第23話 漆黒の瞳もつ真紅の龍 2

「グウォォ~」


 ドラゴンが吠える。

 それだけで体が震えて動けなくなる。

 コイツに逆らってはならない。そう本能が伝えていた。

 スタン系の攻撃だったか?

 ドラゴンが翼を広げ空高く舞い上がり、そこから急降下。その爪が僕を襲う。

 体も口も動かない。呪文も唱えられなければ何も出来ない。

 仲間も同じ状況のようだ。

 ドラゴンの前足があと少しで当たる。その瞬間に僕の体が吹っ飛ばされた。

 白馬が僕の変わりに押しつぶされた。

 背に乗っていたユイとライムは僕と激突したときの衝撃で地面に落ちて転がっていた。

 体が動かなかっただろうから受け身もとれなかったはず。大丈夫かな?


「ありがとユイ、助かった。ケガはない?」


 二人はドラゴンの足元。体が動くようになったのですぐに二人を回収に向かう。


「【ヒール】、はい大丈夫です」


 魔法で治したって事は大丈夫じゃないのでは?

 二人を両脇に抱える。


「ライムさんごめんなさい。白馬は動けるようでしたので、相談もせずに」

「いいのよ~。口も動かななったものね~。皆生きているから~問題ないのよ~」


 ドラゴンの首が曲がり、体の下にいる僕達を見た。

 ドラゴンが大きく息を吸う。その閉じた口の隙間から火が少し漏れる。

 出会い頭に状態異常を叩きこむとかふざけやがって。

 だったらこっちだって【催眠術】だ!!

 効果はなさそうだな。攻撃が来る前に移動しよう。


「どっせい!」


 ランドが開きそうだった口に一撃を入れる。

 ダメージはそんなになさそうだけど口を開くのを遅れさせることは出来た。

 その間にユイ達を仲間の元に届ける。

 ドラゴンが邪魔をしたランドに顔を向け火のブレスを放つ。


「おっと」

「【輝きの護衛壁】」


 後ろに跳んでそのブレスを避けようとする。

 ブレスとランドの間に光の壁が滑り込み、ブレスを止める。


「【聖女のヴェール】」


 ランドが戻ってきて全員に状態異常無効の魔法がかけられた。

 体の周りに金色の粒子が舞う。


「大将、ドラゴンを倒せっか?」

「全力で斬ったが鱗一枚傷ついちゃいねーよ。ルーク、どうすればいい?」

「どうしましょうね、アリシアさん、何か思いつきましたか?」

「貴方が思いつかないなら私には無理よ。誰か妙案はあるかしら?」


 シモンがドラゴンの周りを走りながら爆弾を投げて注意を引いている間に作戦会議。

 爆弾の威力は僕が持っていたのよりだいぶ弱い。二、三体巻き込めるかな? という程度の威力だった。


「グウォォ~」


 動き回るシモンが鬱陶しかったのかまた吠えるが、今回はスタンはしなかった。

【聖女のヴェール】の効果なのか、それともただ吠えただけなのか。


「一つだけ、試したいことがある」


 確実に倒せるとは言えないけど、少しはダメージを与えられるかもしれない武器を僕は持っている。

 マーク2のような自分より強い敵にあった時のために手加減の手甲に持たせた能力。本来の力と思い浮かべた手加減の具合の差分だけ力を蓄え、蓄えた力を一発に込めて撃ち出す能力。

 エターナル・フォース・ブリザードと出会った戦闘からここに来るまでの間にどれだけ貯められたのか僕にもわからない。

 さすがにドラゴン相手に一撃で倒せるだけの力があるとは思わないけど、それでもスタンピードのおかげで結構な数を相手したからな。少しは傷付けて逃げるチャンスを手に入れられるかも。


「この手甲にはモンスターを倒すたびに力を蓄える能力があるんだ。一度放てば空になってしまうから一発勝負なんだが、蓄えた力を解放すればアイツを弱らせられるかも」


 若干能力の説明に嘘を混ぜたが、手加減というより簡潔でわかりやすい説明を選んだ結果だ。


「すっげーな。それでドラゴン倒せっか?」

「撃ってみないとどの程度やれるかは――でもさすがにドラゴンだからな。期待はしないでくれ」

「で、俺達は何をすればいいんだ?」


 セイテンに続いてランドも僕の策に興味を持った。


「確実に当てたいからな。僕を狙って攻撃が来た時にカウンターで打ち込みたい。だから僕に攻撃が来たらドラゴンから出来るだけ離れてくれ。それまではまぁ、なんとか生きてくれ」

「ジオグーンが確実に当てられるまで、俺達はヤツを弱らせればいいんだな」


 あれ、なんか言葉を間違えたかな? なんだかおかしな解釈をされたかも。


「いや、無理せず逃げてくれよ」

「確実に逃げるためにも弱らせておく必要はありますよね?」


 ルークさんもやる気のようだ。


「そうよ、ジオグーン君のはあくまで一案。参考にして作戦を考えるのはウチの参謀君よ。もっとも作戦の中心は貴方だから協力はしてほしいけど」

「は~。わかった。問答している時間もおしいし。だったら【毒の刃】」


 こうして話している間も他に攻撃がいかないようにシモンは一人でおとりをしてくれている。

 ユイやライムが魔法でサポートをしているけど狙われないように最小限でしかない。

 いつかは限界が来るだろう。策が決まったのならすぐに行動するべきだろう。


「おい、これなんだ?」


 セイテンが自分の槍の紫色のオーラを眺める。


「毒が付与してある。体の中に刺さればより高い効果があるが、かするだけでも少しは効果はある。蓄積すればさすがのドラゴンでも影響があるはずだ」

「毒という事は呪術系よね?」

「土と闇も使っていましたよね。まさか三属性も適性があるとは――」


 魔法は一人一属性、たまに二属性を持った人もいるが千人に一人程度。三属性はすごく珍しく国に一人いるかどうかの噂レベルの存在だ。

 でもこの程度ならドラゴン相手に出し惜しみをしている場合ではない。


「お、つまりはこれで俺でもドラゴンを倒せるってことだな」


 ランドが嬉しそうに笑った。

 確かに攻撃を当て続けられるならいつかは毒で倒しきれるかもしれない。

 それが何時間先か、何年先かはわからないけど。

 ランドならばやれるんじゃね? そう思える気迫は感じられる。


「いやいや、それをやるのはオラだぞ。なぁルーク、これだったら別にオラがドラゴンを倒してもかまわねぇよな?」

「ええ、出来るのでしたらどうぞ。僕達で手に入れましょうか竜殺しドラゴンスレイヤーの称号を」

「お、じゃいっちょ行って来るぞ」

「シモンにも作戦を伝えなくてはな」


 セイテンとランドがドラゴンに向かっていく。


「え、ちょっと……危ないんじゃ」


【毒の刃】を付与した程度でドラゴンに勝てたら苦労はしないと思うんだけどな……。

 大丈夫か、あの二人。


「大丈夫よ、あの二人は脳みそまで筋肉だから野生の勘は鋭いの。危険な場面を判断して逃げるのは得意よ。本当にムリならちゃんと逃げるわよ」


 アリシアがそういうのなら大丈夫なのだろう。


「それじゃ、私も行くわね。シモンが戻ってきたら彼の武器にも毒の付与をしてあげてね」

「あ、はい」


 作戦が決まりエターナル・フォース・ブリザードが戦いを始める。


「【岩石の鎧】」


 マーク2が着ていた漆黒の鎧と同じデザインの鎧。違いは右手が鉄球でなく左手と同じ鋭い爪の形をしているという事と、色が今までの【岩石の鎧】と同じ青い色だという事だけ。

 さ、僕もドラゴンと戦いますか。自分が攻撃のターゲットに選ばれるように。他に目がいかないくらいに、誰よりも脅威だと思われるように。

 まずはシモンの近くへいく。

 すでにランドやセイテンと接触して作戦は聞いているようだ。向こうの動きもこっちを目指しているようだ。


「【毒の刃】」


 シモンの現在出している全武器に毒を付与。


「……ありがとう」

「さすがにマジックバック内までは付与出来てないからな」

「うん……わかった。充分」


 話は済んだと、すぐにどこかへ行ってしまった。

 みんなのどの攻撃もドラゴンの鱗に傷をつけられていない。だけど武器の当たった部分が紫に光っている。毒の効果はあるようだ。

 僕の攻撃はどうだろうか? 

 手加減なしの拳の一撃。


「お?」


 拳のあったった鱗にヒビが入っていた。ドラゴンに痛みはなさそうだ。

 ドラゴンがはばたき空に上がる。


「グウォォ~」


 ドラゴンの咆哮が空気を揺らす。

 スタンはしない。ユイの【聖女のヴェール】はまだ効果を発揮している。

 ドラゴンが空中で息を吸う動き。アレは火のブレスを出す前の動きだ。狙いは地上の僕達、全員を片付けるつもりのようだ。


「【ビックシールド】」


 盾を空中に何枚も出す。

 仲間をブレスから守る目的ともう一つ。

 盾を足場にドラゴンの元まで登っていく。

 間に合った。もう少しでブレスを吐く、その瞬間にドラゴンの顎を蹴り上げる事に成功した。ドラゴンのブレスが天へと放たれた。

 そのドラゴンの目が僕を睨む。

 仲間を巻き込まないために一撃を叩きこむ時はドラゴンから離れてと言ったが、この空中という場所なら行けるんじゃないか?

 やれると思ったら迷わない。迷った瞬間にチャンスを逃すかもしれないから。

 僕の右手が光ってうなる。ドラゴンを倒せと叫んでいるようだ。


飛竜を昇天させる波動ドラゴンスレイブキャノン


 別に技名を叫ぶ必要は全くない。気分の問題だ。

 そうなればいいな~。という願望を乗せた技名。

 右ストレートがドラゴンの首に直撃。

 手甲から放たれたエネルギーがドラゴンを包み、その先の空に光の線を引いた。


「やったか?」


 光で何もみえない。これで倒せたらいいのだが、さてさて、どれだけのダメージを与えられたのかな?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る