第2話

 暗い部屋で、こそこそとねずみが歩いている。ぼくはゆったーり息をして、物を書く。どうして君たちはそんなに焦って、世界の終わりを見たがる? ぼくはきっと知者だ。ぼくのほうが君たちより賢い。そして、愚者に語りかけるぼくは、一つの彗星になっているのだ。


 こんなことを書いたところで、君たちは笑うだろう?

 そして、みんなこんな感じに、滑稽な役を担っているのだ。それが、ぼくたちなんだ。つまるところ、必死に仕事をして、何ももらえないようなものかもしれない。ぼくのやっていること、それは無駄なこと。ぼくはゴロワーズを吸う。そしてコカ・コーラを飲みながら、ネットを漁る。

 アノニマスとコンタクトを取る。ああだこうだ、いろいろな情報を貰う。ぼくは記事を書く。アノニマスの連中は暇なやつらだ。だから正義を振りかざす。

 ぼくも同じだ。同じように暇だから、街頭で演説をする。

 パソコンに、だらだらと文章を打ち込む。そして出来上がった文章を見て、うーーーん、とうなってみる。そして、アドルフに連絡を入れる。

 

 総理大臣が打たれた記事を書いていた。打った犯人は何者なんだ。いろいろな組織が絡み合い、秘密結社のようなものまでできているじゃないか。どんな記事にまとめて、金を稼ごうか。

「アドルフ、君はいま何をしていた? ぼくはせこせこと仕事をしていたよ」

「やあ、君ってやつはどうして仕事ばっかりしているんだ? もっと楽しめよ、人生を」

「そんなこといったって、やることがないんだ。だったら、金のことを考えていた方がいいだろう」

「君の生活はとても文学的だ。そして、いつか君はどこかで野垂れしぬ。それが宿命ってやつさ。わたしはよくよく考えた。やはり君とはうまがあう」

 ぼくはゴロワーズをふかした。それで、気味の悪い写真を眺め始めた。携帯をほっぽりだした。汚くなった本カフカの「変身」を読み始めた。もうカフカはぼくを理解している。カフカはぼくの神だ。


 それにしても、自由に生きて、何もかもしてきた気がする。考古学者の一面もある。まず資料を整理し、文献を分ける。そして一気に羅列させる。どうあがいたって、ぼくは仕事をする宿命なんだ。

 ところで、このところ、隣にくる子猫は何なんだ。「君はなんなんだね?」ときいても、子猫はにゃー、しか言わない。にゃー、だけで世界を構築しているなんて、なかなかやるじゃないか。

「ぼくも言ってみようか。にゃー」

 それから二時間は仕事に浸った。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る