第11話 『モアベス』その3


 シューベルト先生の独房は、エウロパの深い海をひたすらさ迷っていました。


 特に動力がついているようではなくて、海流のままに、上がったり沈んだりしながら、ひたすら放浪しているようでした。

 

 周りを照らす照明もあるのですが、節約のため、1日、地球時間、15分だけに限定されていました。


 また、どういうしくみかは分かりませんが、独房はAIさんで、独自に生きていて、つまり、自らエネルギーを生み出して、電力などを作り出しているらしく、ついでに、簡素な食事も飲み物も作ってくれるのです。


 さらに、話もしてくれるのでした。


 『シューベルト先生、ここは、一応安全です。ただし、モアベスさんが、先生を食べようとしたら、それまでです。ただし、モアベスさんは、知的ななにかなので、食べる前には、必ず話し合いに来ますから、食べに来ても回避する手だてはありますよ。仲良くなれば良いのです。』


 『ありがとうございます。ときに、モアベスさんとは、なんですか?』


 『わかりません。身体がない知的ななにかです。地球人には、理解不能です。』


 『身体がないのに、食べるのですか?』


 『まあ、それすら、たとえです。しかし、食べられると、あなたは、いなくなります。エネルギーに変換されるのでしょう。観測できないエネルギーです。』


 『ダークマター、とか、ダークエネルギー、とか?』


 『たぶん、そうです。』


 『ぼくは、隠されている地球の辿った運命を知りたいのです。モアベスさんは、知っているのですね。』


 独房さんは、しばらく置いてから答えました。


 『はい。そう、思いますが、これまで、それについて、誰にも話したことはありません。』


 『直接話せますか?』


 『まず、モアベスさんから、声がかかるまで、待たなくてはなりません。あとは、あなたの、運次第です。』


 『この海に生き物はいますか?』


 『いるはずですが、なぜか、出てきません。』


 『ふうん………』


 エウロパの海は、ひたすら、深く暗く、なぞに満ちていました。


 シューベルト先生は、あまねく、漂ったのでした。


       👾


 


 

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