6 即席コンビ

 妥協ラインとして全裸で添い寝することになった。

 おかしいだろと思わなくもなかったが、なにせよく考えればお互いに一度全裸を見せ合っている。なんならチンポも入れている。

 ラムダがセックスを拒否したのは、単純に疲れるからだ。

 翌朝に何も持ち越したくはない。全力で塔を登り、ロウを迎えに行かなくてはいけない。


 仕方なく服を脱ぎ、メテオラと同じベッドに転がった。

 メテオラも全裸だった。

 密着度がどうとか言ってたなと思いつつ、グローブを嵌めたままの腕にぎゅっと抱き締められた。


「寝る時にグローブ外さないのか?」

「ん? ああ……まあ、お前が枕の下に常にダガーナイフ入れてるようなもんだよ」


 バレていた。だが、ひとまずはメテオラの寝首をかくつもりはない。

 塔を登るためには協力者がいるほうが絶対にいい。それにロウと無事に会えた際には、多分こいつはダンジョン攻略の疲れで多少なりとも消耗しているだろうから、その時に奇襲をかける方が良さそうだ。

 ラムダも同じ条件ではあるが、大した術が使えない状態のメテオラになら、肉弾戦で勝てる自信がある。

 それまでの辛抱である。


「なあー、ラムダァ」


 眠気と甘えが半々の声に呼ばれる。けっこう気持ち悪い。同時に意味不明な心地よさがある。

 心情としてはドン引き、肉体としては心地いい。なんだこりゃ、と困惑する。

 メテオラのほうも、そうらしかった。


「お前の魔力……すげーちょうどいいんだよな……こう……かゆいところに手が届く感じで……」

「……かなり不本意だけど、まあ、言いたいことはわかる」

「あのぶっ壊した宿でヤッたとき、マジでサイコーだったんだよなぁ……」

「それもムカつくけどわかる」


 体の相性がいいのだろう。キモいなこいつと思う反面で、密着しているとなんというかこう、良かった。

 安堵のようなものが、吸われている側のラムダの中にもたしかにあった。

 うとうとしつつ、そういえばと腕を伸ばす。メテオラの背中に掌を当てて、ダガーナイフで刺したはずの箇所を探してみた。

 数センチほどの傷口を見つけた。しかしもう塞がっているし、かさぶたができている。皮膚自体は、単純に皮膚だ。機械のパーツかなにかで防いだのかと思っていたが、違うのか。

 覗き込んで見てみようと体を浮かせる。その瞬間に強い力で引き戻された。

 探りすぎたかと警戒するが、メテオラは余裕で眠っていた。安らかな寝顔に、ラムダは反射でイラついた。

 どうせ明日から行動を共にする。メテオラはどうでもいいが、メテオラの召喚術についてはかなり気になるし、ダンジョン攻略の間にそれとなく情報を集めよう。

 そう決めて、ラムダも寝た。

 翌朝はメテオラのほうが早く起きていた。ラムダの魔力を夜通し吸収したからか、朝っぱらから元気でうざかった。


 宿屋に金を払い、外に出たところで、二人とも驚いた。


「え、寒くね」

「ああ、寒いな……」


 息が白く染まるほどではないが、昨日の夜よりも気温が下がっているのはたしかだった。

 身震いするラムダの横で、メテオラがうーんと唸ってライトグレーの髪を掻く。


「これ、放置したら大陸全土が寒くなるんじゃねーかな」

「そんなに効果範囲広いか?」

「うう〜ん……多分」


 なんとも煮え切らない返事だ。ラムダは溜め息をつき、遠くに見える塔に視線を向ける。ぼんやりと浮かび上がるようなシルエットが以前よりも不気味に感じた。

 メテオラが昨日と同じように虫を二匹呼んだ。それぞれ虫の背中に乗り、塔に向かって飛んでもらう。

 寒さはやはり、塔に近付くたびに増していった。

 元々気温差のない穏やかな気候の大陸だから、二人ともそこそこ薄着できつかった。


「あ〜〜〜〜ムリ!!!寒すぎ!!!!」


 急にメテオラが叫び、両手で握り拳を作る。何をするのかと見ていれば両拳をガッと叩き合わせた。薄い赤色の光がメテオラの全身を包み込む。


「これでいいや、即席暖炉サイコ〜……」

「お、おい、てめぇ……」

「あ?」

「俺にもそれかけろよ……!当たり前のように自分だけ暖まってんじゃねえ!!」

「はぁ〜〜……これだから魔術も使えねーカスはよぉ……」


 馬鹿にする笑みを向けられてラムダはキレそうになる。むしろキレているが、まだ我慢、まだ我慢、と自分に言い聞かせてダガーナイフに伸びる手をなんとか留めた。

 メテオラは相変わらずにやにやしている。ブチ殺したい……そう思いつつ、ラムダは怒りをギリギリ押さえて口を開く。


「魔力……」

「あ?」

「あそこ、塔、どうせ色々、魔力使うだろ、」

「まー、壁ぶっ壊しながら進んでも魔物ぶっ壊しながら進んでも、何かしら使うだろうな〜」

「魔力切れたらその都度回復してやるよ、かゆいとこに手が届く魔力なんだろ? 道中でいくらでもやる、俺はどうせ使わ」

「今すぐ温めてやるからちょっと待ってろ!」


 メテオラは拳を合わせてすぐさまラムダに魔法をかける。

 ラムダは全身を包む暖かさにほっと息をついた。そしてメテオラの手のひら返しにクズ野郎がチョロ過ぎだろうがよと内心毒づく。

 早く殺して金にしたい。


「じゃっ、早速行きますか!」


 にっこにこになりながらメテオラは機械虫たちに命令を入れる。

 急に飛ぶスピードが上がり、ラムダは慌てて虫の体にしがみついた。


 塔にはすぐ辿り着いた。

 扉はラムダが昨日見た通りに開いている。


 いよいよだった。凍える風を吐き出し続ける塔の近くに、即物的な即席コンビは降り立った。

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