第22話 |漆黒の瞳もつ真紅の龍《ブラックアイズ・スカーレットドラゴン》

 ダンジョンの前にはたくさんの冒険者が集まっていた。冒険者だけでなくギルドの職員もいるし、野営用のテントも張ってある。

 ダンジョンに入らずにこんな所に集まってどうしたんだ?


「よ、ソイソー。皆でダンジョン前に集まってどうしたんだ?」

「あ、ランドさん。実は――」


 ランドが知り合いの冒険者に話を聞いた。アレはサニーサイドアップのソイソーだ。

 なんでもダンジョン内のモンスターが突然凶暴化してダンジョンからあふれ出す、いわゆるスタンピードと呼ばれる現象が二日前にあったらしい。

 それで今も出てきたモンスターの掃討や、ダンジョン内の調査のために冒険者が集められているらしい。


「前兆はもっと前からあったんですよ。一週間前に俺達がダンジョンに入った時には大量のモンスターに襲われてその中には深層にしか出ないはずのブットビもいたんですよ」

「それは大変だったな。ブットビと言えば俺達も――」

「なんだか大変そうだし、詳しい話はギルドの人に聞きましょう。行くわよランド」


 ランドの鎧を掴んで強引に引っ張ろうとするアリシア。

 彼が余計な事を言う前に止めてくれたのかな? 僕のために。

 なんて自意識過剰かな。情報は集まったし、雑談になりそうな流れだったし、ソイソーの足をこれ以上止めたら悪いから止めただけかも。


「教えてくれてありがとね、ソイソー君」


 手をひらひらと振って立ち去るアリシア。ソイソーも軽く頭を下げると仲間と話を始めた。

 ギルドのスタッフの所へ向かうアリシア。すでにルークはギルドの方に話を聞きに行っていた。

 僕は残されたメンバーとボケーとしていた。

 クーガ団の姿は――ないな。

 まだ出てきたモンスターの討伐が続いているらしいし、そっちに行っているのかも。


「良いニースと悪いニュースがあります。どちらから聞きたいですか?」


 戻ってきたルークがそんな事を言ってきた。


「じゃあ良い方で」


 セイテンが答えた。


「ギルドから魔力や体力の回復ポーションをもらいました。皆さん三本ずづどうぞ。それに今ならあそこで武器や防具を無料修理とその間の代用品の武器の貸し出しを行っているそうですよ」


 アリシアがポーションを渡していき、ルークがギルドのテントを指さす。そこには多くの武器も見え、ランドも武器修理の列に並んでいた。


「そりゃー助かる。後でいってみっか。で、悪い方は?」

「今からヤヤトカイの森に行くことになりました。理由はわかりませんがここ以外でもモンスターの気が立っているそうで、その中で今、ヤヤトカイの森で第二のスタンピードが発生したそうです。モンスターが街に到達するにはまだ時間がかかりそうですが至急向かい、道すがらモンスターの数を減らしつつ、原因の排除をして欲しいと」

「あの森ってーと、ボスはスネークゴートだな」


 スネークゴート、ヤギの頭に山猫の体、尻尾が三匹の蛇のモンスター。


「ちょうどよかったぞ、ジオグーンのおかげで早く帰れたからな、オラまだ戦い足りなかったんだ」


 自分の手をパンと殴りやる気を現すセイテン。

 ダンジョンから出てすぐに次の依頼かよと驚くが、僕が帰りの移動を短縮しなければもう数日はダンジョン内で過ごしていたと考えるとこのまま次の戦闘に向かうのも問題ないのなも。

 言葉にはしていないが他の人達も不満はなさそうに見える。


「セイテン君もランド君と同じ反応ですか。それでは装備を整えてきてください。僕は馬車を借りてきますから」


 ヤヤトカイの森はここから一時間半ほど、ヤヤトカイの街を挟んだ反対側だ。体力温存のためにも、時間短縮のためにも馬車で移動するつもりなのだろう。

 ここにいなかったクーガ団は森の方にいるのかな?

 それとも、ここや森以外の場所でも問題が起きていてそっちの対応に出ているのかも?

 ランド、セイテン、アリシアの前衛をする三人が装備を整え、ついでにアリシアがルークのために補充の矢も持って来た。


「馬は?」


 ルークが借りてきた馬車には馬が繋がっていなかった。


「普通のお馬さんより~ユイちゃんの白馬ちゃんの方が~早いから~」


 ユイが白馬を召喚。それを馬車につないで出発。

 常に全力で走り続け、そして疲れ知らずの白馬は確かに早かった。



 ◇◇◇◇◇


 ヤヤトカイの街を通り過ぎる。街の前にも兵士や冒険者の姿が見えた。

 そのまま少し進むとこちらに向かってくるニードルウルフの群れ。このまま進むと街に行ってしまうかも。


「【サポーター】」


 ユイの魔法で全員の筋力が強化される。


「【アイスボール】」


 御者台のライムとルークが魔法と矢で攻撃。素早く屋根に移動したシモンもクナイを投げる。

 僕は馬車から飛び落ちて馬車に並走。進行方向に拳から【伸びる刃】で衝撃波を放つ。

 馬車で決めた作戦は目的地の森までは遠距離攻撃が出来る人だけで、少しでも数を減らしつつ先を急ぐというもの。

 仲間が倒されても僕達を無視して街を目指す生き残ったニードルウルフの群れ。

 街にも兵士が待機していたし少しくらいなら行っても大丈夫だろうけど、減らせるだけは減らしておこう。

 ちょっと立ち止まって横を通り過ぎようとするやつらに蹴りに乗せて左に衝撃波。そのまま一回転しながら反対側にも蹴りを撃つ。


「【土壁】」


 馬車と少し距離が出来たので聞かれないだろうと呪文を唱える。

 ハンマーテイルがやっていた地面から土のトゲで串刺しにする攻撃で取りこぼしも片付けてしまう。


「【魂の同調ソウルシンクロン:牛魔人】」


【カオスゲート】で全部回収してから馬車を追いかける。


「【土壁】」


 走りながらも遠くのモンスターを串刺しにして数を減らしていく。

 そろそろ馬車に近づいてきたので魔法を唱えているのを聞かれないように【土壁】を使うのはやめておこう。

 横に向かって蹴りに衝撃波を乗せる。

 モンスターの種類はニードルウルフからクモやガ、ムカデのような昆虫系になってきた。

 その後ろにはゴブリンの姿もある。

 足の速いニードルウルフだけ先行していて、この辺は普通の速さのモンスター達だろうか。

 すこし奥には巨大な木のモンスター――トレントやバラから人間の上半身が生えたモンスター――ドライアドや芋虫やミミズなど足の遅いモンスターが続いている。

 僕の衝撃波が届いた範囲はもう終わり、馬車の前にムカデモンスターが来ていた。


「【アイスボール】」


 そのムカデがライムの魔法で凍らされ、白馬の角によって砕かれた。

 セイテンが馬車から出て白馬に飛び乗った。その槍にはランドの魔法で炎が、さらにアリシアの風魔法も纏ってある。

 セイテン自身の魔法も乗せた三人分の魔力を乗せた【伸びる刃】――衝撃波が複数のモンスターを切り裂き燃やしていく。トレントが巨大な火柱となり、崩れ体が周囲の植物モンスターを焼いていく。

 燃える植物モンスターの奥にいるモンスターは炎など気にせずに突っ込んでくる。そして自分の体が燃えるのも気にせず前へ、前へと進み、勝手に息絶えていく。

 そんなおぞましい光景が広がり、さすがにこれ以上は進めないと判断した馬車はそこで停止した。

 森までもう少しだし、どの道森の中を馬車で走るのは難しかったのでどこかでは馬車を降りなければならなかった。ライムの【カオスゲート】で馬車は回収された。

 相変わらず馬車の進行方向にいないモンスターはこちらに全く興味を示さないので降りたところで危険はない。

 だが前方は燃え続けるモンスターに塞がれ、横に行こうにもどんどん森からモンスターが出てきて回り道も出来ない。


「ユイちゃ~ん、アレやるよ~」

「はい!!」


 二人が魔力ポーションを飲んだ。


「【拡散する波動】【魔力ブースト】【暴走する魔力】【女神の吐息】【聖女のヴェール】【アストラルコネクト】」


 何をする気なのか様子を見ながら蹴りでモンスターの数を減らしてく。

【聖女のヴェール】が唱えられた時、仲間全員の体の周りに金色の粒子がまとわりついた。これなんだろう?

 後で詳しく効果を聞いたのだが――

【拡散する波動】――しばらくの間、対象が単体の魔法の効果を範囲に変更出来る。

【魔力ブースト】――単体の魔力を一定時間上げる

【暴走する魔力】――単体の次に使う魔法の威力を上げる。

【女神の吐息】―――単体の魔力を一定時間上げて、魔力回復を早める。

【聖女のヴェール】―選択した対象は一定時間、状態異常魔法にかからなくなる。

【アストラルコネクト】自身の魂と対象の魂をつなげ、二人分の魔力を使用可能となる。

 ――というものだった。


「【永久とわに凍る魂】」


 ライムを中心に冷たい風が周囲に吹き抜けた。

 ――パリン

 風が駆け抜けた瞬間、体の周囲にあった黄金の粒子がはじけて消えた。

 術者を中心に範囲内のすべての魂を持つ存在を氷漬けにする魔法。

 ユイの強化によって範囲を広げられたその魔法は森の入り口まで届き、植物まで凍らせていた。


「ほ~ら~、今の内にいこ~」


 それでも全部のモンスターを凍らせれたわけではない。

 まだスタンピードの原因を発見して解決したわけではないのでモンスターはどんどんやってくる。早く森の奥に行かなくては。

 さっきの魔法で疲れたようでユイとライムは白馬に乗って魔力回復のポーションを飲んでいた。

 氷漬けのモンスターの中を進んでいくと動きづらいな。


「【カオスゲート】」


 闇魔法の使えるライムが今は疲れているので僕が凍ったモンスターを片付ける。


「お、サンキュ」


 広くなった道を森に向かっていく。


「【魔獣探知】――あっちから大きな反応があります。でもこれは――」


 ユイが反応のあった方向を指さす。

 その先にドライアドの姿があった。バラから伸びるトゲトゲのツタを手足のように使い、木々の間を移動している。

 なんだかターザンみたいだな。

 さすがに森への侵入者に対しては無視する気はないのか、木にぶら下がりながらツタによる攻撃が来る。

 アリシアが反応してそのツタを切る。


「おりゃ~」


 ランドがジャンプしてドライアドを攻撃した。

 瞬殺。この程度のモンスターでは相手にならないようだ。


「ユイ、さっき何か言いかけていたけど何だったの?」


 ドライアドの登場で中断された言葉が気になったアリシアが訪ねる。


「それが、強そうなモンスターの反応が……二つあったんです」

「二つ? それってスネークゴートが二体いるって事かしら?」

「いえ、スネークゴートなんかより、もっと強大な――」


 巨大なヤギの顔が見えてきた。

 横になり、まったく動く様子のないスネークゴート。

 その体に前足を乗せ、肉を食らう存在がいた。

 ワニのような顔にシカのような角。夜空のような漆黒の瞳、紅く輝く鱗、背中から生えた巨大な翼。

 それはとても有名なモンスター――ドラゴンだった。

 あ、そっか。森のモンスター達はコイツから逃げていたのか。

 そのドラゴンの瞳に僕が映っていた。なんだかその目が「お、次の獲物はお前か?」と言っているようだった。

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