第26話 蜘蛛の女王 クリムゾンレディー 2

「終わったよ」


 マグマボールを全部倒した事を伝えにシモンが戻ってきた。

 女王クリムゾンレディーの指示で動く蜘蛛アカシマグモと違い、統率のとれていないマグマボールはただその場にいて、たまに近付いてきた相手に火球の魔法【ファイヤーボール】で攻撃してくるだけだった。

 そのため遠距離からの攻撃で比較的簡単に倒すことが出来た。


「ありがとうございます。では次はアカシマグモを――」

「うわ、なんだこれ!!」


 ランドが蜘蛛の出した糸を踏んだ。その粘り気のある糸のせいで地面から足が離せなくなった。

 そこへやってきた蜘蛛の尻から出た糸がランドの体をグルグル巻きにする。

 動けなくなったランドへ【炎の刃】で足や牙に炎を付与した蜘蛛達が襲う。


「爆弾をランド君へ、水の刃もお願いします」

「りょ」

「【水の刃】」

「【炎の刃】」


 急いで対応するために指示を出す。

 ルーク自身も呪文を唱え、シモンの投げた爆弾に火を追加する。


「アリシアさん、頭上通過の爆弾に風を」

「【風の刃】」


 水と火と風、三つの力が付与された爆弾はランドに当たり爆発した。

 糸は火炎体制があるようで燃える事は無かったが、風の刃で切り裂かれ水に流され体からはがれた。

 ライムを襲おうとした蜘蛛も爆発に巻き込まれダメージを負う。


「ライムさんは地面についた糸を凍らせてもらいえますか?」

「【アイスボール】」


 また同じように糸を踏むことのないように凍らせてカバーすると同時に、糸の位置をわかりやすくしておくことにした。


「わりぃ、助かった」


 礼を言い、体力回復ポーションを頭からかぶる。

 風の刃で切り裂かれた傷が塞がっていく。


「【輝きの護衛壁】」


 クリムゾンレディーの相手をしていたセイテンを背後から襲う蜘蛛を止めた。その後でライムに【水の刃】をかけてもらった白馬の角でその蜘蛛を突き刺した。

 頭を振って、角に刺さった蜘蛛を離す。体に穴が開いたがまだ倒せてはいない。

 弱った蜘蛛にルークの矢がトドメを刺した。

 クリムゾンレディーが指先から糸を出す。その糸をムチのように振って攻撃。

 両手の指で合計十本の糸がセイテンを襲う。

 セイテンはその糸をしゃがんで、跳んで、体をひねって、アクロバティックな動きで器用に避け、接近していく。

 そして槍を突き刺さそうと構え、その瞬間、下半身の蜘蛛の口が開いた。

 炎のブレスがセイテンを襲う。

 セイテンの前に光の壁が現れ、その炎を防いだ。

 光の壁を踏み台にセイテンが空に舞う。

 クリムゾンレディーの頭上を越えながら、肩に一撃を入れて背後に着地した。

 下半身の蜘蛛の尻から糸が出る。


「しまっ」


 セイテンの体が糸に捕らわれ動けなくなる。

 上半身が体をひねり、指先の糸のムチが動けなくなったセイテンを襲う。


「うりゃ~」


 空からバスターソードが降ってきて、ムチの糸を斬った。

 投げたランドはそのあと武器回収のために素手で蜘蛛を殴りながら迫ってくる。


「【アイスボール】」


 もう糸が出せないようにクリムゾンレディーの手を凍らせる。


「はい、これで動ける?」


 アリシアの風を付与された剣がセイテンを捕らえた糸を斬る。

 その後でアリシアはバスターソードを片手で持つと、ランドに向けて放り投げた。

 空中で投げられたバスターソードをキャッチ。

 そのままセイテンが傷付けた肩を攻撃した。

 クリムゾンレディーの右腕が落ちる。

 ランドに向け下半身がブレスを吐く。

 バスターソードを盾にしてそれを防ぐ。


「ランドばかりに気を取られてて大丈夫かしら?」

「オラ達も忘れねぇで欲しいな」


 ランドを攻撃するクリムゾンレディーを背後から攻撃する。

 剣が左腕を切り裂き、槍が胸を貫いた。


「キィー!!」


 ブレスが収まり、クリムゾンレディーの首が百八十度回転して二人を見た。

 縦ロールの髪が伸び、ドリルのように回転して二人を襲う。

 アリシアが盾でドリルを防ぐ。


「くっ、ダメね」


 徐々に盾に穴が開いていく。


「そりゃ~」


 ランドがクリムゾンレディーの体を掴み持ち上げ、ジャーマンスープレックスを決めた。


「二人とも無事か?」

「えぇ、なんとかね」


 盾に空いた穴越しにランドの姿を見るアリシア。まさに間一髪という所だった。


「大将もムチャすんなぁ~」


 下半身の蜘蛛の足が空中でワキワキと動いている。

 セイテンはそれを見てなんだか変わったキノコみたいだな~という感想を抱いた。


「【アイスボール】」


 逆さになったクリムゾンレディーにいくつもの魔法が当たり氷漬けにになった。


「やったか?」

「さぁね、でも今の内に蜘蛛を片付けましょ」

「姉御、今少し動かなかったか?」


 ガタガタとクリムゾンレディーは動き、氷にヒビが入る。


「動いているわね」


 とりあえず近くにいた蜘蛛を攻撃しながら氷の様子も見ている。


「【アイスボール】」


 追加の攻撃で氷が厚くなっていく。


『クリムゾンレディーはライムさんが押さえます。今の内にザコを倒してとルークさんが』


 白馬がやってきてユイの声でルークの指示を伝える。


「あいよ」

「わかったわ」

「おう」


 三人がバラバラに動き蜘蛛を片付けていく。

 後衛組三人と白馬がずっと蜘蛛を片付け続けていたので残りは十匹もいなかった。

 ハンマーテイルの時のように倒しているそばから新しいモンスターが産まれるなんて事もなく、順調に数を減らしていく。

 数分で蜘蛛の処理が終わり、全員が集まる。


「【サポート】【魔力ブースト】」

「【水の刃】」


 切れた強化魔法をかけなおし、ポーションを飲んで使った魔力も回復させる。


「そろそろ出てきますよ。みなさん準備をして下さい」


 氷の塊の内側で炎が燃え、ガタガタと動いている。

 やがて氷が蒸発し、炎のブレスと、腕の切断面から金色の糸があふれ出した。糸が手足のように動き逆さになった体をもとに戻す。

 その邪魔をされないように炎が何十発もの火球となり七人を襲う。


「【輝きの護衛壁】」


 その全てをユイが防いだ。

 全員が動けない間にクリムゾンレディーは糸を伸ばし切り落とされた腕を回収し、自分の体に縫い合わせら。

 グー、パーと手を動かし状態を確認。そしてジャンプして光の壁を飛び越えた。

 指先から糸を伸ばし、編み込んで剣と盾を作り出す。

 七人の中に飛び込み髪の毛のドリルで攻撃。

 シモンがライムを抱いて避けた。ルーク、セイテンの二人は自力で回避。アリシアはユイを背後に盾で守ろうとしたが、そこで盾に穴が開いている事を思い出した。

 白馬がその身でドリルを受ける事でユイ達を守る。白馬は光となって消えた。

 ランドはバスターソードでドリルを受け流しながら反撃。

 それは糸の盾によって防がれ止められた。

 糸の剣がランドを襲う。


「【ヒール】」


 ランドの傷はすぐにユイによって治療された。

 ランドとユイ以外の全員が一斉に攻撃を放つ。

 クリムゾンレディーが再びジャンプしてそれを避けた。空中で蜘蛛の足から火球が放たれる。


「【輝きの護衛壁】」

(出ておいで)


 火球を防ぎながら白馬を再び召喚しておく。


「【アイスボール】」


 氷と矢とクナイを空に投げる。

 蜘蛛の足二本が横を向き、その二本から出た火球が爆発してクリムゾンレディーの体を吹き飛ばす。

 三人の攻撃は空を切り、ドラゴンの張った壁に爆発が起こる。

 クリムゾンレディーの移動先にセイテンが衝撃波を飛ばす。

 ドリル髪が伸びて衝撃波を防ぐ。

 切れた髪はそのまま地面に落ちるが、すぐに伸びるので意味はないだろう。 

 クリムゾンレディーは壁に着地し、爆発でまた移動した。

 何回か爆発による移動を繰り返してユイ達を翻弄する。


「ユイさん、ライムさんこんど攻撃が着たら――」


 ルークが作戦を伝えた。二人が無言でうなずき、その時に備えて意識を集中させる。

 そしてドリルによる攻撃が来た。

 白馬の体がドリルによって貫かれた。


「【アイスボール】」


 その白馬ごとクリムゾンレディーのドリル髪が氷漬けにされた。


「今です」


 動けなくなったクリムゾンレディーに全員が攻撃した。

 ラドンとアリシアが左右の腕を斬り、シモンが首をはねた。セイテンは下半身の蜘蛛の額を突き刺す。

 落ちた腕や首はまた縫い合わされないようにシモンがすぐにマジックバックに回収した。

 手や首が落ちても、まだクリムゾンレディーは動いた。

 切断面から何千もの糸が溢れて周囲を襲う。

 だがすでに全員が離れていて被害を受けるものはいなかった。


「【拡散する波動】【魔力ブースト】【暴走する魔力】」

「【炎の刃】」

「【水の刃】」

「【風の刃】」


 シモンの爆弾とルークの矢に込められるだけの魔力が付与される。

 そしてクリムゾンレディーの足元に転がされた爆弾に矢がぶつかると大爆発が起きて、火柱が上がり、竜巻が発生し、氷の塊が舞う。


「【輝きの護衛壁】」


 魔力強化の魔法のおかげで、ユイの出した壁も巨大な城壁のようだ。

 その壁が爆発を抑え、仲間を守る。


「やった、のか?」


 爆発が収まるとそこには、動かないクリムゾンレディーの姿があった。

 しばらく待っても動く気配がない。試しにマジックバックに入れてみたら入った。

 これで完全に終わったというわけだ。


「後はこの壁か」


 クリムゾンレディーを倒してもドラゴンの張った壁は残ったままだ。


「これは、ジオグーン君を信じて待ちますかね?」

「それもいいが、オラは自力で出る方法を試してみっかな」

「そうだな。ジオグーンも助けが必要かもしれんしな」


 ルークは様子見、セイテンとランドは何とかして壊す気でいるようだ。


「【魔獣探知】」


 ユイはそんな仲間達から少し離れたところで小声で呪文を唱えた。

 フォールが心配で、彼の生存を確認するために魔法を使ったと知られるのが恥ずかしかったからだ。


(え、うそ……)


 ドラゴンの気配はまだある。そして、それよりもさらに大きな気配が一つ。


(もしかして、これがフォールさん?)


 今までのフォールの気配とは明らかに違う。前はドラゴンよりも小さく、ハンマーテイルと同等か少し下といった所だった。

 だけどこの森にドラゴンより強い新たな脅威が現れたと思うより、前に説明してもらったフォールの力で強いモンスターになったと思う方が自然な気がした。

 そうじゃなかった場合、彼の気配は感じられない事から【闇の羽衣】の効果で誤魔化しているか、そうでなければもうこの世には居ないという事なのだから。


(お願い、どうか無事でいて下さい。フォールさん)

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