第30話 エピローグ1 バイバイ
突然ドラゴンの張った壁が消えた。空はすっかり夜となり、森を月と星の明かりだけが照らしていた。
自分達で結界を壊すことは出来ず、自然に消えるか外からの助けが来るのを待つしかなかった。
マジックバックからランタンを取り出し明かりを灯す。
「もしかしてジオグーンがやったのか?」
「さてね、時間が経って魔力が尽きたのかもしれませんよ」
「ユイ、ドラゴンの気配はどうなった?」
「まだ大きい気配が一つあります」
「そうか」
ドラゴンとは違う気配なのだが、それがフォールなのかはまだわからない。
もしフォールじゃなかったら仲間を危険な目に合わせる可能性がある。でももしこの気配がフォールならば、下手な事を言えば彼の迷惑になってしまう。
がだ違うのならば彼がまだ戦闘中で危険な可能性も十分にあるので早く向かいたい。
そんなわけでユイは「大きな気配が一つ」という曖昧な情報で仲間が油断しないようにドラゴンの生存を勘違いしてもらうことにした。
「気配はあっちからします」
ユイの案内で全員で気配のした方向へ歩き出す。
途中で森のモンスターと何度も戦闘になりながら進んでいく。
「なんだかモンスターの数が増えてねぇか? これもスタンピードの影響か?」
「ドラゴンの影響ではないでしょか? 強いモンスターがいるとソイツの魔力の影響でモンスターが生まれやすいと聞いた事がありますよ。しかも今はジオグーン君との戦闘中でしょうし、放出された魔力によってよりこの森の魔力が濃くなっているのではないでしょうか?」
「濃くなると言えば、なんだか霧が出てきたみたいね。目的地はまだなの?」
周囲が濃い霧に包まれ何も見えない。ランタンの明かりが何も意味をなしていない状態だ。
「ユイ、気配はどんな感じだ?」
「えっと、それは……」
気配は少し前からこちらに接近するような動きをして、離れた場所からこっちの様子をうかがいながら、強そうなモンスターを倒して自分達を守ってくれていた。だけど接触する気は無いようだった。
(どうしよう、この気配がフォールさんなのは間違いないけど。彼の考えがわかんないよ~。ユイはどうすればいいの。教えてフォールさ~ん)
「グルルゥゥ~」
ユイが困っていると、霧の中からドラゴンが現れた。
「お、向こうから来てくれたみてぇだぞ」
「皆、武器を構えるんだ」
「あれぇ~、ジオグーン君は~どうしたのかしら~?」
「どっかで怪我して、動けないのかも」
そのドラゴンは【魔獣探知】に全く反応がない。
「今は、目の前のドラゴンを倒しましょう。フォ、ジオグーンさんの捜索はその後でも間に合います」
目的はわからないけど、これはフォールが用意した何かなのだと判断したユイは全力で乗っかる事にした。
「ユイさんの言う通りですよ。どっちみちドラゴンを倒さないと捜索なんてしている余裕はありませんからね」
全員が武器を手にドラゴンとの戦いを始めたのだった。
◇◇◇◇◇
「これで、トドメだぁ~!!」
ランドのバスターソードがドラゴンの首を斬り落とした。
「やったな、大将」
「なんだか弱くなかったかしら?」
「ジオグーン君が弱らしてくれていたのでしょう」
「きっとそうだな。アイツが居なければこの勝利は無かったぜ」
全員がドラゴンを倒したことを喜んでいる。すると
「いやー素晴らしいですね。まさかドラゴンを倒してしまうとは」
森から全身鎧を着た狼の獣人が現れた。
ユイは【魔集探知】のおかげで気付いた。その狼こそフォールだという事に。
「誰だ!?」
セイテンが警戒して槍を向ける。
「あ、落ち着いてください。戦う気はありません。貴方達にはジオ~様がお世話になったようですし」
狼が横を向く。その背には気絶した牛の獣人――ジオグーンがおぶさっていた。
「おや? 彼の名前はジオ―ではなかったと思いますけど?」
「そうだぞ、テメェ~なにもんだ?」
まだ警戒を解かないセイテン。ルークも疑っているのか矢の準備をしている。
(あわわ、ユイはどっちの味方をすれば……)
「おや、ジオ―様は偽名を名乗っておられたのですね」
「なにわけわかんねぇ~事言ってんだ? そもそもテメェーは誰だ?」
「おっと、これは失礼。ワタクシとした事が、ジオ―様と再会できた安堵から名乗ることを忘れておりました。ワタクシの名はフォーゼともうします。疑われているようですので、ワタクシとジオ―様との関係からご説明させって下さい。彼はとある村でそれなりの地位にある家の産まれでしてね、ワタクシは代々その家に仕えている使用人でございます」
フォーゼことフォールが語りだす。
ジオグーンが勇者の話に憧れて、村に来た冒険者についていき家出して冒険者になったのだと。名前が違うのは家の者に見つからないようにするためだと。
そしてジオグーンの両親は本人がそこまで本気ならばと彼を許していて、ちゃんと話し合いの機会を持ちたいし、無事な姿を見たいから戻ってきて欲しい。出来れば定期的に会いたいのだと。それを伝えるためにフォーゼはここまで来たのだと伝えた。
「ですのでジオー様にはこのままご実家に帰っていただく予定となっております」
また逃げられても困るのでこのまま気絶している間に連れ帰りりたいのだと。そういうつもりらしい。
「ジオー様は気絶する前、皆様には大変お世話になり、ありがとうございましたとおっしゃっておりました。
(ジオグーンさん、偽名だったんですね。そうですか、実家に帰ってしまうんですね。ユイは寂しいです。でもフォーゼさんはいい人そうですし、ご家族も認めているのなら近い内にまた一緒に冒険を……いや、あれ? 違うよ。 ジオグーンさんもフォーゼさんも、どっちもフォールさんで? あれ? 何だろう、思考がおかしい?)
なんだか思考に
フォールさん、もしかして何かの術を使っている?
すぐに精神を白馬の方に移す。白馬は魔法で作られた存在なので状態異常系の効果を受けないから、精神を移せば異常状態から逃げることが出来る。
倒れたドラゴンはそのまま、そこにある。
鎧を着た狼獣人姿のフォールもそのままだ。声は違って聞こえる、今まで聞いていた彼の声だ。
その背中には明らかに死んでいる牛の頭。
(魔石を取り込むことでそのモンスターになれるって言っていたし、あれは変身の元になったモンスターかな?)
「ア、ソウダナ」
「ウン、ジオグーンハ帰ッタホウガイイ」
「ソノトオリ」
話は進み、仲間がジオグーンとの別れに納得したようだ。
(ひっ)
白馬の目を通して仲間の顔を見ると、目のハイライトは消え、トローンとしていて、口は半開きで
それを見ているフォールの顔が引きつっているように見える。
(え、ちょっと待ってユイは、ユイの顔はどうなってるの?)
背中に乗る自分の顔を恐る恐る見てみると、そこには――。
(イヤ~、フォールさん見ないで。こんなユイの姿を貴方には見せたくないの~)
そこには仲間と同じ姿の自分がそこにいた。ユイはたまらず、白馬の状態で走り出した。
皆はユイが走り出した事を全く気にした様子がなく、そこにずっと立ち続けていた。
それからしばらくして仲間達がユイを追いかけてきた。その中にフォールの姿がなかった事にユイは安堵した。しばらくは彼の姿を見たくない気分だったからだ。
それでも【魔獣探知】で彼の気配を追い続けてはしまう。なんだか複雑な気分だ。
ユイ達は夜の森を抜け、その日の内に報告のためヤヤトカイの街に帰る事にした。
森の中にはまだ、フォールの気配が感じられた。
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