11 ショートカット作戦
「俺ははじめからショートカットの提案してるからいいけど、お前は俺を信用してねえから魔力消費激しいことはしないっつってただろ。いいのか?」
「いいも何もねー! こんな時間のかかりそうなことやってられっかよ!!」
「それは同じ意見だが」
最初の作戦が通るのであれば願ったり叶ったりだ。
ラムダはそう思うが、考えを見透かしているのか、メテオラが立てた人差し指を突き付けてくる。
「でも一番上までは行かねーぞ! とりあえず三階分、えーと、一、二、三だから……」
「七階までだな」
そう七階! と言いながらメテオラは拳を握り、思い出したようにぱっと解く。
「ラムダ」
「あ?」
「七階で休憩挟んでいいか?」
「……まあ、そんなに魔力消費するんなら、ちょっとくらいは」
「全裸になって添い寝してもらうのは」
「やらねえよバカかお前」
メテオラは舌打ちし、じゃあこっち、と言って床に両拳をつける。
現れた魔法陣から飛び出してきたのは、人が数人余裕で乗れる大きさの虫機械だった。ずっと残っている方の虫機械がずいぶん小粒に見える。
大型虫は一本角が生えていた。挨拶のようにそれを振ってから、メテオラのそばですっと六本の足をたたんだ。
でかいな……と虫を見上げているラムダの横で、メテオラはドヤ顔になった。
「俺の自慢の戦闘用機械虫、カテギーダだ! かっこいいだろ!」
「名前とかつけてんのか……」
「いいだろ別に、ほらさっさとカテギーダの背中に乗れ」
メテオラに促され、カテギーダに乗ろうと近付いた。察したように頭を下げて、一本角を通路代わりに差し出してくれる。かっこいいかはともかく、召喚獣としてかなり従順だ。ラムダはありがたく一本角に乗り、背中の方へと移らせてもらう。
続けてメテオラが乗ってきた。ラムダを後ろ側へと押しやって、カテギーダの頭に座りながら手を置くと、短い呪文を唱えた。
聞き覚えのない言語だった。自分に聞き取れないだけかと思い直したところで、カテギーダの背中の装甲がばっくりと左右に分かれた。
装甲は機械の組み合わさった、堅牢な羽に変わっていた。
飛び上がったカテギーダの勢いに驚き、ラムダは身を低くして頭にしがみつく。カテギーダの隣には小型の虫機械がついてきた。メテオラはその場に立つと拳を握り、迫ってきた天井を見上げた。
メテオラが片手を突き上げ、空中を殴る動きをすると、カテギーダの一本角に青白い光が走った。
一瞬辺りが真っ白になるほどの閃光が迸り、ラムダは思わず目を瞑る。直後に、激しい音が響き渡った。
目を開けると、崩れた天井がこちらに向かって落ちてくるところだった。慌てて避けかけるが、その前にメテオラが拳で割り砕いた。細かくなった天井の破片は四階部分に落ちていく。
五階にも当然門番がいた。真っ直ぐ天井に向かうカテギーダを感知して追いかけてきたが、ラムダは自分が後ろに追いやられたのはこのためかと思いながら、カテギーダの背中を駆け降りていった。
鳥型になった機械の急所を探し、飛び降りて突き刺した。崩れ去る前に鳥型機械の羽を踏みつけ跳躍する。
多少速度を緩めていたカテギーダの尻尾部分にどうにか掴まり、背中まで這い上がった。六階に続く天井を潰す前に、メテオラが首だけで振り向いて面白そうに笑った。
「わかってんじゃん、ゲテモノ食いのくせに!」
「うるせえよ、数字もわからねえ脳筋バカが。そんなんでどうやって部品構築して出してんだっつの」
「それは数字とか関係ねーんだよ!!」
言い合いになりかけるが、仲裁でもするようにカテギーダが六階へ続く天井を一本角で叩き割る。
今度は目を閉じずに見た。
カテギーダの角からは、青白い電流が放たれていた。
「かっこいいな、コイツ」
ラムダが素直に褒めるとメテオラは嬉しそうな笑顔になり、降ってきた瓦礫を殴り砕いてからラムダを見た。
「そうだろ!? カテギーダは俺のお気に入りなんだよ、強いしかっこいいし!」
「俺はそっちの、ずっとついてきてるちっさい虫の方もまあまあ好きだぜ」
「そいつもいいだろ、遠出するにはそいつらが一番なんだ」
メテオラは親指を立てる。それから壊れた天井の下で待っていたカテギーダに指示を出し、六階部分に露出した。
そこにいたのは大きな球体だ。二階にいたものより二回りは大きく、床の上で揺らぎもせずに立っている。
ラムダは横目で球体を観察した。いつ動いても対処できるようにと思ってのことだったが、球体はじっとしたまま微動だにしなかった。
少し、不気味だった。
どうするかとメテオラに聞くと、まー攻撃してみるか、と言ってカテギーダの電撃を球体に向けて放った。
それでも、特に動かない。
ラムダとメテオラは顔を見合わせた。
「どうする、メテオラ」
「う〜〜ん……特に変形とかしねーやつで、四階のやつみたいに意味わかんねーことさせてくるとか、腕力で退かすしかない腕力勝負の門番とかか?」
「どうだろうな……」
「とりあえず天井ぶっ壊す方でいい?」
「カテギーダはお前の召喚獣だし、判断は任せる」
メテオラは頷いてから、じゃー壊すと宣言して、カテギーダの攻撃方向を天井へと向け直す。
一本角が光り、眩しい電撃が天井部にヒビを入れて崩れさせた。その後にラムダは六階の球体を再び確認したが、そこには何もいなかった。
嫌な予感が背中を走った。
「メテオラ!」
ラムダの呼び掛けと同時に轟音が響いた。地震のような衝撃に襲われて、ラムダとメテオラは体勢を崩す。
カテギーダの身体が傾いていた。片方の羽が半分潰れて、身体を構成していた部品がバラバラと落ちていく。
「なんだこれ!? ラムダ、どうなった!?」
「わかんねえ……ちょっと待て!」
ラムダは体勢を整えつつ、メテオラはカテギーダの羽を再構成しつつ、辺りの様子を確認したが、衝撃に再び襲われる。
しかし今度は、何もないはずの空間が衝撃の瞬間だけ揺らいだことに気付いた。
ラムダは急所探しの技能を使用して空間を確認する。急所を示す赤い箇所が空中にぱっと浮かび上がった。
それで確信した。
「あのクソでけえ球体、透明化して襲ってきてる!」
「はあ〜〜!? んなもんわかるわけ、」
「急所だけ見えてるから指示する! 左下に旋回して避けろ!」
メテオラはクソが! と毒づきながら右腕を勢いよく振った。合わせてカテギーダが身体を斜めに傾けて、六階部分へと下降していく。
直後に轟音が響き、六階の壁に亀裂が走った。ラムダにだけ見えている赤い箇所がカテギーダを追ってくる。
ラムダは舌打ちした。急所だけが見えていても、球体が現在どんな形を取っているかはわからないため、下手に近付けなかった。
「床のギリギリ飛んでから急上昇して七階に行け!!」
と指示してから、カテギーダの背中にしがみつく。
メテオラは従った。言われた通りの動きをカテギーダにさせて、七階部分に飛び出した。
そこには当然、七階の門番がいる。
女性を模した彫像だった。彫像型の門番は、カテギーダを確認すると全身鎧の重戦士に変形した。手にした大振りの剣は部屋の半径ほどの長さだった。
「キッツ……」
メテオラが苦そうに呟いた。
大振りの剣がカテギーダに向かって振り下ろされる。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます