第32話 エピローグ 3 出会い

 仲間と再会し、実家にも帰り、【カオスゲート】内に溜まっていた肉の一部を出して宴会をして、そうしてヤヤトカイの街へと戻ってきた。

 街はお祭り騒ぎだった。それはそうだろう、あのエターナル・フォース・ブリザードがハンマーテイルを倒しただけでなく、さらにドラゴンの討伐までしてきたのだから。

 街の入り口の門番も興奮した様子で街の状態を伝えてくれた。


「はにゃ! フォール君、生きていたにょ。よかったにゃ~」


 報告しに来たギルドで受付のリルリルさんが僕の姿を見て喜んでくれた。クーガ団は基本彼女のいる受付に向かうから向こうも僕たち全員の顔も名前も覚えていてくれている。僕がダンジョン内で行方不明になっている事も知っていて心配してくれていたようだ。


「はい、無事に戻ってきました」

「それは良かったにゃ。それと、匿名希望にょとある人からフォール君に手紙を預かっているにゃ」

「手紙ですか?」

「取ってくるからちょっと待っていて欲しいにゃ」


 ギルドに併設されている食堂ではドンチャン騒ぎが起きていた。その中心にはランド達の姿があった。

 それを囲むたくさんの冒険者たち。


「あちらさんは凄いな」

「ドラゴン退治の英雄様だそうだからな」

「ドラゴンのぉ~わしゃ~もう出会いとうないのう」

「アニキは一度会ったんっすよね」

「若かったころに山に住んでる鋼鉄竜こうてつりゅう煉獄れんごくに出会って五秒で爆弾投げて逃げた話な」

「親友の爆弾の自慢話な」


 ファイズの義兄さんが七十の若かりし頃、友達と一緒に山へ採掘に行く途中でその山に住むドラゴンと出会った話だ。

 その時に友達が作成した爆弾を使ってなんとか逃げたのだった。

 ちなみに僕が非常時のために持たされた爆弾もその友達の作品らしい。


「でもあの爆弾実際にすごかったよ。あれがなければ僕は死んでたんですから」


 爆弾があったから最初に大量魔石がゲット出来たし、マーク2に勝てるきっかけも出来た。


「お、そうか。役立ったか」


 友達を褒められた義兄さんが嬉しそうな顔をする。


「おまたせにゃ~」


 リルリルさんが手紙を持って戻ってきた。


「で、手紙の差出人って誰なんですか?」

「それは本人にょ希望でニャイショにゃ。ギルドは秘密は絶対にはにゃさにゃいにゃ」


 ま、中身を見れば誰かわかるかもな。

 その場で封を切り中身を確認しようとする。


「あ、待つにゃ、一人にょ時に開けて欲しいそうだにゃ。部屋を用意するからそこへ行くにゃ」

「あ、はい」


 そんなわけでリルリルさんがテキパキと個室を用意し、僕はそこへ押し込まれた。

 手紙はユイからだった。内容は図書館の歴史書のコーナー近くの席、水曜日の十六時から閉館までの一時間待っているというもの。

 特定の日付でなく曜日なのは、いつ僕がギルドに来て手紙を受け取るかわからなかったからだ。

 手紙は一分もしないで読み終わる量だったので手紙を【カオスゲート】に仕舞い部屋を出た。


「今日って何曜日でしたっけ?」

「水曜日にゃ」

「今何時ですか?」

「四時半にゃ」


 今日だ。しかも時間もちょうどいい。


「すいません。用事が出来たんで行って来ます」

「お、おう……」


 もう時間がないので走り出した。

 どんな話か分からないけど呼ばれたなら行ってあげないとな。

 彼女にはモンスターだって言っているし、それ関連で何か話しておきたい事があるのかも。

 さっきの宴会の場にユイの姿はなかった。小さいし人が多いから見えなくなっているだけかと思ったけど、せっかくの仲間達との宴会を抜けて僕との接触を優先させているのだとしたら悪いしね。

 裏路地から壁を蹴って屋根に乗ってショートカット。

 閉館前に図書館に到着。呼び出された席へと向かう。

 いた。ユイは何かの本を読んでいた。

 このへんの棚だったら僕だったら勇者関連の時代の本を読んでいるかな。


「あ、えっと……」


 来ては見たけどなんて話しかけよう。

 僕は彼女を知っているけど、向こうは僕のフォールとしての姿は知らないもんな。


「はい?」


 彼女が本から顔を上げ、こちらを見る。

 だったらまずは自己紹介だろうな。


「はじめまして。僕はフォール。冒険者をやってます」

「その声、間違いないです。来てくれたんですね。これが本当の、貴方の姿――」


 そろそろ閉館だというアナウンスが流れた。

 ユイは本を棚に戻し、そして僕達は喫茶店に向かった。

 約束だった勇者の話でもしながら夕食を食べるために。


~Fin~




 ◇Extra◇


 ここはイノナカ国の王都にあるギルド支部。

 そこには今日、イノナカ国中のギルド支部の支部長が集まっていた。


「それで、ドラゴンは大穴で突然変異したモンスターに引き寄せられたと?」

「はい。ヤヤトカイの大穴のスタンピードとドラゴン出現のタイミングのズレからそのように判断しております」

「しかし、その突然変異モンスターは見付かっていないと?」


 モンスターの中にはある日突然変異を起こし、より強いモンスターへと変化する個体がいる事がわかっている。

 そしてそれが起こった時、弱いモンスターが逃げるようにそのダンジョンから逃げ出したり、逆に強いモンスターが引き寄せられるようにそのダンジョンを目指すことがある。

 これは支部長クラスの職員だけが知っている情報だ。

 今回もスタンピードの起きた順番からヤヤトカイの大穴に何か強いモンスターが生まれたのではないかと推測されていた。


「はい。ダンジョン内や周囲を捜索しましたが、それらしいモンスターは見つけられませんでした。ただし近くのヤヤトカイの森で、森の木々より大きな二体のモンスターが戦っているのを目撃したという複数の報告もあります」


 支部長たちが手元の資料を眺める。


「片方は竜人ドラゴニュート、もう片方は狼のような姿ですか……」

「何かしらの魔法で巨大化したドラゴンとモンスターということですかな?」

「狼という事は、あのへんだとニードルウルフの突然変異だったか?」

「つまりモンスターはドラゴンに食われて姿も残ってねぇってことか?」


 資料を見ながら意見を出していく。

 ヤヤトカイの支部長も同じ予想だったので肯定する。


「はい、現状から考えるとそのように思われます」

「そのドラゴンも冒険者によって倒されたと」

「では今回のスタンピードは終結したと?」

「そのように判断しております。対外的には『若いドラゴンが新しい巣を探して街の近くにやってきて、それに興奮したモンスターが暴走した』とそのように報告しております」

「では後はドラゴン殺しの英雄様を称えて終結を宣伝するだけですね。国王からも王都にエターナル・フォース・ブリザードを呼び寄せるようお願いされましたしね」


 国王からの招待状を王都の職員からヤヤトカイ支部長へ渡された。


「かしこまりました。渡しておきます」

「おう、了解。んじゃ、これでヤヤトカイのスタンピードの報告は終わりだな。じゃ、次の議題は――」


 そして話は次へと切り替わった。

 ここにいる誰一人として疑ってはいなかった。ダンジョンで産まれ、ドラゴンを倒すまでに育ったモンスター――フォールが生き残っているという事を。

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