第14話 『モアベス』その6


 『シューベルト先生。』


 呼び掛ける声がしました。


 シューベルト先生は、目を覚ましました。


 『おや、独房さんでは、ないですね。』


 『モアベスと言われます。人類には。本名は、ありません。』


 『ああ。ついに、食べに来ましたか?』


 『さよう。』


 『お待ちしていました。モアベスさん。ぼくは食べても良いが、ぼくは、真実を知りたいのです。地球が、なぜ、滅んだのか? なぜ、美しい自然を失くしたのか。どのようにして、滅んだのか、を。』


 『ほう。知って、どうしますか?』


 『子供たちに知らせたい。真実を教えたい。』


 『なぜ? 知らなくてよいこともあります。』


 『地球は、みんなの故郷です。どうなったのか、人類は知るべきだからです。』


 『ふうん。地球人は、わたしの食糧です。食糧が真実を知る必要はない。』


 『そんなことは、ありません。なぜ、自分が食糧になるのか、子供たちには、知る権利があります。それを拒否するのは、あなたの独善です。』


 『独善とな。人類は、食糧に説明したかね?』


 『いえ。人類は独善です。しかし、なぜ、あなたが、人類と同じ必要がありますか? 偉大な、モアベスであるという、あなたが。』


 『はあ? ははははははは。シューベルト先生。人類は、確かに優れているところはある。そうだな。人類と同じにされては困るな。よかろう。しかし、真実を知っても、地球に伝える手段はない。それは、どうします? あなただけ知ることに意味があるかね?』


 『ぼくを食べた代償に、子供たちに、伝えてください。真実を。』


 『はははははははは。あなたは、もう、真実を知ったのです。それ以上、犯人に、真実を、地球人類みなに話せというのかな?』

  

 『あなたが、犯人ですか?』


 『ふうん。シューベルト先生。あなたは、じつに、ストレートな人だ。権謀術数が好きな、地球人類には珍しい。しかし、あなたに、なんの価値がある? わたしにとって、なんの利益がある? あなたを食べても、あなたが、お団子、一個食べるより、わたしには利益が少ない。わたしに、ほかに、なにをくれる?』


 シューベルト先生は、それで、考えました。


 たしかに、むちゃくちゃな話しかもしれない。


 相手を高く買いすぎたかもしれない。


 モアベスは、たんなる、捕食者にすぎないのかもしれない。


 自分が描いてきたのは、幻想と妄想だったかもしれない。


 しかし、それだけのために、命をかけたのだろうか。


 いやいや、なにか、違う。


 『そうですね。すべては、夢に過ぎないのかもしれませんね。あなたは、ただの、モアベスさん、ですね。しかし、わたしは、命をかけてきたのです。真実のために。あなたのほかに、いったい、だれが、真実を知っていますか? いまの地球人類に、真実を知っている人がひとりでも、あるのですか?』


 

     -○○○―


 


 

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