵の、全てを飲み込むような暗闇が広がっていた。


「サヨ!」


「…ぐっ!」


体を無理やり捻じ曲げながら、手を伸ばしパイルバンカーを門枠に引っ掛けた。引き金を引くと、その衝撃で門の範囲外へと飛ばされた。


足が地面に触れる前に、直線的な拳が迫ってくる。私はスプリングのように脚を使い、衝撃を吸収しつつ、膝を顎に近づけた。その勢いを利用して、テールコートの怪人に向けて飛び、攻撃の障壁を突破する。加速したまま、パイルバンカーを彼女の胸へと突き刺した。


ドカン。


「あは!さすがわが君!」


酔いしれるように自分の胸を貫いたパイルバンカーを抱きしめ、テールコート怪人の眼に涙が浮かぶ。


「『やはり君だけが僕の歌を飛び立たせる。』」


地面は再び大きな扉となる。私はパイルバンカーを放し、その柄を足場にして隣のコンクリート壁に飛び移る。壁にしがみつきながら、振り返る。地面は元の姿に戻り、ミノタウロスとテールコートの怪人は姿を消していた。暴力によって荒らされた小路だけが残されている。


地面に戻り、私は突然めまいを感じる。ふらりと足を踏み外し、壁に寄りかかって座り込む。


「サヨ、大丈夫?」


「大丈夫。ごめん、あれを倒せなかった。」


「仕方ないよ。生き残れただけでも幸運だよ。致命的な攻撃を受けたのに消滅しなかったから、おそらくA級の怪人だろう。大事なのはあなたが無事ってこと。次は戦略を練ろう。」


「うん。」


私は天空に浮かぶ明月を見上げ、深いため息をつく。


「今、お酒が飲みたいなぁ。」

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