第24話 漆黒の瞳もつ真紅の龍 3
ドスン、と重い何かの落ちる音。
光が消え、そこには何もいなかった。
もしかして塵も残さず消し飛ばした?
なんて事あるわけないよね。さっき落ちる音が聞こえたし。
浮かぶ盾に立って地上を見ると、全身から血を流しているがドラゴンはまだ生きていた。
角が折れ、翼にも大きな穴が開いている。これならばもう飛ぶことは出来ないだろう。
「グルルゥゥ~」
全身に紫色の光を帯びている。さっきの攻撃で体中に毒が回っているようだ。
鱗が何枚もはげ、流血や毒で弱っていても、その瞳に宿る殺意は全く衰えていない。
まだ戦うつもりのようだ。
「逃げろ!!」
何かを察知したランドが叫んだ。
「グウォォ~」
ドラゴンの全身から炎が噴き出し、津波のように周囲を襲う。
もともと手甲の能力を使ったら逃げる予定だったので皆の動きは速かった。
それでも炎の迫る速度の方が早く、すぐに追いつかれそうだ。
自分が乗っている盾以外の空中に浮かぶ全部の盾を守りに向かわせた。
ユイも【輝きの護衛壁】で仲間を守っている。
二重の守りによって止められた炎は左右に流れていき、誰一人炎に飲まれる者はいなかった。
「グルルゥゥ~」
ドラゴンの声が横から聞こえた。
しまった、ランド達の事に気を取られてドラゴンの動きを気にしていなかった。
ドラゴンの傷は炎に焼かれて塞がれている。
穴の開いた翼も今は炎に覆われ補強されていた。
「【夢の霧】」
ドラゴンが一回転して上から尻尾を叩きこむ。
幻覚を見せるこの魔法で偽物の僕を攻撃してくれればと思ったが、そんな事は無かった。
足場にしていた盾は砕かれ、地面へと叩き落される。
「【超音波】【石化】【魔封剣】」
落ちながら全部の状態異常魔法を試してみた。どれも変化ない。魔封剣も当たったけどマーク2に当てた時のように光る首輪で拘束されていない。
毒だけは有効だったけど、それ以外の状態異常はだめだ。
その毒ももう効果が切れているようで、体の周りに現れていた紫の光は消えている。
「【ビックシールド】」
空中で半回転して盾の上に着地。そして新たに出来た盾の足場を利用して移動。
「【
さっきの攻撃で【闇の羽衣】と【岩石の鎧】は壊れてしまった。変身は解けなかったが全身が痛かった。だからダメージの回復のためにチュパカブリとチェンジだ。
新たな鎧と剣も用意する。
仲間が逃げるための時間稼ぎ、それが今の僕の仕事だ。僕なら本体さえやられなければ一回死んだくらいじゃ問題ないからね。
皆が逃げた方向とは別の場所に誘導するべきだよな。ランド達はどこに行ったのかな?
ドラゴンの位置を気にしながら、地上の様子も見る。
「え、何アレ?」
四方に炎の柱が立ち、半透明な赤色の魔力の壁で覆われた四角い空間。
そこでランド達は赤色の酸ゼリーと同じスライム系のモンスターや赤と黒の縞模様の蜘蛛、それと蜘蛛の下半身に人間の女性の上半身を持つモンスターと戦っていた。
いったい何があったんだ?
少なくともあの四角い空間に囚われていたら彼らは逃げられないじゃないか。
「あの結界、壊せないかな?」
とりあえず一番強そうな蜘蛛女性モンスターを狙って剣を投擲。
剣は赤色の壁に当たると爆発して弾かれた。【ストーンスピア】で出した剣なので操作して手元に戻す。
上空での爆発にユイとルークの視線が上を向く。
状況を確認して問題ないと判断したのか、ルークはすぐに視線を目の前の敵に戻した。
ユイの方はしばらく僕を見て、そして笑った。
ユイの口が動く。何を言っているかわからなかったが、僕の体に金色の粒子が追加された。
いつの間にか【聖女のヴェール】の効果が切れていたんだな。それが今かけ直された。
なんだか「こっちは大丈夫です。フォールさんも無理はしないでください」と、そんな彼女の声が聞こえた気がした。
「ありがとうユイ。そっちも気を付けてね」
聞こえないのはわかっている。それでも口に出して彼女に感謝の言葉を言いたかった。
「どうか、誰も死なないで――」
「グウォォ~」
ドラゴンの咆哮、でもユイのおかげでスタンはしない。
盾を跳びながらドラゴンの体に斬りつける。鱗にヒビが入るのは牛魔人の殴った時と同じだ。
チュパカブリの方が攻撃力は弱いのに同じ結果になったと思うと剣を用意して正解だったという事だな。
首を曲げブレスを放つ。ドラゴンの体を蹴ってブレスを回避。
移動した先で横から尻尾で叩かれた。
僕は別に空を飛べるわけじゃない。空中に出した盾をジャンプで移動しているだけだ。
だから移動の行き先も、着地する場所も予測可能なわけだ。
鎧が破壊されて吹っ飛ばされる。
そこへさらにドガゴンの口から火球が何発も――。
ここで仕留めてやるという気合が伝わってくる。
「【魂の同調:ブットビ】【雷光一閃】」
亀の姿になって回避。
ランド達とけっこう離されたからな。ここならモンスターに変身しても見られる心配はない。
火球は途中で軌道を変え、僕を追う。
周囲で何度も爆発が起こる。甲羅が破壊され、外の様子が見やすくなった。
マーク2の攻撃でも耐えられたブットビの甲羅が――
「【雷光一閃】」
これはマズい、もし爆発の途中でブットビの体力がなくなったら、次に攻撃を受けるのはゴースト本体。そうすれば僕はまた死ぬ。
まだ変身が解けていない内に地上を目指して逃げる。背中で大爆発。
「かはっ――」
爆風と【雷光一閃】で一気に地上へと落ちていく。
その途中で変身が解けた。
体を炎に包み突進してくるドラゴン。火球もまだ僕を追尾してくる。
「【魂の同調:酸ゼリー】」
とりあえず何かに変身しておかなければと思い、ぱっと思いついたものになる。
そういえば酸ゼリーは水魔法の適性があったはず。なにかしら火球に抵抗できる魔法があれば……。
「【流水の鎧】【岩石の鎧】【アイスボール】」
水と土、二つの魔法の鎧が混じる。今は酸ゼリーなので鎧というより兜だけだが。
青い兜。額に氷で出来た宝石が埋まり、溝に水が流れている。
火に対抗できる水の魔法。そう望んで僕の中から出てきた魔法が【流水の鎧】だ。水で包まれていれば火は怖くないって事かな?
それとライムも使っていた水魔法。
水の玉が火球と衝突して火を凍らせた。
よし、あとはこっちに来るドラゴン本体だ。
「【魂の同調:モンコモ】」
水魔法は切り札になるかもしれないから別のモンスターになっておく。
今のモンコモは融合で消費して二体目。まだまだ星なしのザコモンスター。
空を飛べる以外の利点はない。
「空を飛べるだけ。それで十分だ!!」
鎧もモンコモに変身して変化した。背中に着いたバーニア。そこから大量の水が出て移動の速度を上げる。
正直ただ飛ばされているだけで、自分の意思で動かせていない。
勢いのままとりあえず地上を目指して放水を続ける。
「【魂の同調:牛魔人】【カオスゲート】」
地上までもう少しの所で【カオスゲート】を使う。
これからの戦いのために魔石を回収して岩マムシを五つ星にしておこう。
「いや、どうせならこのまま全部取り込むか。今は少しでも戦力の欲しい状況、ランド達には後で謝ればいいか」
明日の事は明日の僕に任せよう。
悩んでいたらすぐにドラゴンが接近してくるから、少し離れたこのタイミングしかない。
片手を【カオスゲート】の黒い球体に突っ込んだ。この魔法は取りたい物を思い浮かべて取り出すから、中に入っている魔石を持つ全モンスターと思うだけでそれ全部に触れているのと同じ状態になる。
外に出して一体一体触れていくより、このまま魔石を吸った方が早い。
そして五つ星まで届き、魔石が回収しきれなかったモンスターは岩マムシ、ニードルウルフ、シビレグモ、モフラー、大ムカデの五体。ゴブリンもピッタリで五つ星となった。
準備完了、さあ来いドラゴン。
皆は無事にモンスターを倒せているかな?
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