第34話 高架下の青春
まずは、このページに飛んできて下さりありがとうございます。
今日は、一つお知らせがありますので、後書きまで読んでいただけると幸いです。
それでは本編どうぞ!
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時は、返却日の放課後へと遡る。
「あー……」
気分が乗らない。
乗らない、というか「もっと勉強しとけば良かった」という後悔の念に駆られている。
俺、間宮翔は、碧斗とのテスト勝負に負けてしまった。
気分を上げる為にも、まだ帰っていない隣の陽葵ちゃんに話しかけてみる。
「なあ……陽葵ちゃんは赤点あったのか……?」
陽葵ちゃんは、オレと同じレベルくらいにはバカだ。
普段の授業も隣に座っている為、特集の本を作れそうなくらいには珍回答を聞いている。
きっと、同じ立ち位置に居る陽葵ちゃんならば、俺と共に落ち込んでくれるはず。
多分、赤点もあるはずだ……
「ねえ、ない! なかったの! やばくない!?」
「え、おい、まじ……?」
うっそだろおい……
陽葵ちゃん、え、陽葵ちゃん……?
一緒に落ち込んでくれる約束じゃ……?
「まじまじ!」
「おいおいおい……」
そんな嬉しそうな笑顔を浮かべられたら、もっと気分がやられる。
まあ、頑張ったんだろうな……。
「えへへ、翔くんは取った?」
「取ったぜ。当たり前のようにな」
「もー。頑張りなよ〜」
「さーせん……」
お母さんのような怒られ方だ。
そう考えたら、小柄な陽葵ちゃんがとても大きく見える。
不意に手を見てみると、小さな豆のような凹凸があった。
「陽葵ちゃん、手怪我したのか?」
「え、あ、んーん。一夜漬けで勉強頑張ったんだけどさ、ペン握りすぎてこうなっちゃった!」
なるほどな。
やっぱり、手に豆が出来るほどに努力していた。
だからこんなにも大きく見えたのか。
「すげーな。そんな頑張ったんだ」
「まあねー。陽葵ちゃん、やる時はやる女の子だし?」
「その通りすぎるぜ……」
「えへへ。じゃ、帰るね。ばいばーい」
そう言うと、陽葵ちゃんは軽快な足取りで席を後にした。
頼りの綱の陽葵ちゃんがいなくなったら、もう気分を上げる方法など一つしか無い。うん。
――夏鈴ちゃんを見て癒されるとしよう。
「……」
そうして、夏鈴ちゃんの方を見ると、思いっきり机に突っ伏していた。
まあ、夏鈴ちゃんもお世辞でも頭が良いとは言えないので、俺と同じ結末だったのだろう。
ご愁傷さまだぜ、夏鈴ちゃん。
「……あ」
そんな夏鈴ちゃんをじっと見つめていると、急に顔を上げて、こちらを見てきた。
生憎と、俺は反射神経がバグレベルで良い訳じゃないので、目が合った。
「え?」
目が合った瞬間、夏鈴ちゃんはニッコニコの笑顔で手を振ってくる。
可愛い。可愛すぎるだろおい。
隣の碧斗とか言う人間もこちらを見ている気がするが、そんな奴はどうでもいい! 憎き男め……。
今は夏鈴ちゃんを見て癒される時間だ。
「可愛いなぁ……」
あまりの可愛さに、無意識に呟いてしまった。
でも、碧斗にテストで負けたことにより、共に夏祭りには行けないという事実。
はあ。もっと努力して勝ってれば、碧斗が話を進めてくれてたんだろうな……。
なんで、こうなってしまったのだろう。
というかそもそも、碧斗に勉強で勝てるわけが無いのに、俺は何で勝負を飲んだんだ……?
もし勝っていれば、碧斗が代わりに誘ってくれた。
結果は負けで、碧斗は代わりに誘ってくれない。
代わりに誘ってくれる……?
代わり……?
そんなことを考えたら、俺は一つの重大な事実に気付いた。
――え……? これ、俺が勇気出せばいいだけじゃね……?
と。
そもそも、この勝負は俺が夏鈴ちゃんを誘うのが恥ずかしいからという理由で決まった勝負だ。
よく考えれば、俺がダサすぎる。うん、何度考えてもダサい。
恥ずかしいから誘えないとか、年頃の中学生みたいな理由だ。
そんな自分が情けなくなってくる。
「――」
心の中で、俺は一つの決意を固めた。
夏鈴ちゃんが好きだ。あんなに可愛い子、俺は見た事ない。
そう考えると、一緒に夏祭りに行きたくてしょうがない。
――男・間宮翔、勇気を出して夏鈴ちゃんを誘うことにします。
そうと決まれば、することは一つ。
……でも恥ずかしい。
いやいやいやダメだ。そんな邪念取っ払え間宮翔よ。
愛する夏鈴ちゃんと夏祭りに行く為だ。恥ずかしいなんか言ってられない。
再び夏鈴ちゃんの席を見ると、また突っ伏していた。
なんだろう、顔を見なくても可愛いって分かるな。
そうして、俺はおもむろに席を立ち、夏鈴ちゃんの方へと足を進めた。
夏鈴ちゃんの席に到着すると、隣にはまだ碧斗がいた。
爽やかな黒髪で、少しイケメンなのがムカつく。
まあ、そんくらいの見た目じゃないと三大美女達とは釣り合わないよな。
とはいえ、性格も良いので、そこを好きになったのかもしれないが。
……って、そんなことはどうでもいい!
今は夏鈴ちゃんだ!
「……おーい」
突っ伏して寝ているのかと思ったが、声をかけると直ぐに反応してくれた。
「ん、翔くん! どーしたの?」
やっぱり、可愛い。
このつぶらな瞳と、ザ・女の子のような雰囲気。
一言でいえば「ふわふわ」だ。
「……いや、その」
「ん?」
決意を固めて来たのに、夏鈴ちゃんの前に立つと急に言葉が出なくなる。
本当に、罪的な可愛さを持っている。
というか、隣の碧斗がすっげー変な目つきで見てくるんだが……。
いや、気にしたら負けだ。
「あー……テスト、どうだった?」
「えー、それ聞いちゃう?」
「いや、凄いニコニコだったからよ。どんな結果なのか気になっちゃって」
「勿論、赤点ありまーす! えっへん!」
またも、夏鈴ちゃんはニッコニコの笑顔を見せた。
ああ……至福だ……。
なんで嬉しそうなのかは分からないけど。
「翔くんはどーだったの?」
返事が出来ずに夏鈴ちゃんを堪能していると、不意に言葉を向けられる。
「俺もあったよ」
何だろうか。
ニコニコな夏鈴ちゃんを見ていると、心が軽くなってくる。
「えー! やっぱり?」
「やっぱりって。まるで取るのが前提みたいだな!」
「……だって、夏鈴ちゃんと翔くんは似てるじゃん?」
おいおい、そんなのずるいだろ……。
――ま、嬉しいけどさあ!?
「そ、そうかもな。お互いバカだしな」
「あー……翔くんの点数、色々聞きたいなあ?」
不意に、夏鈴ちゃんがそんなことを言った。
「夏鈴も教えてあげたいし、何個赤点あるのかとかいっぱい自慢したいし……」
夏鈴ちゃんが、言葉を続ける。
自慢する内容がおかしいのは置いといて、夏鈴ちゃんの頬が赤くなっている気がする。
――んなもん、勇気を出すトリガーでしか無いだろうがああぁぁあ!!
「……一緒に帰らね?」
ちゃんと、聞こえただろうか。
聞こえてくれてないと、俺は恥ずかしさで死ぬ。
緊張具合で言えば、小学校の陸上県大会の頃よりも余裕で緊張しています。
聞こえててくれ……!
「――いいよ! かえろ!」
刹那、夏鈴ちゃんからの嬉しすぎる返答が届いた。
そして、頬の赤さは見間違いではなく、本当だった。
隣の碧斗は未だに変な目つきだが、とりあえず一安心だ。
――俺は、帰り道の途中で夏祭りに誘うことに決めました。
◇◇◇◇◇
「暑いね〜」
夕日が差し込む帰路で、夏鈴は自分の汗を拭う。
夏シーズンに入った影響で、気温は高くなっていた。
「そうだなー。まじ暑いな」
その夏鈴の隣で歩くのは、翔だ。
人生で一番の勇気を振り絞り、夏鈴を帰路へと誘った。
普段から「可愛い」だの「美しい」だの言う割に、帰りを誘うという行為には緊張しまくったらしい。
「はあー。テスト疲れたね。夏鈴の頭パンクしそうだった」
「んなー。これで無くならねーかな?」
「まあ、夏鈴と翔くんが赤点取る限り絶対無くならないよね」
「それはそうだな……」
何とも、皮肉なものである。
「ね、教えてよ。テストのこと!」
「お、おうよ」
無邪気な笑顔が、翔の心に突き刺さる。
夕日の斜光も相まって、夏鈴の微笑みには更に磨きがかかっていた。
「翔くんは何が一番高かった?」
「俺は英語だな。40点も取れちゃったわ」
「え、たっか。すご」
「夏鈴ちゃんは?」
「夏鈴は現代文かなー。38点です!」
相変わらず、満面の笑みを浮かべる夏鈴。
ちなみに、開き直った夏鈴には、悔しいという感情など存在しない。
「ギリギリ俺の勝ちだな!」
「ちっちっ、喜ぶのはまだ早いよ」
人差し指を立てながら、胸を張る翔へと言葉を向ける夏鈴。
最高得点を争うならば、反対にもう一つある。
「翔くんの最低は何点だったの?」
「禁断の質問だなそりゃ……」
「えへへ、教えてよ〜」
隣を見ると、可愛らしい目線を送る夏鈴がいたので、翔は素直に答えた。
「化学の24点だな。ヤバすぎるだろ」
「ええ!」
翔の点数を聞くと、夏鈴はつぶらな瞳を更に開く。
「夏鈴ちゃんはどんくらいなんだ?」
「それ聞いちゃいます……?」
「聞くに決まってるだろ!」
「ふふん。まあ、質問した側だし、答えるとしましょう」
随分と余裕そうな態度と表情と言葉遣いをする夏鈴。
「で、何点だったんだ?」
「歴史! 20点っ!」
「……え?」
あんなに勝ち誇った雰囲気を出していた夏鈴だが、結果は翔よりも低い。
そして、『喜ぶのはまだ早いよ』というタイプの挑発で負けるケースは夏鈴が史上初だ。
「いや、俺の勝ちじゃねーか!」
「うん。普通に翔くんの勝ちでした」
「なんだそれ」
「なんで挑発したんだよ」なんて思ったものの、夏鈴の愛嬌と可愛さで帳消しだ。
そんな会話を挟みつつ、二人は帰路を歩いた。
あれから三分程歩いた後。
「じゃあ、夏鈴ここだから」
「……」
道の分岐点である"高架下"につくと、夏鈴は自宅の方角へと進もうとする。
――まだ、夏祭りの約束は、交わせていない。
決意は固めたものの、どうしても、あと一歩が踏み出せない。
「一緒に帰れた」という事実に、どうしても逃げてしまう。
翔には、もう一つやらなければならないことがあるのに。
――否、それは夏鈴も一緒だった。
「……」
二人の間には、言葉にし難い空気が流れている。
高架下に立つ夏鈴は、進路へ体を向けているものの、立ち尽くしたままだった。
正直なところ、二人の頭の中では、「一緒に帰った理由」が分かっている。
そして、いつも通りの帰路なら、
「なあ、夏鈴ちゃん」
その空気を変える為、そして決意を実行する為、翔は立ち尽くす夏鈴へと声をかけた。
「……ん?」
立ち尽くしていた夏鈴も、翔の声を聞き、振り向く。
その顔は、どこか安心感があって、嬉しそうで。
「その、なんて言うか……」
「……うん」
甘酸っぱずきる青春が、二人の間には展開されていた。
「両想いだと分かっているのに」と言うのはまだ大袈裟だが、それに近しい状態だ。
「今度さ、夏祭りあるだろ?」
「うん……色んな所でやるね」
「そ、そうそう。それ」
今年の夏祭りは、というか毎年、華月学園周りでの夏祭りは、同時開催される公園が多い。
まあ、そんなことは、今この二人に関係ない。
「それのことなんだけど……」
翔が本題に入ろうとした所を、羞恥の感情が襲う。
――が、翔はそれに負けなかった。
「一緒に――」
本題に入り、言葉を伝えた所に、橋の上の電車が通り過ぎた。
高架下の運命だ。
というか、このタイミングで来るとか、どんな恋愛ドラマだ。
「聞こえなかったから、もう一回言って?」
その影響で、翔の言葉が聞き取れなかった夏鈴は、聞き返す。
――無論、内容など分かりきっているが。
翔の顔を見てみると、頬を真っ赤に染めた、らしくない翔がそこにはいた。
再び、無音が訪れた高架下。
電車は通り過ぎて、二人を邪魔する物はもう何も無い。
時折、カラスの鳴き声が響くが、それも良い味を出している。
「今度は、ちゃんと聞いてくれよな」
「えへへ。電車に言ってよ」
「それはそうだな」
お互いに頬を赤らめ、ぎこちない空気感で話す二人。
そして、刹那の沈黙の後、翔は口を開いた。
「――俺と、夏祭り行ってくれねーか?」
翔らしい口調と、翔らしくない表情。
勇気を振り絞ったその一言は、何にも邪魔されることなく、夏鈴の耳へと届いた。
「――行く!」
それを受け取った夏鈴は、たった一言、されど一言の、翔が一番聞きたかった答えを、満面の微笑みで口にした。
二人を照らす夕日の輝度は、いつになく濃いような気がして。
――――――――
最後までお読み頂き、ありがとうございます。
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さて、お知らせなのですが、『転校したら元カノ三人と同じクラスになった』とは全く別で、短編を書きました。
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