第31話 エピローグ2 ただいま

 エターナル・フォース・ブリザードの皆と別れる。

 ドラゴンの死体を【魔法糸】と傀儡かいらいで操り、牛魔人はマーク2の死体を【ストーンスピア】で作った案山子かかしに突き刺して形を偽装して【魔法糸】が包帯にでも見えれば誤魔化せるかとかさ増しに使い【闇の羽衣】で服を着せて背負った。

 ついでにバレないように視界を悪くする目的で【夢の霧】を使ったら、全員が幻惑にかかってくれたので完璧に誤魔化すことが出来た。でも目がトローンとして集団で幻覚を見ている姿には少し恐怖を感じた。

 でもこれでスタンピードで倒したモンスターの魔石全部貰っちゃいました。ゴメン。って事を上手いこと誤魔化せたからいいか。お詫びにドラゴンの素材は全部あげますから。

 最後に飛び出していったユイば無事だろうか?

 あのタイミングで白馬が暴走してくれたおかげで他の皆との別れがスムーズに出来てよかったけど。

 遠くから様子見した感じ、怪我とかしてなさそうだったし大丈夫だろう、たぶん。

 にしても、まさか同じ生き物の素材があれば死体に【ヒール】をかけて体を戻せる【死体修復】なんて聖魔法があったとはね。

 死体を修復なんてそうそう使う機会はないだろうけど。

 ハンマーストーンとの戦いの時もそうだけど、ドラゴンと僕が戦っている間に森では大量のモンスターが生み出されていた。

 強力なモンスターが二体もいると、やっぱり周囲の魔力にも影響を及ぼしちゃうようだ。

 僕の責任みたいなものなので月が出ていて能力三倍の恩恵が出ている夜の内に間引いておくことにした。

 これからは無暗むやみにモンスターを生みださないように僕の魔力を抑える方法を考えないとな。【闇の羽衣】みたいな自分で好きに能力を付けられる魔法、何かないか――お、【光の羽衣】を覚えたぞ。

【闇の羽衣】と同じで一つだけ能力を付けた防具を作れる魔法みたいだ。それと【魔剣所持】の光バージョンの【聖剣所持】もだ。

 森のお掃除をしたらゴーストの姿でヤヤトカイの大穴まで帰ってきた。

 人がたくさんいるのに、僕が誰にも気づかれずに出てきたなんて不自然だからね。

 気配を誤魔化すために【闇の羽衣】を装備して透明化で地面の中を進み、ダンジョン内に潜入。後はチュパカブリの体力が回復して変身できるようになるまで待ってフォールとしてヤヤトカイの街に戻る。

 それまでは暇だからチュパカブリの融合素材であるニードルウルフとモンコモの魔石回収だな。


 ◇◇◇◇◇


 それから一日経ち、チュパカブリの体力が回復した。

 弱いモンスターは体力が少なく早く回復するが、強いモンスターほど体力が多いから回復までも時間がかかってしまった。

 でもその間に色々と試して、新しい魔法をいくつか覚えることが出来たし、魔石もそれなりに手に入った。


「フィール、フォールじゃないか!!」


 ダンジョンの入り口を目指しているとサニーサイドアップの人達と出会った。


「あ、お久しぶりです」


 挨拶をしてから話をする。内容はクーガ団の仲間達が僕の捜索依頼を知り合いの冒険者たちに頼んだというものや、クーガ団がスタンピードの影響が周囲に出ていないかの調査のために、僕の故郷であるカワズ村の方へ行っているらしい。


「情報ありがとうございました。あ、これよかったらどうぞ。ダンジョンで拾った物ですけど」


 ポーチの中から真っ黒な糸を取り出した。これは【魔法糸】で作り出した糸だ。人狼状態で作ったので全魔法属性への耐性のある優れものだ。色は自由に変更できるので黒を選んだのは僕の趣味だ。

 この糸を使って自分の服でも作ろうと思っていたのだけど、感謝の気持ちを言葉だけでなく物でも示しておきたいからね。それに糸ならいくらでも量産できるし。

 取り出した量は明らかにポーチより多いけど、マジックバックがあるので不思議がられる事は無かった。

 僕の場合は【光の羽衣】で作ったイヤーカフに【カオスゲート】にアクセスできる効果を付与しただけなんだけどね。不自然じゃないようにポーチで手元を隠した。


「なんだい、この糸」

「すごい魔力を感じるわ」

「糸を出すモンスターだとシビレグモだろうけど、こんな色の糸ではなかったはずだ。どこでこの糸を?」

「ダンジョン内で拾ったんです。他にも色々と散乱してたけど持ち主の姿はありませんでした」


 出所を聞かれても困るので、拾ったのでわからないという事にしておいた。


「拾った場所や状況も教えてもらえる? 一緒に落ちていた物とか」


 ダンジョンで拾ったものは拾った人のものとなる。どうしても落とし主を探したければギルドに言えば探してもらえる。落とし主が現れたら礼金がもらえ、もし落とし主が現れなければ半年で拾った人の物になる。

 そのためにはギルドに落ちていた所の状況を説明する必要がある。


「場所は――」


 嘘の場所を教えておく。ついでに戦闘中に欠けた牙や爪などはぎ取ったように見えるモンスター素材も一緒に落ちていた事にして渡しておいた。

 半年後、彼らはメンバーの妊娠、結婚をきっかけに冒険者を引退し、黒い糸によって得た資金を元に食堂兼宿屋を経営するのだが、それはまた別のお話。


 ◇◇◇◇◇


 クーガ団の居場所の話を聞いた僕は街には寄らずに故郷の村へ向かった。


「フォール、幽霊じゃないよな!?」


 村に入る少し前に道でクーガ団の皆に出会った。

 周辺の探索を終え、問題がないことをギルドに報告するために帰るタイミングだったらしい。


「ちゃんと生きてるって。ほら触ってみてよ」


 手を前に出す。


「お、ホントじゃ」


 ファイズの義兄さんがその手を握るとグッと引き寄せ、抱き付いた。


「よう戻ってきた。フォー坊」

「お帰り、フォール」

「生きててよかったぜ」

「ご両親も心配していたぞ。無事な顔をみせてやれ」


 みんなから暖かい声で迎えられた。

 あ、僕はようやく仲間の元に戻ってこられたんだ。

 ここまで長かった。まさかドラゴンと戦うような羽目になるなんて。

 これも全て女神様に三度目の人生ラストチャンスを頂いたおかげだ。


「みんな、ただいま」

『おぅ、おかえり』

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