第27話 DM


 碧斗が二大イケメンと話した日の夜。

 乃愛は、可愛らしい部屋着をきて、自分の部屋でゆったりと過ごしていた。


「これ可愛いなぁー」


 服を見て、メイク道具を見て、動画を見て時間を潰す。

 碧斗と話している時間の次に、この時間が幸せだ。


「うわぁ……猫ちゃんかわいい……」


 たまに流れてくる広告の猫は、つい見入ってしまう。

 猫の可愛らしい姿を目に焼き付けていると、画面上部からバナーが出てきた。


「ん……?」


 表示されているのは『心穏にフォローされました』の文字。

 その文字が示すのは、"写真投稿アプリ"だ。

 日常の些細な瞬間をストーリーとして投稿したり、思い出の写真を投稿したりなど、学生の間ではお馴染みのアプリだ。


「……だれ?」


 フォローしてきたアカウントを見ると、特に投稿はされていない。

 そして、友達の女子はほとんどフォローしている為、身近な存在であることは確か。


「しおん……まさか碧斗のこと連れてった……」


 アカウント名を改めて見ると、ある事を思い出す。

 今日、昼休憩の時に女子の歓声を浴びていた一人の名前だ。

 まあ、別に拒否する理由も無いので、乃愛はフォローを返した。


 すると、フォローを返してすぐ、心穏と名乗るアカウントから、ダイレクトメッセージが届いた。


 心穏:『こんばんは』


「はあ?」


 赤髪で、あの短髪が、こんなに礼儀正しいわけが無い。

 という謎の偏見を持っている乃愛は、返すのが面倒臭いとは思ったものの、放置しているのも何となく面倒臭くなりそうなので返すことにした。


 乃愛:『誰? ですか?』


 乃愛も乃愛で、最初はタメ口で後から敬語を付け足すという、中々に失礼なことをしている。


 心穏:『おれおれ……って言っても分からないよな』

 乃愛:『うん。まったく』

 心穏:『今日さ、お昼に教室行ったんだけど』


 やはり、予想通りの心穏だった。

 とはいえ、全然興味が無いので、分かった所で嬉しくはない。


 乃愛:『ああ。わかるわかる』

 心穏:『まじ? それならよかったわ』

 乃愛:『うん』


 延々と冷たすぎる返信をする乃愛。

 普通の男子ならば、諦めて会話をやめるのだが、心穏は違う。


 心穏:『ちょっとさー、聞きたいことあるんだけど』

 乃愛:『なに?』


「もう……めんどくさいなぁ」


 自分の時間を堪能していた所に、急遽邪魔が入り、面倒臭さを感じる。

 それでも、ちゃんと返信するあたりが、乃愛の優しさである。


 心穏:『彼氏とかいるの?』


「男の子ってこれ聞かなきゃ死ぬの……?」


 三大美女である乃愛は、幾度となく男子からダイレクトメッセージをもらってきた。

 でも、どの男子にも興味が無い為、無感情のままに返信をする。

 だから、大抵は途中で諦めるか、心穏のように無理矢理話題を出すかなのだ。

 でも、全員共通して質問してくることがある。

 それは、"彼氏がいるのか"ということ。


 乃愛:『そんなこと聞いてどうするの?』

 心穏:『んや、三大美女とも言われるんだから気になるっしょ』

 乃愛:『友達でも無いのに言う必要ないんだけど』


 至極真っ当なことを、乃愛は文にする。

 伝え方が冷たすぎるのは、大目に見よう。


 心穏:『まあ、そうだな。悪かった。じゃあさ、友達になろうよ』


「……」


 いつもの男たちなら、こうして拒否した時点で"いいね"で終わらせるのだが、心穏はまたしても話を広げようとする。

 しかも――友達になりたいと言って。

 

 乃愛:『なんで?』

 心穏:『理由を聞かれても難しいだろ。友達になりたいから?』

 乃愛:『はあ? 友達になりたいから?』

 心穏:『文で話すだけじゃ伝わらねーな、この気持ちは』

 乃愛:『意味がわかんない』

 心穏:『悪かったって。とりあえず会って話そうよ』


 心穏も、手馴れた口調で会う約束を取りつける。

 中学の頃からイケメンだと騒がれてきた男は、距離感を詰めるのも慣れているようだ。


 乃愛:『無理』


 とはいえ、相手は乃愛だ。

 簡単に取り付けられる訳が無い。


 心穏:『まじで怖いやつじゃないって。本当に』

 乃愛:『信じられるわけないでしょ』


 簡単には崩せない乃愛のガード。

 だが、心穏には切り札が残っていた。


 心穏:『碧斗の友達だよ? 俺』


「え」


 心穏から送られてきた文字を見た瞬間、乃愛は思わず声を出す。

 碧斗に弱すぎる。

 そして何より、心穏がずるい。


 乃愛:『そうなの?』

 心穏:『うん。だから呼びに行ったんだよ』

 乃愛:『へえー。碧斗、友達出来たんだ』

 心穏:『めっちゃ仲良しだから。まじで』


 "碧斗の友達"という言葉を皮切りに、乃愛は会話を続けた。

 そして――


 心穏:『元カノってまじ?』


 本当に、碧斗の友達であることを裏付けるには、この事実を浴びせるのが一番早い。

 乃愛も、隠しても無駄だと判断し、素直に打ち明けた。


 乃愛:『そうだけど。それが何?』

 心穏:『いやいや、何でもないよ』

 乃愛:『あっそ。わかった』

 心穏:『んでよ、友達になるついでなんだけどさ』

 乃愛:『またなんかあるの』


 とりあえず、会って話さないことには関係値も上昇しない。

 そして、心穏は約束の内容を、乃愛へと送った。


 心穏:『夏祭り、一緒に行かね?』


「……はあ!?」


 心穏から送られてきた文字を見て、思わず声を出す。

 まだ直接話したことも無いのに、いきなりデートを誘ってくるとは。


 乃愛:『え、ばか? 行けると思った?』


 そもそも、碧斗と行く為のテスト勝負があるのだ。

 心穏なんかに付き合ってはいられない。

 だが、乃愛には弱点がある。

 ――碧斗に弱すぎるということ。


 心穏:『碧斗の秘密の話、してやりてーんだけどなあ』


 またしても、せこすぎる手口を使う心穏。

 秘密など持っている訳が無い。

 でも、乃愛は碧斗と心穏の関係性を深くは知らないため、疑いはしなかった。


 乃愛:『秘密の話なんてあるの?』

 心穏:『おう、あるぜ』


 無いぞ。

 

 乃愛:『わかった、予定が入んなかったら行ってあげる』

 心穏:『まじで!?』

 乃愛:『でも、襲ったり触ったりしたらまじで殺すから。それだけはやめて』

 心穏:『こえー』


 こうして、碧斗とのテスト勝負に負けた時の、代わりが出来てしまった。

 代わりというか、結局は碧斗の秘密を聞きたいだけなので碧斗目的ではあるのだが。

 乃愛が碧斗に弱すぎるのか、心穏の誘導が上手いのか、それは神のみぞ知ると言ったところだ。


 ――――――――――――


 同じく夜。

 陽葵も、涼しそうな格好をしてベッドに横たわり、スマホをいじっていた。


「えへへ、可愛すぎるなぁこの子」


 恋愛リアリティーショーを見たり、メイク動画を見たり、動物の戯れ動画を見たり。

 いかにも女の子らしくて陽葵らしい。


「なにこれー! むず!」


 たまーに出てくる謎のゲームの広告に感化され、アプリを入れたりするのも、陽葵らしい。


「……もうっ!」


 そんなゲームにちょっとだけイラついて、可愛く怒るのも陽葵だ。

 おへそが少しだけ出ており、このまま寝れば風邪をひきそうな格好になっていた。


「……っておおぉ!?」


 スマホからの通知音に驚き、そのおへそも隠れる。

 そして、通知を見ると、


『優太にフォローされました』


 の文字。


「……んぇ、だれ?」


 乃愛と同じく、その通知は写真投稿アプリから。

 そして、アカウントにフォローを返した所で、陽葵は今日の昼を思い出す。


「……あ! 私の碧斗を奪った人か〜!」


 女子を沸かしまくっていた二人の内の一人だ。

 フォローを返すとすぐ、陽葵にもダイレクトメッセージが届いた。


 優太:『こんばんは』


「んぇ、この人すご」


 行動力の速さに、陽葵は驚く。


 陽葵:『こんばんはー!』

 優太:『誰か分かるかな?』

 陽葵:『うん! 今日のお昼きてた?』


 乃愛と違い、友達を作りたいタイプの陽葵は、こういう時に素直だ。


 優太:『そうそう。あの時は驚かせてごめんね』

 陽葵:『全然いいよー! 陽葵ちゃんも最初は誰か分かんなかったから!』


 そして、正直すぎる所も、陽葵の良いところ。

 優太からすれば、若干心に刺さるセリフだが。


 優太:『そっかそっか。じゃあ今日から知ってください』

 陽葵:『おっけー!』

 優太:『小野寺陽葵ちゃん、だよね』

 陽葵:『そう! 可愛いで有名な陽葵ちゃんです!』


 相変わらず、自分が大好きな小野寺陽葵。

 そして、相手に聞き返さないあたりに、恋人としての興味の無さが表れている。


 優太:『友達になってくれないかな?』


 率直すぎる、優太のお願い。

 まあ、遠回しに伝えたとしても、陽葵はバカなので分からない為、良い作戦である。


 陽葵:『全然いいよー! よろしくねー』


 陽葵も性格上、断ることは無く、すんなりと受け入れる。


 優太:『でさ、早速なんだけど、一つお願いしてもいいかな』

 陽葵:『うん!』

 

 優太:『もっと仲良くなりたいから、僕と一緒に夏祭り行かない?』


 率直すぎる優太は、またしても率直に誘う。

 とはいえ、さすがの陽葵でも、関わりの無い相手と二人で遊ぶのは厳しい。

 そもそも、碧斗という大好きな男の子がいる。


 陽葵:『んえー、さすがの陽葵ちゃんでも無理かも!』

 優太:『そっか。残念』

 陽葵:『うん。ごめんよ〜』


 断る陽葵。

 ――勿論、優太にも切り札があるので、


 優太:『碧斗の話、したかったなあ』


 と、心穏と同じ手口を使う。

 とはいえ、相手は陽葵。

 当たり前だが――通用してしまいます。


 陽葵:『もう友達になったの!?』

 優太:『うん。あと一つ聞いたことがある』

 陽葵:『なになに? 陽葵ちゃんが可愛いって?』

 優太:『――元カノ、なんだよね?』

 陽葵:『え、うん』


 陽葵も、乃愛と同様、隠しても無駄だと思ったので

 素直に打ち明ける。


 優太:『だよね。夏祭りで歩きながら碧斗の話でもしようと思ったんだけどね』

 陽葵:『うーん。仕方ないから、予定が空いたらいいよ!』

 優太:『ほんとに。ありがとう』

 陽葵:『ただし! 陽葵ちゃんの体に触ったりしたらその時点で帰りますからね!』


 陽葵も、碧斗に弱すぎるので約束を受け入れた。

 そして、テスト勝負では勝ち目も無いので、実質決まったようなものだ。

 襲われたりすることを危惧するのも、乃愛とまんま同じだ。


 こうして、テストに負けた瞬間、二大イケメンとデートをすることが決定した。

 どちらも碧斗目的ではあるものの、女の子の心はいつ傾くか分からない。

 ――碧斗は、二大イケメンに勝てるのだろうか。


――――――――


 最後までお読み頂き、ありがとうございます。

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