第15話 華月学園の二大イケメン


 水道での乃愛との会話を終えて、小春の元へと向かう碧斗。

 そして戻ると、なぜか少し不満そうな顔をしている小春がいた。


「……乃愛と話してましたね」

「え、うん。水飲んでたら来たから。おかげで溺れかけたよ」

「何話したんですか?」


 また、嫉妬の力が増えていそうな目で碧斗を見つめている。


「全然特に何もだよ。からかわれたくらい」

「……ふーん」

「ほんと、ほんとだって」

「乃愛は何本走ったって言ってたんですか」


 見抜いたかのように、小春は碧斗へと言及する。

 とはいえ、ここで「10本!」とか言ったら絶対に11本走らなきゃいけなくなるので、碧斗は怒られるのを覚悟で嘘をついた。

 というか、怒られた方が全然ましだ。ましすぎる。


「乃愛さんは! 4って言ってました! 確実に聞きました!」

「……」


 ――頼む。頼むからバレないでくれ……。まだ死にたくない……!


「――じゃあ大丈夫です。休みましょう!」

「うん! 休もう! 今すぐ休もう!」

「ふふ、よく頑張りましたね碧斗くん。まあ、碧斗くんだから少し厳しくしてしまったんですけどね」


 優しく微笑みながら、可愛さを見せつける小春。

 なんとか、嘘を突き通して生き残った碧斗は「ふぅ」と深呼吸をした。


 ―――――――――――――――――――――

 

 

 碧斗が小春に、しごかれている時。


「翔くん!きてきて」

「ん、はいよ」


 ペアである翔と夏鈴も、大玉転がしの練習をしていた。


「翔くんどっち側がいい?」

「んー、夏鈴ちゃんに任せるわ!」

「え、ありがとー。ま、私どっちでもいいんだけどね」

「実は俺も」


 翔が言いきると、二人は同時に笑った。

 平和すぎるこの空間の裏で、碧斗と乃愛のペアが地獄を見ているとは思えない。思いたくない。


「じゃあ、一回試しに走ってみる?」

「お、そうだな。いこうぜ」

「翔くん、足速いんだから手加減してね?」

「あったりまえだろー? 手加減も何も、俺たちは仲間なんだから」


 是非とも、小春と乃愛に聞かせてあげてほしい。


「えへへ、助かる! ありがと!」

「おう。じゃあいくぞ」

「うん! よーい、」


「どん」と二人同時に言うと、仲良く並んで大玉を押し始めた。

 翔は夏鈴に合わせていて、夏鈴も無理することなく走っている。

 まさに"平和"な練習だが、これが普通なのだ。


 一回だけ走り終えた後、二人は休憩に入った。


「ふぅ……疲れた疲れた」

「どう? 速くない?」

「うん! ちょうど良かった〜」

「そうか。それはよかったよ」

「えへへ、前から思ってたけどさ、翔くんって優しいよね」

「え、あ、まじ?」


 意中の夏鈴からふいに褒められ、翔は別人のように頬を染める。


「うん! 夏鈴のペースに合わせてくれるし嬉しいよ〜」

「あ、当たり前だろ? 夏鈴ちゃん可愛いしさ!」

「もー。バカにしないのー。うれしいけどさー!」

「してないってば!」


 照れはせず、微笑む夏鈴。

 自分は意中なのに、相手はそんな雰囲気が無い。

 そんな夏鈴に翔は、少しだけもどかしさを覚えた。

 が――


 ――夏鈴ちゃぁぁぁん!!かわいぃぃいい!


 と、喜びまくっている翔であった。



 ――――――――――――――――――――――


「碧斗くん、もう少し足速いと思ってました」

「遅いとは思ってないけどな。小春が速すぎるってものあるよ絶対」

「ふふ、そうですか?」

「うん。誰がなんと言おうとそう」

「それは言い過ぎです、絶対に」


 頬を膨らませる小春。

 休憩しつつ会話を交わしていると、前からとある人物が歩いてきた。


「おふたりさーん!」

「なんですか、陽葵」


 前から歩いてきたのは、小野寺陽葵だ。


「いやいや、陽葵ちゃんをそんな汚物を見るような目で見ないでよ」

「……見てないですけど」

「邪魔すんなーって顔してたけど?」

「してないって言ってるじゃないですか」

「陽葵ちゃんに嘘は通じま……」

「ほい、どーした陽葵!」


 険悪な雰囲気になりそうな所を、碧斗が察して制止する。


「ふん。特に何も用はない! どんくらい出来たのか聞きに来たの」

「そーゆーことね」

「そう。陽葵ちゃんは実行委員ですから。で、どんくらい出来た?」

「俺も実行委員だけどな。まあ、小春が速くてびっくりした、まず」

「全然ついてこれてなかったです、碧斗」

「えー! 女の子についていけなかったの?」

「……まあ、はい。そういうことですよ」

「ぷぷぷー」


 陽葵も運動神経は良いので、反論は出来ない。

 多分、陽葵がペアだったとしてもついていけてないだろう。

 多分というか絶対だ。


「小さい頃の"かけっこ"は私が全部陽葵に勝ってましたけどね」

「またそうやってさー。今やったら陽葵ちゃんが余裕で勝つに決まってんじゃん!」


 碧斗を笑う陽葵に、小春の横槍が突き刺さる。 

「本当にどこからでも険悪な雰囲気になるな」と碧斗は思いつつも、こうして面と向かって話しているのも成長、というか仲直りに近付いているのも事実だ。

 今度は、碧斗が制止することはなかった。


「余裕ですか? 笑わせないでください」

「それはこっちのセリフですよーだ! 昔に小春が転んでパンツ見えたのだって覚えてるんだからねー!」

「ふん。私だって陽葵が転んで泣きまくってたの覚えてるんですけど?」

「はー?」

「こっちが『はー?』ですよ」


 過去の思い出で喧嘩し合う二人。

 もはや微笑ましいな、と碧斗が思っていると、ここで最悪の人物が登場した。


「碧斗……って、なにしてんのあんたら」


 三大美女の一角であり、幼なじみの一人。

 如月乃愛の登場だ。


「どこで喧嘩してんの? やば」


 嘲笑うように言う乃愛。


「私と小春でどっちが"かけっこ"速かったか思い出してんの!」

「そうです。私の方が速かったのに陽葵が『違う』って言うので思い出させてあげてたんです」

「違くないし……。もういい、ムカつくけど乃愛に聞こ。そしたら平等でしょ」

「ふん。それでいいですよ。私が速いに決まってますから」


「どう考えても答え決まってんだろ……」と碧斗は思ったが、もはや面白くなってきたので無駄な口は入れない。


「乃愛教えて! 私と小春どっちが早かった?」

「絶対私ですよね? 陽葵なわけないです!」


 プライドを捨て、乃愛に答えを求める二人。

 即答した乃愛の答えはもちろん――


「は? 一番は私に決まってんじゃん。何言ってんのあんたら」


 ――うん、だろうな。


 こうして、陽葵vs小春だった喧嘩に、乃愛も加わってしまった。


「え、は? 絶対ない! 絶対陽葵ちゃんが一番だったから!」

「何回私ですって言えばいいんですか」

「ぜーったい私だから。絶対絶対絶対!」


 バチバチに視線を交える三人。

 火花か飛び散りそうな勢いになったのを確認して、碧斗は口を開いた。


「じゃあさ、今決めたらどうだ?」


 答えは単純。

 今"かけっこ"をして一番を決めればいいというもの。


「いいね、いいねいいねそれ! そーしよ!」


 陽葵がすぐに肯定する。

 乃愛と小春も反論が無いため、肯定しているということでいいだろう。

 そうして、三大美女対抗かけっこが開催されることになった。


「俺が審判してあげるから。ちなみに、贔屓目はしないぞ」

「そんなのいらないし、あったとしても私は頼む……頼まないし!」


「頼む」と普通に言っちゃっている乃愛だが、聞かなかったことにしておく。


「じゃあゴールとスタートは三人で決めてくれ」


 "三人で"と言えば、もしかしたらまた雰囲気が悪くなるかもしれないが、碧斗は賭ける。


「わかりました。そうします」


 が、意外にも小春がすんなり受け入れた。


「昔ってどんくらいの長さだったっけー」

「50メートルは無かった、絶対」

「乃愛、小さい子にはキツイですよそれ」


 戦意は最高潮なものの、普通に会話をしている三人。

 やはり、思い出の効果は絶大だったらしい。


「んー、乃愛、ちょっとそこに立ってて?」

「はいはい」


 陽葵が指示をすると、不服ながらも乃愛は受け入れる。

 そして、20メートルほど離れると、陽葵はそこで止まった。


「こーんくらーいー?」


 乃愛に聞こえるように言う陽葵。

 多分、陽葵の声なら普通に話しても聞こえる。


「そー! そこらへんだったー!」


 乃愛も、陽葵に向かって聞こえるように返事をする。

 相手を気遣えるようになった程までには、関係は進んでいる。否、修復しているのだろう。

 思い出の力なだけかもしれないが。


「うし、じゃあ三人とも位置について!」


 スタートとゴールを確認した三大美女。

 乃愛が引いたスタートの線は、正々堂々真っ直ぐで、不正は無かった。



「ね、あれ見て翔くん」

「何してんだあいつら」

 

 三大美女が横並びになる様子を、遠くから見ていた夏鈴と翔。

 

「絶対競走するんだよあれ!」

「あ、そういうことか。俺も行ってこようかな」

「それ絶対翔くん勝つから」

「そうか、そうだった」


 多分、夏鈴が止めなかったら翔は本気で「俺も入れてくれー」と言おうとしていたので、ナイスだ。


「夏鈴の隣に座って一緒に見てよーよ」

「え……わ、わかった」

「ん、どーしたの?」

「いや、なんでもない」


 無意識の内に、翔を照れさせている夏鈴。

 夏鈴の見た目も、三大美女に負けない程に女の子らしくて可愛いので、翔はタジタジだった。

 


「うし、じゃあいくぞー! 手挙げたらスタートなー!」


 ゴールラインに移動した碧斗の声を皮切りに、一気に三人の姿勢が変わる。

 碧斗を巡るものではないものの、お互いに負けたくないので本気だ。


「陽葵ちゃんの足……頑張るよ……」

「絶対負けない……」

「負けませんから……」


 それぞれの決意をそれぞれにだけ聞こえるように呟く三人。

 三大美女の思い出のかけっこが、時を経て始まる。


「よーい……」


 碧斗の言葉を聞き、更に姿勢が変わる。

 "フライングはしないけど、完璧なスタートを切るぞ"と、ひしひしと伝わってくる。


「どん!」


 碧斗の合図で、完璧なスタートを切った三人。

 走る姿勢も、速さも、全て運動神経の賜物と言ったものだ。


 本当に横並びで進んでいく。

 互角以上の互角。

 拮抗以上の拮抗。


 20メートル先、一番乗りでゴールラインを踏んだのは、


「……やったー!」


 金髪のポニーテールを靡かせながら、乃愛がゴールした。

 最後の最後に、小春と陽葵よりも一歩前に出た。


「よく頑張った私の足!」


 陽葵のような褒め方をする乃愛。

 さすが幼なじみ、と言いたくなるくらいに似ている。


「くっそー! この陽葵ちゃんが負けるなんて……」

「愛の力が……」


 一方、小春と陽葵は、悔しがっている。

 何故か小春は、負けたことよりも愛の力が発揮できなかったことに悔しさを感じているが。


「ふん、やっぱり私が一番だもん」

「ぐぬぬ……悔しい……けど今日は認めてあげる……」

「相変わらず乃愛は速いです……」


 乃愛は、いつも通り二人へと自慢をする。

 だが、陽葵と小春も文句は言わずに、素直に結果を受け入れた。


 そして、乃愛はゴールを見ていた碧斗におもむろに近付くと、


「……ん、一位になったから褒めて」


 と、疲れと恥ずかしさから赤らめた頬で言う。

 表面上は碧斗を巡るレースでは無かったものの、一位になれば話は別だ。

 ご褒美はほしい。

 最初から、"碧斗に褒められたいから"と言えないのが、何とも乃愛らしかった。


「よく頑張ったな」

「……あと一回」


 乃愛は満更でもない顔をしながら、碧斗に"もう一回"をねだる。


「よく頑張りました」


 可愛さに負けた碧斗は、もう一度乃愛を褒めた。

 だが、相手は乃愛だ。終わるはずもない。


「……あと一回だけ」

「何回やるんだよ」

「……うっさい、ほんとにあと一回だから黙って褒めて」

「……お疲れ様」


 このまま言えば、何回でも褒めてくれそうな碧斗に、乃愛は小さく微笑んだ。


「……あと千回」

「……さっきあと一回って言ってただろ」

「ふん」


 さすがに千回は無謀だったのか、碧斗はあっさり拒否をする。

 とはいえ、乃愛の頬は相変わらず嬉しそうに赤らめいていた。 

 そんな二人を見て、陽葵と小春も反論する気が起きなかった。

 無論、疲れが"九割"だが。

 


「あ、乃愛が勝ったみたいだよ!」

「おおー、あのツンデレ女が勝ったのか」


 遠くから見守っていた平和担当の二人は、乃愛が一番乗りでゴールしたこともしっかり見守っている。

 

「そうそう、碧斗にだ……ツンデレの女の子!」

「ん、え?」

「いやいや、なんでもない!」

「そ、そうか」


 何かを言いかけた夏鈴は、直前で堪える。


「それよりさ、夏鈴たちも競走してみる?」


 三大美女のかけっこに感化されたのか、夏鈴は翔に、どう考えても無理な提案をした。


「いいよー、やろうぜ」


 そんな夏鈴の可愛いお願いに、翔も翔で断ることが出来なかった。否、断りたくなかった。可愛いから。


 勿論、夏鈴vs翔の平和対抗かけっこレースは、夏鈴の勝利で幕を閉じた。

 翔も、ちゃんと本気で走ったのに(優しさ)。



 時は経ち夜。いつも通り、グループトークは元気に稼働中。


 乃愛:『二人とも遅くない?』

 陽葵:『うるさいけど、うん、陽葵ちゃんは素直に悔しい』

 小春:『今日は負けましたね。いつもなら勝ってたんですけど』

 陽葵:『てか、乃愛ちょっと速くなってない? ドーピングとかしてるでしょ!』

 乃愛:『してるわけないでしょ! 言い訳にも程があるっての!』

 小春:『ふふ、してたらよかったんですけどね』

 乃愛:『だからしてないっての! ばかふたり!』

 陽葵:『そういえば、乃愛の大玉転がしは順調なの?』

 乃愛:『まあね。ペアの子がへこたれてたけど』

 小春:『それ、全然順調じゃないと思うんですけど……』

 陽葵:『やっぱりバカは乃愛だねーん!』

 乃愛:『うっさいなあ、私が順調って言ったら順調なの!』

 小春:『ちなみに、大玉転がしの練習数なら私の勝ちですよ』

 乃愛:『は? え? どーゆーこと?』

 小春:『碧斗くんから、乃愛は4本しか練習してないって聞きましたから。私は5本も練習したんです!えっへん!』

 陽葵:『あ、それは小春の勝ちだねー!』


 陽葵が小春の勝ちを宣告した瞬間。

 碧斗にとっては冷や汗が止まらない程の、最悪の通達が、乃愛から入った。

 

 乃愛:『ねえ、小春。嘘だよそれ』

 

 小春:『嘘?』

 乃愛:『うん、私10本やったよ。だからペアの子もへこたれてたんだよあんなに』

 小春:『碧斗くん……まさか走るのを避けるために……』

 陽葵:『碧斗、追加で5本けってー!』


 知らぬ所で開催されている自慢大会により、碧斗の嘘がバレてしまう。

 こうして、完璧美女・夜桜小春、別名、鬼の小春による、大玉転がし強化練習をする日が、来てしまう可能性が生まれてしまった。碧斗、ドンマイ。合掌。


 一方その頃、小春の大玉転がし練習で疲れ果てた碧斗は、既に眠りについていた。


『小春! 10本目は無理! 死ぬから本気で!……っておい! 無理だってばあぁぁあ』


 と、地獄のような夢に魘されながら。


 ――――――――――――


 時は、お昼休憩へと遡る。

 場所は教室では無く、外のベンチだ。

 二人の男が、青空の下でお弁当を食べていた。


「なー、お前イケメンなんだからそろそろ狙えば?」

「そんなことないよ」

「めっちゃ告られてるくせによく言うぜ……」

「てか、心穏もイケメンなんだから狙えばいいと思うよ」


 そう会話をするのは、翔でも、碧斗でもない。

 

 ――加藤優太かとうゆうたと、高瀬心穏たかせしおんの二人だ。


 加藤優太かとうゆうた高瀬心穏たかせしおんは、学年の中でも"二大イケメン"と言われている存在。

 優太は爽やか王子系のイケメンで、髪色は茶色。

 一方、心穏はワイルド系のイケメンで、髪を赤く染めている貴重な男子生徒だ。

 男子達が決めた"三大美女"に対する対抗馬、女子達が決めた"二大イケメン"に入る二人である。

 クラスこそ1-Bでは無く、A組であるものの、その格好良さは女子達の中にクラス分け隔てなく影響を与えており、入学三ヶ月にして数々の女の子を虜にしてきた程だ。

 とはいえ、自分から行動を起こしている訳では無い。

 顔と雰囲気が良すぎて、勝手に女子達が好きになっていくのだ。

 

 そんな"華月学園の二大イケメン"は――勿論、三大美女の存在を認知している。

 

 そして――


「優太、一目惚れしてるもんな。陽葵ちゃんに」

「まあね。というか、心穏こそ乃愛ちゃんに一目惚れしてるよね?」


 優太は陽葵のことが、心穏は乃愛のことが、好きなのである。

 だが、これだけではない。

 ある人物に対して、敵対心を持っていた。


「てか、最近転校してきた奴、めちゃくちゃ雰囲気良いらしいぞ?」

「そうなんだ。例えば?」

「体育祭の実行委員も、陽葵ちゃんとペアらしい」

「へえ〜。確かに、一緒に帰ってるとか噂になってたかも」

「なんなんだろうな、あいつ。ちょっとムカつくわ」

「まあ、大丈夫だよ」


 優しめの口調で話す優太と、荒めの口調で話す心穏。

 そんな二大イケメンは――名前も知らない転校生・流川碧斗に、敵対心を持っていた。


「てか、優太は陽葵ちゃんのどこが好きなんだ?」

「あの元気な感じが好きかな。無邪気って言うか。一緒にいて楽しそうだよね」

「まあ分かるわ。確かにそうだな」

「心穏は乃愛ちゃんのどこが好きなの?」

「俺はー、やっぱあの心開いてない感じ? 誰にも見せない素顔がありそうで可愛いよな。絶対あんな性格じゃねーもん本当は」


 数々の女子に告白されてきた心穏には、お見通しらしい。

 たまに見る、乃愛が男子生徒と話す姿。

 その時は優しくしているが、それはきっと、本当の乃愛の姿では無いと。

 ――心を開く男にしか見せない、本当の姿があると。

  

「なんか特殊だね」

「うるせ」


 二大イケメン達は、お互いに陽葵と乃愛の好きな部分を語る。

 そして――


「転校生に取られるのはなんか嫌だよね」

「そーだな。どうする? そろそろ動くか?」

「いや、体育祭が終わったらにしよう。まだ確証が無いからね」

「まあ、そうだな。これで大玉ペアとかだったらそういうことだもんな」

「うん。焦ったらダメだよ」


 まだ、偶然が続いてるだけかもしれない。

 クラスが違うので、実行委員の決め方に介入は出来ない。

 だからこそ、本当に偶然で、陽葵とペアになっただけかもしれないのだ。

 

「でも、本当にペアだったりしたらどうするんだ?」


 その偶然が、必然だったとしたら?

 大玉転がしのペアも、三大美女の一人だったとしたら?

 こんなにも噂が出ている中で、そんな事があれば、それはもう偶然では無くなるだろう。

 その場合はどうするんだと、心穏は問う。


「――もっと、僕はやる気になると思うよ」

 

 今までは、特に動くこともなく、静観していた二人。

 その理由は、確実に落とせる時を待つため。

 でも、転校生が入り、その考えは変わった。

 まだ一ヶ月も経たないはずの転校生が、三大美女と雰囲気が良くなっているからだ。


 ――ならば、取られる前に、取る。

 

 体育祭の後に動くと、二人は決意した。


――――――――


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