第9話 『モアベス』その1

 『シューベルト先生、さようなら。さようなら……』


 しかし、宇宙船からシューベルト先生は、降りる必要はありませんでした。


 その、こだまのように鳴り響く、別れの挨拶とともに、乗っていた部屋そのものが、まるで風船のように膨らむように宇宙船から分離して、エウロパの氷の床に降りて行きました。


 すると、乗っていたはずの宇宙船は、なんの音を残すこともなく、はるかな宇宙空間に消え去ったのです。



 地球人が、最初にエウロパに探査機を着陸させたのは、西暦2000年も大分越してからでした。


 そこには、生命があるかもしれないとも予想されていました。


 しかし、知的生命があると思う専門家はほとんどありませんでした。つまり、オカルト以外の分野では。


 ところが、その真実が一般にしられる前に、地球には空白の時代がやってきたのです。


 記録されない歴史の時代です。


 記録する技術はあるのに、なぜだか、後世には記録が残されては、いないのでした。


 それは、つまり、消された時代なのです。


 次に人々が目覚めた時には、地球に人類はいなかったのです。


 シューベルト先生は、その謎を解こうとしていたのです。




 


 

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