12 ジリ貧

「ラムダ! あのデカブツ彫像の急所は!」


 すぐに急所探しで確認すると、頭すべてが赤かった。

 わかりやすい急所で安堵しつつメテオラに伝えれば、即座に頭へと電撃が放たれる。

 重戦士は大剣を顔の前にかざして、あっさりそれを防いだ。

 メテオラは舌打ちする。

 ラムダはばっと顔を上げて、


「カテギーダ止めんなバカ! 左に全力で避けろ!」


 透明化している球体の接近を慌てて知らせる。

 攻撃はどうにか避けられたが、休ませる暇は与えないとばかりに重戦士の剣が振り下ろされる。

 カテギーダは身体を縦にして羽への斬撃を躱した。ラムダとメテオラは身を伏せてしがみつき、カテギーダの上に留まった。


 どうする、どうすればいい。ラムダは球体のいる辺りを睨みながら、必死に考える。

 一番狙いやすいのは二体を誘導しての相打ちだ。しかし自分の視覚情報、球体の急所の位置を伝えてから動いてもらうのでは遅い。相当連携が取れていれば可能かもしれないが即席コンビの自分とメテオラには無理だろう。

 次に思いつくのは一体ずつの処理。見えている重戦士から破壊して、球体の方は後から二人で協力しつつ急所を叩く。

 しかしこれだと、透明な球体を避け続けながら重戦士と戦闘することになる。カテギーダがそこまで無事でいられるかの保証ができない。重戦士は急所を守る立ち回りが基本だから、自分単体で向かっていっても、苦戦するだろう。

 どちらもこっちを狙って来ないことが、思いのほかやりづらい。

 二手に分かれたとしても両方がメテオラとカテギーダの方へ行くから、球体の位置がわからないあいつらだけで放り出すわけにはいかない。


 考えている間に球体が襲ってくる。ギリギリで指示して避けさせるが、カテギーダの左の羽が半分持っていかれてしまう。メテオラが手を振ると再構築はされたけどジリ貧だ。

 でも、これまでの攻撃の掠り方で、なんとなくの形が把握できた。

 球体だと想定して避ける方向を指示していたが、突き出ている羽の部分は当たる。初撃は胴体にぶつかるような攻撃で今までの破損はどう見ても打撃武器。

 金槌や棍棒のような、長さのある状態になっていると思う。


 ラムダは息を吐き、再度方向指示をして避けさせてから、覚悟を決めた。

 予想外の形に変形していないことを祈る。


「メテオラ!」

「なんだよ! 回避に攻撃に忙しいんだよこっちは!!」

「絶対後で回収しろよ、絶対だからな!!」

「は!? なに」


 メテオラの言葉を聞き終わる前に、カテギーダの背中から飛び降りた。ラムダ! と大きな声で呼ばれたが構えない。


「おい虫! こっち来い!!」


 ラムダが叫ぶと、小型の虫機械が飛んできた。カテギーダとメテオラにばかり攻撃が集中していて、こいつが無事であることは確認済みだった。

 虫はラムダを受け止める。呼べば来たということは命令を聞くはずだと、球体がいる方向へ飛ぶよう指示すれば、予想通りに動いた。

 カテギーダの上にいるメテオラがほっとしたような顔をするのが見える。

 なんだその顔、と思いつつ、


「お前はそっちの重戦士片付けろ! 球体は今左の壁際にいるから急角度で下降すりゃあいい!!」


 最後になるはずの指示を飛ばして、ダガーナイフを手に持った。


 ラムダは虫の背中の上に立つ。球体の真上に向かわせてから、見えている急所の位置へと飛び降りる。

 足ではなく、体全体で落ちていった。球体はメテオラ達を狙って動いているため位置がズレると予測していた。

 右手がどうにか、体のどこかに引っ掛かった。手探りで形状を確認しつつ乗り上げる。空中に浮いているように見えて、少しだけ笑えた。ラムダは急所位置を確認してから、そこへ向かって一気に走った。

 予想通りに、球体は金槌状に変形していた。ラムダの振り下ろしたダガーナイフは急所に刺さり、球体は二回ほど振動してから、一気にバラバラになった。


 支えを失い、球体の部品と共に落下する。

 落ちながら横目を向けた。メテオラたちは離れたところにいた。カテギーダの一本角が重戦士の頭を剣ごと貫いている様子が見えて、重戦士はまもなく分解されて床の上にゴロゴロと転がった。メテオラがこっちを向いた。

 目が合った。視界の端には、球体の部品たちに阻まれて自分のところへ来られない虫がいた。

 あーこれ床に激突するか四階まで落ちるかのどっちかだな、とラムダは思った。

 なんとか身を捻るとカテギーダの開けた穴が見えて、後者だったと把握した。

 七階の床に叩き付けられるだけならどこかが折れる程度だったが、三階分落ちて四階の床に激突するなら余裕で死ぬ。


 そう思っていると、自分の周りにある球体の部品たちが、一斉に光り始めた。

 なにが起こったのかわからなかった。まさか仕留めきれていなかったのかとダガーナイフを握り締めるが、別のことにも気が付いた。

 懸命に自分を追っていた虫も、青白い光を放っていた。そのあとに音もなく分解された。

 どちらの部品も一箇所へと集まっていき、遠くからも別の部品が飛んでくる。


 ラムダが呆然と見ている前で部品たちは巨大な人型の機械になった。さっきの重戦士よりも二回りほど大きく、機械巨兵、とでも呼べそうな見た目だった。

 機械巨兵は太い片腕を伸ばしてラムダを掴んだ。

 握り潰されるかと思ったが、胸元に抱えて守られた。


 四階の床に着地する前に、機械巨兵は下向きに熱風を噴射して、着地の衝撃を幾分和らげた。

 ズシン、と大きい音が響くが、床に穴が空いたりはせず、並んだままの四階門番の部品がちょっと浮いて乱れた。


「おいラムダ! 無事か!?」


 顔を上げると、下降してくるメテオラとカテギーダが見えた。

 メテオラの両拳は青白く発光していて、呼応するように機械巨兵の目が青く光る。


 即席で召喚獣を組んだのだと、ラムダにもわかった。

 巨兵に降ろしてもらい、カテギーダから飛び降りたメテオラに礼を言おうと口を開くが、その前にメテオラがぶっ倒れた。

 合わせて巨兵とカテギーダも無数の部品へと分解されて、回収もされないままその場にがちゃがちゃと散らばった。


 どう見ても、メテオラの魔力切れだった。

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