第11話 恐怖とは

恐怖は火力不足から生じるものだ。


現実はゲームとは違い、魔法少女が敵に勝てないからといって撤退したり、やり直すことはできない。突然の状況に冷静に対応し、慌てずにいるためには、事前の準備が重要なのだ。


火力があれば選択肢も広がる。手ごわい敵を倒すこと、やはり少しでも火力があれば安心できる。


例えば、ブレイズエッジから逃げ回る場合でも、またはスノーランスに対処する場合でも、相手を制圧するには大火力が必要だ。


それに、強力な武器を持つことも一種のロマンだろう?


「広場で目標を発見、推定Cランク。警察が周辺を封鎖中。距離は0.8キロ。風向きは南南西。まあ、あなたの手に持っている武器なら、この距離は問題ないでしょう。」


「了解。」


私の耳にQの声が響きました。他の人が見れば、私の肩に止まった真鍮製の小鳥が見えるだろう。しかし、彼らが驚くであろうことは、話すことができるおもちゃの小鳥ではなく、私の手に握られた巨大なものかもしれない。


私の手には、ほぼ私の身長と同じくらいの対物ライフルがある。太く長い銃身の先端には同じく巨大なサプレッサーが取り付けられており、銃身には大口径の魔法弾薬が装填されたマガジンが接続されている。銃全体、ストックを含め、ステルス性を重視して黒く塗装されている。


私は地面に伏せて、ストックを肩にしっかりと押し付けた。スコープを覗き込むと、私は目標を素早く確認した。


「前回はマグロ、今回はサーモンか。寿司コンボだな。周りの監視はお願いするよ。」


「了解。周辺に他の魔法少女の気配はない。いつでも発砲できる。」


私は集中力を高め、指をトリガーにかけた。距離と風の影響を計算しながら、息を殺してトリガーを引いた。


ズゥーン。


鈍い爆発音の後、反動が私の体に伝わる。ボルトを引いて薬莢を排出し、私は狙いを定めたまま姿勢を保った。スコープ内で警察に襲い掛かろうとしていた怪人が粉々に吹き飛ぶのを確認し、私はほっと一息ついた。


「怪人が消滅した。お疲れ、サヨ。」


「ふう。意外と疲れるね。反動も大きくて、魔法少女の身体強化がなければ銃を抑えることはできないかもしれない。改善の余地がありそうだ。」


「でも、これでいいの?遠くから一気に殲滅すると、実験の材料が手に入らなくなるんじゃない?」


「それは仕方ない。前回は目立ちすぎたから、もう少し控えめにしないと。距離が離れれば他の魔法少女には追跡されにくくなるし、直接的な衝突も避けられる。」


「やっぱり前にお店で雪野アリスに会ったことを心配してるんだね。場所を変えようか?」


「…必要ないと思う。彼女は私に気づいたけど、君はまだ見つかっていない。彼女は私たちの拠点がそこだと気づいていないはずだ。急に大きな動きをすると、逆に不自然さを感じられてしまうかもしれない。接触した日の感じからして、通報に走るタイプではなさそうだ。」


「そうなの?相手が次に会いたいって言ってきたから、ちょっとドキッとでもしたのかな?年齢差を考えると、それは犯罪だよ。可愛い女の子に何言われただけで警戒心がなくなるなんて、気持ち悪い。」


「つまらない冗談はやめて。ただ、ちょっとしたことで大騒ぎして引っ越すのは面倒だと思っているだけ。」


「ふん、まあいいや。もし私が寝ている間に捕まったら、絶対に許さないからね。」


「心配しすぎだよ、私には分別があるから。とにかく、移動するよ。周りを観察し続けるように忘れないで。」


「はいはい。」


大きなライフルを分解して異空間に収めると、ため息が出てしまった。


私自身が何を考えてるのか、よくわからない。スノーランスのことだって、もっといい方法があるんじゃないかと思う。気のせいかもしれないけど、お互いに不思議な信頼感が芽生えてきてる気がする。それが心意気を拳で伝えるってやつだろうか。


「…やっぱり、今の若い子たちの考えがよくわからない。」


「何をつぶやいてるかは聞こえないけど、また怪人が現れたんだよ。今度は路地裏。どうする?あのライフルで解決する?」


「いや。人の気配も少なく、まだ警戒網に引っかかってない場所なら、直接行く。最近はサンプル集めのチャンスも少なくなってきて、やっぱり少し補充したいんだ。新しい武器のテストにも材料が必要だから。」


Qの案内に従い、私はそっと路地裏へと降り立った。路地裏のゴミ箱の中の一つが黒い霧に包まれている。ゴミ箱が不自然に動き出し、一瞬で怪人へと変身した。


ナイフと拳銃を手に取りながら、私はゆっくりと状況がまだ把握できていない怪人に近づいた。


次にする作業は簡単だった。


トリガーを引いて、私は拳銃のマガジンを空にした。攻撃を受けて、怪人は倒れ込んだ。私はナイフで怪人の体にくっついてるゴミ箱のフタみたいなのをカットした。怪人はビクビクと泣き喚いた。


「Cクラスかな。見た目はプラスチックみたいな素材だけど、触れると生物のような弾力がある。いいリサーチ対象かも。」


「このプロセス何回見てもキモイわ。」


「キモイと感じるなら見なければいい。周りの安全にちゃんと気をつけて。」


「そういやさ、前から聞きたかったんだけど、なんでそのまま丸ごと倉庫に持ち帰らないの?一個ずつ切り取るのって面倒くさくない?」


「できれば完全なサンプルを持ち帰りたいんだけど、なんでか生きた怪人はストレージに入らないんだよ。だからこの方法しかないんだ。その原理はまだよくわかってない。」


私は怪人の手足のつなぎ目からサンプルを切り取り、怪人はウネウネと不穏に震えた。私はさらに一発撃って黙らせた。分解が終わったサンプルを透明な袋に分けて分類し、異空間の小さな穴にしまった。サンプルはじわりと異空間の中に沈んでいった。


私は黙々とサンプル採取の作業を繰り返した。


「サヨ、気をつけて。何か動きがある。」


私は素早く銃を持ち上げて、振り返った。目の前の光景に、思わず目を見開いた。


暗い小道の壁が一つの豪華で華麗な扉に裂けた。金属でできた扉には悪魔の浮彫が施されている。黒い霧が漂い、扉はゆっくりと開いていく。


出てきたのは、人の形をした何かだった。


優雅なテールコートを身にまとい、その姿は女性のように見えた。鉄灰色な髪は短く耳の高さで整えられており、尖った耳は両側に伸びていた。しなしなとしたトカゲのような尾は振っている。その存在は歩みを進めていき、裸足で黒い煙霧を踏みしめ、つま先立ちで小巷の灰塵まみれの地面に立った。


鱗のある顔が微笑みを浮かべた。


「ああ、初めまして。」


奴は両腕を広げ、まるで帰ってきた恋人を迎えるかのように振る舞った。


「やっとお会いできましたね。輓歌の姫君。」

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