第29話 ゴブリンはザコじゃなかったよ 3
ドラゴンの口の中。
「【魂の同調:トレント】【魂の同調:牛巨人】【魂の同調:大ミミズ】【魂の同調:モンコモ】【魂の同調:グール】【魂の同調:スケルトン】【魂の同調:ドライアド】【魂の同調:酸ゼリー】」
かみ砕かれるたびに別のモンスターに変身してやり過ごす。
「ソウル……」
もう変身できるモンスターがいない。
しかたない、やりたくはないけどれは賭けだ。透明化でやり過ごせなければ終わる。
魔力は残っていないし、物理ならこれで大丈夫だが?
ドラゴンの歯が僕の体を通り過ぎる。ダメージは――ない。
なんだ、無駄にモンスターを消費しなくてもこれでよかったのか。
でも油断してはダメだ。今は何とかなったけど、ブレスが吐ける程度に魔力が回復したら終わりだぞ。
なんとかしなければと思うけど、ゴーストでは勝ち目はないし、逃げきれもしないだろう。
口の中に魔石とか落ちてないかな?
出会った時スネークゴートを食っていたし、その魔石なんかがあったり……。
そんな都合のいい展開はなかった。
この森のモンスターだとほとんどもう回収しているからあったとして変身できるのはスネークゴートくらいだったんだけどな。
それ以外だったら融合してボックスに取り込むための空きを作らないと――。
「そうじゃん、融合があったよ」
チュパカブリを作った時、ニードルウルフは体力の回復中で変身は出来なかったけど融合素材には使えた。
だったら今回も大丈夫なはずだ。
六体の五つ星モンスター『大ムカデ』『シビレグモ』『モフラー』『岩マムシ』『ニードルウルフ』『ゴブリン』を使用欄にセット。そして全員で融合を選択。
今回は産まれるモンスターを選べるようだ。選択肢は以下の三つ。
『ビーファイター/兵隊蜂/槍蜂/巨大スズメバチ』
名前からハチのモンスターのようだ。槍を装備しているのかな?
素材に虫モンスターがいっぱいいるから引っ張られたのかも?
『ゴブリンキング』
この辺では数十年に一度現れるゴブリン達のボスだ。話には聞いた事があるけど見たことは無い。このモンスターがいるとゴブリンの力が増すんだとか。ハンマーテイル以上のモンスターで目撃されると大騒ぎで冒険者に緊急依頼が出るとか、街の衛兵と協力して討伐して、死者が大量に出るとかそんな話だったな。
強いのは間違いない。
『人狼?』
なぜに疑問形なのだろうか。
見た目は人狼だけど中身が違うという事?
本来の人狼の強さはハンマーテイル並み。それが複数で動くから脅威度はより増すけど、一体ならば牛魔人で対抗できる。
五つ星モンスター六体分の能力の半分、つまり三体分の身体能力となるとまぁ、牛魔人よりは強い。
そうなれば普通の人狼かは疑問になるって事かな?
「六つの極めし魂を束ね、今ここに新たな
成長した時に差は出るけど最初の能力値は同じく六体の合計の半分。
だったら後は見た目で選んだ。
毛の色は普通の人狼と同じく銀だ。勇者の物語に出てくる狼の魔王、
大きさも人間サイズで普通の人狼と同じだ。違いは何だろう?
実際の人狼にあった事がないので違いもわからない。
でもなんだか体の内から力が
それに、腹が、減った……。
弱ったモンスターだけで融合したから体力が低下しすぎているせいでお腹すいているとか?
そう思ってボックスを開いてみるが体力も魔力も満タンだ。
じゃあなんでこんなに暴れたいんだろう?
「【エレメンタルアーマー】【エレメンタルソード】」
いつまでも口の中にいてもしょうがないし、歯を殴って出口を作る。
能力を見ながら空中に浮かぶ。
・【
あ、これドラゴンも使っていた
ドラゴンの攻撃をかわしながら能力の確認を続けていく。
飛ぶ事も出来ず、尻尾も武器もない。攻撃方法が片手の攻撃か蹴りしかないので、人狼の能力を確認しながらの片手間でも戦える。
・
これは魔法ではないので魔力は消費しない。しかも付与魔力の効果は斬撃に乗せる事が出来るようだ。
・群れの
仲間にバフをかける能力か。すごく便利だけど、これ全部の人狼が持っていたらすごく厄介だな。互いが互いを高めあいまくって、しかも信頼関係が高ければ新しい力をくれるんでしょ?
もしかして名前の「人狼?」はこの力をもっているからか?
人狼(隊長)とか人狼(兵長)、人狼(指揮官)みたいな事だったの?
そんな事を思っていると、正解ですと言いたげに名前が「人狼?」から「人狼(部隊長)」に変化した。
女神様に入れてもらった【魂の同調】の知識によると、変身するときはわざわざ(部隊長)を言わずに人狼と言うだけでいいようだ。
ドラゴンの拳を片手で止めて、蹴りで返す。
・月の祝福――月が出ている間、身体能力が三倍になるが、かわりに満月になっていくほど強化中の自身が抱いている欲望が強くなる。
あ、この体の奥から力が湧き出す感覚と暴れたいとか食いたいって気持ちはこの能力の効果か。
空はまだ明るいが、月は昇り始めている。だから能力が発動して、新しい魔石が欲しかった気持ちが食欲に、ドラゴンを倒したいって気持ちが暴れたい、血が欲しいって気持ちに繋がったんだろうな。
今空にある月は満月ではないけど半分よりは丸い。今でこれだと満月だとどれくらいの衝動に襲われるのだろうか?
満月の日には人狼にならないように注意しておこう。憶えていたらね。
・獣化――狼に変身できる。大きさもある程度変化可能。
ある程度の大きさ変化ってどれくらいだろう?
わからないから試してみよう。狼に変化。
子犬サイズから今のドラゴンと同じ大きさまで変わることが出来た。
せっかくなのでこのまま戦おうか。
お腹もすいたので腕に噛みつく。
・【魔法糸】――魔力で糸を作り出す無属性魔法。糸には出した人物の持っている魔法属性への体制がつく。動物性の物を消費する事で魔力が尽きても消えない糸を作る事が出来る。
これは人狼の能力でなく融合前のシビレグモかモフラーの幼虫の持っていた魔法だろう。
・傀儡――糸を付けた相手を操る。ただし相手は抵抗可能。
これも糸を作れるモンスターのどちらかが元々持っていた能力だろうな。
【麻痺の刃】――武器に麻痺を付与
これは名前からシビレグモの持っていた魔法だろうな。融合に使った六体の中で呪術魔法を持っていたのはシビレグモだけだったし。
【シャイニングアロー】――光の矢を作り放つ魔法
大ムカデから受け継いだ光魔法だ。
【ウォーターボール】【ファイヤーボール】【ストーンボール】【ウィンドボール】
ゴブリンの持っていた四属性のボール状にして撃つ魔法。他に【ヒール】もゴブリンの力だ。
後新たに手に入れたのは融合に使ったモンスターの持っていた魔法と、僕が今までに使った事のある魔法が全部無詠唱で使えるようになったくらいだな。
ゴブリンが五属性を持っていたのと、残りの光を大ムカデ、闇をモフラー、呪術をシビレグモがもっていたおかげで全属性の魔法が使えるようになったぞ。
人狼の能力はこんなものかな。
さて、確認を終えたしドラゴンとの戦闘に集中しようかな?
ちぎった腕をカミカミする。もう肉はほとんど残っておらず、骨の歯ごたえを楽しんでいた。
ドラゴンは動かない。足元には血の水たまりが出来ていた。
体から煙を出し、徐々に縮んでゆく。
そして最初に遭遇した時の見た目と大きさへと戻っていった。
強化魔法の効果時間が経過したのか?
僕も相手に合わせて自分の大きさを大ムカデと同じ七、八メートルくらいに変化させた。
ドラゴンは動かない。前足がなく、バランスを崩して、そのまま倒れた。
まったく立ち上がろうとしない。
あれ? これってもしかして倒しちゃった?
ゴブリンまででそうとう追い込んでいたのだろう。人狼になってからの戦闘での達成感が全くない。
僕はただ能力の確認をしていただけだぞ?
きっと
つまりここまで耐えきった僕の勝利って事だ。なんとも納得できない最後だなぁ~。
次出会った時は実力でドラゴンを倒して、胸張って勝ったぞという気分に浸りたいものだ。
それまでにもっと力を付けておこう。
とりあえず終わったので片づけをしよう。ドラゴンは戻り、壊れた武器や防具は魔力になって消えたが、切り離された強化された体や血はそのままの状態で放置されている。ドラゴンの素材を全部【カオスゲート】で回収しておく。
また洞窟の時のように肉を放置してモンスターが集まるような状況は避けたいからね。
獣化を解いて人間サイズの人狼姿に戻る。
人狼の嗅覚と聴覚がこちらに来る七人の気配を感じ取った。
エターナル・フォース・ブリザードの皆だ。ドラゴンが倒れた事で仲間を封じていた結界も消えたのかな?
それとも自力で脱出したのだろうか?
ま、どっちでもいいか。
それよりどうしよう? 牛魔人になれないからアレになれないぞ、偽名のえ~と、何だっけ? ジオング? いや、なんか違う気がするな……。
一難去ってまた一難。仲間が到着する前に何としてもこの難題を何とかする手段を考え付かなければ。
どうする、僕……。
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