第9話 逃げるは恥だが役に立つ
思い返してみると、この世界に来てから、魔法少女として死の脅威を感じるのは初めてだった。
ほとんどの怪人は十分な準備を経て安全に倒せる。スノーランスからの攻撃もあったけれど、その実力を探り出した後はあまり脅威を感じなかった。
心臓が高鳴り、アドレナリンが急上昇する感覚は、過去にはただの普通の人だった私にとっては久しぶりのものだった。
ああ、戦闘中にこんな些細なことを思い出すなんて、まさに人生の走馬灯というやつなのか。
私は身を乗り出し、縦に迫る炎の刃を踏み外した。回転する景色の中で、切りつけの軌跡に沿って壁には黒い焦げ跡が一筋燃えていた。私は壁に蹴りをつけて飛び出し、横から迫る追撃をまたかわした。
滑らかな連続斬撃が私に迫る。私はそれに合わせて舞い、高熱が髪の毛一本分の差で私の身体を外れる感覚を覚えた。余目で見たマントの一部が灰になり、風に散っていくのが見えた。
跳び上がり、距離を取る。空中で体を回転させ、私は銃を構えた。しかし、相手は私にチャンスを与えない。火炎が形作る刃は、流星のような軌跡を引きながら、銃身をまるでバターを切るかのように二つに割った。
半分になった銃を捨て、私は手のひらに現れた金属の球を相手に放り投げた。
ブレイズエッジは迷わずに球を二つに切り裂き、濃い煙が一瞬にして噴き出した。視界を遮る煙を利用し、私は両手で地面を叩き、口元で短い詠唱を唱えた。
「ストレージ!
カチャッ。異空間が閉じた後、ガトリングの小型砲塔が二基地面に現れた。「ダダダダ」と発砲する音を聞きながら、私は後ろを振り返ることなく反対の方向に駆け去った。
「スフィア。」
ドカン。背後から灼熱の衝撃が襲い、私は慌てて地面に転がった。野球ボールほどの大きさのファイアボールが私の頭上を飛び越えた。後ろを振り返ると、二つの砲塔は斜めに二つに切り裂かれ、切り口が炎を放って輝いていた。
カタッ、カタッ。足音が響く。白金色の魔法少女の姿が煙霧からゆっくりと浮かび上がる。
「あなたの小道具は本当に多いですね。」
「それに比べて君はものすごく殺気立っているね。もしかして、後輩の死体を持ち帰るつもりなんじゃないのかな。」
「ふふ、そんなことありませんよ。ただ、私はあなたを捕まえるためには必要なことを判断しているだけです。」
「言っていることはそうだが、手段はあまりにも乱暴ではないか?」
「まあ、その過程で多少の傷を負うかもしれませんが、あなたを連れ帰って治療する手段はありますから。でも、そこまでやる必要はないと思います。もし一緒に行きたいと思う気持ちがあるなら、いつでも言ってください。」
A級の実力はさすがだ。短い交戦で戦力の差がはっきりと感じられる。
正面からの撃破は困難だろうが、逃げることには手立てがある。
私はマントと体で背後の異空間を隠した。
「…残念だけど、こっちには降参するつもりはないんだ。」
「じゃあ、もう一度遊ぶことにしましょう。」
「私は君と遊び続ける余裕はないけどね!」
冷汗が自分の頬を伝って流れるのを感じながら、私は現れた異空間から特製のパイルバンカーを引き出し、自分の足元に力強く打ち込んだ。ドカンという音が鳴り響き、床からぴったり一人分の通り抜ける穴が開いた。
「さらば!」
自分に向けられた火球を避けながら、私は穴に飛び込んだ。
次の階に降り立ったばかりで、天井が一瞬にして破裂し始めた。炎の光を踏みつつ、ブレイズエッジも一緒に飛び降りてきた。相手が地面に着地する前に、私は急いで窓に向かって突進した。
「正義の魔法少女として、一般市民の器物を壊すことに心苦しさは感じないのか?」
「もちろん感じます。だからこそ、あなたが足を止めるのなら助かるんですが。」
「それはできない相談ね!」
再度劍の嵐が巻き起こり、私は慌てて身をかわす。斬撃の隙間を狙って反撃しようと銃を撃つが、すべての弾丸が当然のように阻まれてしまう。くそっ、この奴もスノーランスも、弾丸を防ぐのが魔法少女のスタンダードスキルなのか?
頭を振る間もなく、私は身後に閃光弾を投げ、ガラスを突き破って飛び出した。落下中、私は足元に小さな異空間の穴を開けた。水中に落ちるような上下逆さまの感覚を経験し、私は固い地面に重々しく着地した。
「あいたたた…」
「おお、無事に逃げ帰ってきたのか。一瞬、どうなることかと思ったよ。」
地面に仰向けになっていると、Qの顔が視界に入った。
「ギョーザでも食べる?冷凍のはあるけど。」
「…食べる。」
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