グレイブライド

@8036459039

第1話

「ハァ…ハァ…」

吹き荒れるは猛烈な粉塵。

正しく平等に降り注ぐ耐え難い熱波。

命からがら逃げ出し、今は遠くから聞こえてくる凄まじい怒号と、鳴り止まない剣戟の音を背中に絶えず受けながら、ニーマは荒廃した砂漠地帯を彷徨っていた。

皮膚は爛れ、喉は渇きに張り付き、骨は何本折れているのかすら分からない。身体中に刻まれた裂傷から血が滴り落ち、砂漠に一筋の軌跡を作っていた。いっそこのまま死んでしまった方が楽なほどの痛みと絶望がニーマを蝕む。13歳が背負うにはあまりに重い運命であった。

それでもニーマは生にしがみつく。


こんなところで死ぬわけにはいかない。

泥水を啜ってでも生きなければ。

僕にはその義務がある。

でなければ、あの地獄から逃がしてくれた兄の優しさが、勇気が、覚悟が全て無駄になる。

生きろ。

何をしてでも生き延びろ。


折れた足を引き摺り、霞む目で前を見据え、時に這いずりながら、気力だけで生への道を探す。

しかし。


「ハァ…ハァ……あっ…」

とうの昔に限界を迎えていたニーマの身体はグラリとバランスを崩し、重力に引かれるまま砂と密着する。

動けといくら念じてみても身体は一切言うことを聞かず、先ほどまで切実であった痛みも徐々に薄れてゆく。

次第に視界に膜が張ったように景色がぼやけ、意識が朦朧としていく。


ごめん、兄さん…

約束、果たせそうにないや…

もし生まれ変われるのなら…

呆れるほど平和な世界で、兄さんと二人で幸せになりたいな…



-数日後-

「師匠。えらい小さい女の子が倒れてますけど、どうしますか?」

「助ける以外の選択肢があるか?幸い今日の成果は上々だ。ダイ、その子を拠点まで連れて戻るぞ。」

「…相変わらずのお人好しですね。正直8割死んでると思いますけど…。…分かりましたよ、っと」



一人の武人が従えるはこの国の未来。

潤沢な人材に胡座をかき、贅の限りを尽くす己の日常を維持することこそ善とし、悪政虐政苛政暴政圧政の限りを尽くす暗君に反逆の矢を立てる希望。

これはそんなヒーローが立ち上がり、民の信頼を得て、革命を起こし、そして世界で一番幸せになるまでの物語。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

グレイブライド @8036459039

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ