ここだけの話
西園寺 亜裕太
第1話
「てかさ、ここだけの話なんだけどね、梨恵先輩二股かけてるらしいんだよね」
わたしは帰り道、友達の舞花に先日聞いた部内のゴシップ話を伝えた。
「えぇっ!? 梨恵先輩って徳山先輩と付き合ってて、結構お似合いだと思ってたのに!」
「だよね、めっちゃ意外」
わたしも初めて聞いた時、とても驚いて、同じような反応をしたから気持ちはわかる。
「とりあえず、そんなこと広めたら梨恵先輩めちゃくちゃ怒ると思うから、絶対に他の人に話しちゃダメだよ」
「わかった!」
元気に返事をすると、舞花はなぜかわたしの手を握ってきた。
「何してんの……?」
「離しちゃダメって言ったから! ちゃんと手繋いでおこうかと思って」
「いや、わたしは別に手を離しちゃダメって言ってたわけじゃないからね? なんで梨恵先輩の秘密話をしている時にいきなり手を離しちゃダメ、なんて言い出すと思うのよ……」
「いやぁ、梨恵先輩の恋人との仲は終わってしまいそうだけれど、わたしたちの仲は終わらせないために手を離さずにしっかりと繋いでおこうねって意味かと思ったから」
「百歩譲ってそうだとしても、わたしたちさっきまで手を繋いでなかったんだから、繋いでない状態で離さないでって言うのはおかしいでしょ……」
わたしがため息をつくと、舞花は「そっかぁ」と呑気な調子で返事をしていた。本当にわかってくれたのか怪しかったけれど、舞花がわたしの手を離してくれたから、一応理解はしてくれたみたいだ。
「ていうか、噂をしていたら徳山先輩が来たよ」
舞花がわたしに耳打ちをしてくる。
「わっ、ほんとだ。徳山先輩は何も知らずないんだろうねぇ……。梨恵先輩も罪な人ねぇ……」
わたしが苦笑いをしていると、舞花が徳山先輩の方に手を振った。
「お疲れ様でーす」
「お疲れ。今から帰りかい?」
「はい、帰りま〜す」
そう言いながら、舞花がまたわたしの手を握ってきた。それを見て、徳山先輩が爽やかな笑顔を浮かべる。
「2人とも随分と仲が良いんだね」
「はい! 仲良しですよ。二股かけてる梨恵先輩と徳山先輩の恋人関係も、2人で仲良く応援してますから!」
「「ん?」」とわたしと徳山先輩が同時に声をかけた。
「それって、どういうこと……?」と尋ねてくる徳山先輩の反応を見て、わたしは慌てて舞花に耳打ちをする。
「ちょっと、何言ってんのよ!」
「離してない状態なら、話しても大丈夫かなって……」
「だから、わたしの手を繋いだらノーカウントとか、そう言うのないからね!」
「あっ! そうだよね!」と舞花が慌てて声を出してから、サッと徳山先輩の手を握ってから、わたしに尋ねてくる。
「こう言うことだよね!」
「全然違うわよ……」
わたしは頭を抱えるしかなかったのだった。
ここだけの話 西園寺 亜裕太 @ayuta-saionji
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
同じコレクションの次の小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます