9 順調な探索

 疑いの目を向けられても、ロウのことはどうしても話す気にはなれない。しかしここで放置されても、こんな各階になにかしらありそうな塔を一人で攻略できる気はしない。

 舌打ちしつつ地図を引っ込め、剣呑な雰囲気をまとい始めたメテオラに向き直る。


「……凍ったあの町、俺の住んでるとこだって話はしたよな?」

「多分聞いたけど、それが?」

「永住するつもりがあるんだよ、あの町……シェルヌは過ごしやすいし、周辺にいる魔物もわりといける味で」

「あっ魔物食の話はやめて、キショい」


 馬鹿舌にわか食野郎がよ!


「……とにかく! シェルヌを元に戻して、前までの生活に戻りてえんだよ! 明らかにこの塔が原因なんだから、中探って元に戻す方法探すしかねえだろうが!」


 半分くらいは嘘だった。シェルヌは好きだし元に戻るなら嬉しいが、それはそれとしてロウさえ取り戻せれば別に放置して違う土地に移り住んでもまったく構わない。

 メテオラは考えるような顔をしていたが、まーそれなら納得、と一応は飲み込んだ。


「でもやっぱ、ぶっ倒れた俺の介護を任せたくはねーな。誰かを信用しちまったやつからとっ捕まって、賞金と引き換えに首吹き飛ばされていくもんだ」

「チッ……わかったよ、じゃあ順路通りに進むか?」

「とりあえずはな。ほら、各階に門番がいるかもっつーのも俺らの予想にすぎねーわけだし? 二階、三階は確認してからもう一回相談しようぜ」


 ラムダは了承し、引き下がった。メテオラはにやっと笑ってから背を向けて、螺旋階段を登り始める。

 その後ろについていくラムダには、機械の虫が相変わらずついてきた。機械なので食えはしないが、中々使える虫だから、出しっぱなしになっているのはありがたい。


 階段を登り切ると扉があった。

 押せば簡単に開き、中はやはり、一階と同じ円形の大部屋が広がっていた。

 そして奥には──。


「ほら見ろメテオラ、俺の予想通りじゃねえか」


 扉の前に、行く手を阻むように浮いている球体があった。しかも三つで、人間の顔くらいの大きさがある。

 何が動力源なのかはよくわからないが、下の階の箱と同じ雰囲気なところを見るに、また変形するのだろう。どっちにしろ、自分の予想は的中だ。

 得意気なラムダの隣でメテオラは舌打ちし、


「まーでもさっきよりいけそう」


 と軽く言って両手で拳を作る。

 グローブが赤い光を帯び始めると、三つの球体は反応した。即座に形を変えて、三つの球体から三匹の虫型機械になった。

 ラムダは自分の横にいる虫を見る。細かい部分は違うが、似たような羽虫型だ。

 さっきの箱は筒に斧にと変形したが、この球体は虫に変形する機械らしい。


 三匹の虫は迷いなくメテオラへと突撃した。

 メテオラが重心を低くして右手右足をばっと後ろに下げたのを見てから、ラムダはさっと離れて見物の体勢をとった。


 体重をかけて繰り出された右拳は、先頭の虫型機械を一撃で破壊した。


「っしゃあ! 余裕!」


 メテオラは弾んだ声で叫び、二匹目の突進を避けて、三匹目の腹に上向きの打撃を繰り出した。三匹目もぶっ壊れて地面に部品がボトボトと落ちる。

 旋回してメテオラの背後に突っ込んできた二匹目は、メテオラが振り向く前にラムダが処理した。

 一階の箱と同じように急所を探し、素早く近づいてダガーナイフを突き立てた。

 三匹の虫、いや球体はそれぞれ部品が分かれ、もう動かなかった。


「ラムダのその特技、なに?」


 埃を払うように掌を擦って叩きながらメテオラが聞く。


「これは別に、ただの急所探し」

「へえ? 地図もだけど、それも便利じゃん」

「お前こそそのグローブどうなってんだ?」


 メテオラは一瞬止まり、視線を泳がせてから、口を開いた。

 ──が、大きな音と共に奥の扉が開いて、言葉は掻き消された。

 二人は扉へと目を向ける。早く通れというように、広々とした入口が空いていた。


 ラムダはさっさと歩き出したメテオラの後ろについていきつつ、


「召喚術の応用みたいなもんか?」


 更に突っ込んで聞いてみる。


「まーそんな感じ」

「宿屋ぶっ壊した時から気になってんだよ、それ。術師って大体後方にいるもんっつうか、詠唱時間とか稼ぎながら立ち回って召喚術や魔法でぶっ飛ばすようなもんだと思ってたから、普通に殴りかかって来られてかなり驚いたんだよな」

「俺はずっと一人旅だからな〜、魔力消費軽減には打撃が有効じゃん」

「そうか?」

「そうなんだよ」


 コイツ詳細は開示する気ねえな、とラムダは察する。メテオラは振り向きも立ち止まりもしないまま螺旋階段へと進み、確認や相談はしないまま三階まで登って行った。

 ラムダも後ろには続いた。まあどうせ殺すつもりだし別にいいかと思いつつ、扉を開けるメテオラの後ろ姿を見つめた。


 三階もやっぱり、一階二階とほぼ同じ部屋だ。内装というか、壁の色合いがほんのりと違ってはいるが、それ以外に変わったところは見当たらない。

 今度は扉を遮るように大きな長方形の物体が置かれていた。ものすごく大きな盾、という雰囲気だ。

 メテオラは拳を握りかけるが、ふっと振り返ってラムダを見た。


「ここ、お前がやってくんない?」

「は?」

「いや、……一階も二階も俺がやったじゃん?」

「一階は俺だろ」

「じゃなくてさー、ほら、あれよ」


 メテオラはラムダの側についたままの虫へと視線を向けてから、


「俺ばっか狙われるだろ、理不尽じゃん」


 そう言ってラムダを見据えた。


 確かに、言う通りではあった。箱も球体も、攻撃したからかもしれないが、メテオラばかりを標的にした。

 ラムダはダガーナイフを取り出してメテオラより前に出る。


「じゃあ見てろよ、すぐ分解する」

「おー、がんばれがんばれ!」


 いちいちムカつくなコイツ……と思いながら、ラムダは急所探しの特技を使うが、それらしい綻びは見つからなかった。念のため再度確認するが、やはりない。

 変形するから微妙な差異で急所ができるだろうか。ならまず形を変えさせようと、とりあえず盾の真ん中にナイフを突き立てる。


 それでも反応しなかった。

 やっぱりかー、とラムダの後ろでメテオラが嘆いた。

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