第21話 ユイと見張り 3
「ねぇ、ジオグーンさんはいつまで一緒にいてくれるんですか? いつかはお仲間の元に帰られるんですよね?」
「えっと、それは……」
少し寂しそうな声。
ユイとはこの見張りの間以外そんなに会話してなかったけど、別れを寂しいと感じてくれるくらいには仲良くなれたようだ。
「もう人間だった頃の姿にも戻る方法も手に入れて、あとは地上に戻るだけなんですよね? ジオグーンさんにはジオグーンさんの事情があるのはわかっているんです。それでも寂しいなって思っちゃって……」
ついさっき血を飲んだ事をユイは知らないけど、擬態能力を持ったモンスターを見つけて自分の血を飲んだら人間だった頃の姿になれるんだとは教えているし、僕の目的がクーガ団の所へ帰る事だというのも教えてある。
本音を言えば予備としてもう二体くらい擬態能力を持つモンスターを手に入れてから地上に行きたいのだが状況は変わった。
「前衛の装備は限界だしね、心配だから街までは一緒に行くよ。でもその後は、やっぱりクーガ団の皆に会いたいかな」
エターナル・フォース・ブリザードの人達とは一緒に宴会をした仲だ。このままさよならなんてして何かあったら気分がよくない。
僕一人で出来る事には限度があるけど、何もしないではいられない。
だからとりあえず街に着くまでは一緒に。その後はいいタイミングで離れてジオグーンはしばらく封印、フォールに戻って
「別にこれで一生の別れという訳ではないから。ヤヤトカイの街にクーガ団の家もあるんだよ。会いたいと思えば会えるから」
向こうはクーガ団の事など目に入っていなかっただろうが、僕の方はギルドで何度も見かけたことがある。今後も出会う機会は何度もあるだろう。
その時に他の人達はわからないだろけど、ユイだけは
「そう、ですよね!」
「うん。休日が合ったときにはさ、食事でも一緒にしながら勇者クナイの話でも、別の話題でもゆっくり話そうよ」
「一緒に……。それってデート――」
「あ、いや。友達として、友達として遊びに行こうって事だよ」
あ、やべー。この誘い方だとデートと勘違いされちゃったか。
寂しそうにしていたから「またいつでも会えるよ」って伝えたかっただけなんだけどな。
なんだこのナンパ男は。とか思われてしまったかもしれないので、僕にはそんな気は無いですよと、ただの友達としてのお誘いですよと伝える。
「トモダチ……そ、そうですよね、ユイなんて……」
あれ? さらに落ち込んだ? なんでだ?
うん、前世から数えても彼女いない歴と年齢がイコールの僕に女心なんてわかるわけがない。きっと気のせいだろう。
見張りで疲れて眠くなってきたとかそんな事でしょ、たぶん。
ふと見ると砂時計の砂が落ちきっていた。
「あ、もう時間だ。ほら、交代の二人を起こしてこないと」
次の見張りはアリシアとライム。男の僕が女子のテントに入っていくのはためらわれる。
という訳で二人を起こすのはユイに任せよう。
「本当だ。行ってきます」
ユイが女子のテントに入っていく。
しばらくして三人でテントから出てきた。
「おはようございます」
「あ、おはよう。何も問題なかったか?」
「一回だけシビレグモに襲われたけどそれだけだ。あ、死体はどう分ければいいかな?」
「ユイからも聞いたわ。全部君が倒したんでしょ? だったら全部君のモノでいいわよ」
「いや、それは。たまたま僕の見張りの時に来ただけなんだから。タイミングが違えば別の人が倒していたでしょ? そうなるとその人の手柄になっていたわけだし」
「あらそう? だったらクモは貴方にあげるから、その代わりにブットビをもらえないかしら?」
「ブットビを? 別にいいけど【カオスゲート】」
上下で半分になったブットビを取り出す。
「はい、どうぞ?」
「ありがとね。この子はギルドでずっと正体不明だったモンスターなのよ。だから報告のために実物が手元にあると助かるのよ。あ、討伐したのはジオグーン君だってちゃんと報告しておくから安心してね。それとも自分でギルドに報告に行く?」
「いえ、お願いするよ。なんだったら討伐したのもエターナル・フォース・ブリザードだって事にしてもいいぞ?」
色々な面倒ごとを避けるなら彼女に全部投げてしまった方が早い。
「あらそう? 私達じゃあの動きをとらえられなかったし、実力以上の評価を受けても面倒なのよね。よし、たまたまシビレグモの罠にかかって、動きを止めたところを倒したって事にしておきましょう。ジオグーン君もそれでいいかしら?」
「おう、よろしく。じゃ、僕はそろそろ休めせてもらうよ」
「うん、ありがとね。おやすみ」
テントに入って横になって布団をかぶる。
暇だしこれからの事でも考えようかな。
ゲームだったらボスとの戦闘の後は地上入り口までのワープゾーンが現れたり、探索を中断して街まで帰れる選択肢があったりするけど現実ではそうは行かない。
このダンジョンの最深部からモンスターと戦うなり回避しながら地道に地上を目指すしかない。それって何日かかるのよ?
どっかに隠し通路とか地上行きエレベーターとかないかな?
「【罠探知】」
罠や隠し通路を探せる土魔法。
さっき倒したシビレグモの巣の情報なんかは入ってくるけど、上に向かえる隠し階段なんてものは無かった。
壁や柱の位置が頭の中に浮かんでくる。新しい魔法が浮かんでくる。
【マッピング】――魔力で届いた範囲の地図を把握する無属性の魔法。一度確認した地図は魔法を発動すれは読み込んだ時の状態でいつでも記憶から呼び出せて、魔力で描く事も出来るようだ。魔力で描いたものは込めた魔力が無くなるまでは残っているようだ。
新しい魔法だけど今は使わなくていいかな。
どうせなら設定した二カ所を一気に移動できるワープの呪文とかさ、そんなものが思い浮かべがよかったのに。
街から街へワープできる呪文や道具なんて聞いた事がないな。どっかには存在しているのだろうか?
いっきに地上までショートカットなんてズルは出来ないよな。
ん? ショートカットと言えばダンジョンに来てから何度も
あ、アレを使えば地上までとは言わなくても、中層の最初の方までならいける。あそこからだと半日くらいでもどれるだろう。
でも全員で行くとなると……そうなるのかな?
パッと思いついた事があるけど、はたしてうまくいくかな?
後はあそこまでエターナル・フォース・ブリザードの皆が来てくれるかだけど、さてどうなるかな?
◇◇◇◇◇
やってきました毎度おなじみ僕が落下してきた場所だ。
全員が起きて朝食――太陽の明かりもなく現在が朝あも不明だけど――を食べた後に地上に早く戻れるルートに心当たりがあるといったら全員がついてきてくれた。
「ここがそうなのか?」
「確かにここを登れれば近道にはなりそうだが」
「オラや大将はジャンプで問題ねぇ~けど、ルーク兄やライム姉にはきつくねぇか? 誰が誰を背負うか決めっか?」
全員が先の見えない大穴を見上げながらどう登ろうかと話している。
「大丈夫、それも僕に考えがあるんで。とりあえずこの円の中に入ってくれるか?」
足で地面に丸く円を描く。
全員が円の中に入ったのを見届けたら魔法を唱えた。
「【土壁】」
まずは落下しないように外側に腰より少し上の高さで壁を作り、次に円の下の地面を持ち上げる。
八人全員を上に運ぶ人力エレベーターだ。
階段を作るのも考えたけど、それだと後で階段を登って下層のモンスターが上層に来てしまうかもしれないし。
それにエレベーターの方が早くて僕以外は疲れない。
このためにトイレに行くフリをして魔法が得意なチュパカブリに変身しておいた。
ボックスも開いて現在の魔力残量を確認しながら魔法を使い続ける。土以外の物質に変化させているわけじゃないので消費もそんなに多くない。大丈夫、足りそうだ。
残り魔力五分の一という所で大穴のゴールに到着。穴と土壁で出した土台の間に隙間があるので、一部を埋めて
橋を架ける。
ここからさらに上を目指すとなると、天井に【落とし穴】を使っていく方法もあるのだけど、もし誰かが上を歩いていたら危ないのでそれはやめておいた。
喉が渇く。チュパカブリもモンコモと同じで魔力が減ると血を求めるようだ。それとも血を欲するのは吸血能力の効果の一部なのかな?
こんな事もあろうかとトイレに行った時に水筒にモンスターの血を入れておいたのでポーチから水筒を取り出し水を飲むフリをしなが血を飲む。
魔力が三分の一まで回復。喉の渇きは無くなった。
「【マッピング】」
ルークが魔法で現在位置を確認する。
「ここはほぼ上層といっていい中層ですね。地上はもうすぐです」
ルークの案内で地上を目指す。途中で出てきた敵は素手に炎を宿したランドのパンチやセイテンのモンスターの骨に魔力を込めただけの棍棒で倒されていく。
僕は黙って後ろをついていくだけだ。
そうしてようやく、僕は久々の青空を眺めるのだった。
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