第19話 ユイと見張り

 宴会後に僕達は地底湖で交代で見張りをしながら休むことにした。

 やはり肉の臭いにつられたのかこの地底湖に来てから合計四回もモンスターとの戦闘があったから見張り無しで休むのは危険だ。

 いつもは三交代で女子三人組とあとはランドとルーク、シモンとセイテンの前衛と後衛の組み合わせとなっていたそうだが今回は八人になったという事と、ハンマーテイルとの戦いでみんなが疲れていることから少しでも長く休めるように全員二人組の四交代にすることにした。

 今日会ったばかりの部外者の僕を信用しすぎじゃないかなと、エターナル・フォース・ブリザードの人の好さに不安になってくる。

 僕と一緒に見張りをするのはユイ。これは女子がもともと三人組だったのと前衛と後衛で合わせている兼ね合いからだ。

 中身がゴーストなせいかモンスターになってから魔力切れ以外で食欲や睡眠欲、あと性欲も感じたことは無いので休んでいる間も寝たふりをしてボックスの中のモンスターを確認していた。

 姿を見られても問題ないのはチュパカブリと牛魔人だけなので、それ以外は体力の回復したモンスターを封印してまだ体力の戻っていないモンスターを使用欄にセットしてある。スケルトンも体力が回復して変身できるので自分フォールの血が入った試験管を取り出すことが出来るけど、男用のテント内、布団をかぶっているといっても変身するときの呪文は聞こえてしまうし、もし誰かが起きていたら見られる危険があるので人族だった頃の姿を取り戻すのを今はやめておく事にした。

 岩マムシとの戦闘で牛魔人もチュパカブリも一つ星へと成長している。どうせならフォールの姿に戻れるチュパカブリの星を上げて、何かと融合してから二体目も作り擬態能力を持つモンスターを増やしておきたいのだけどスケルトンの時と同じ理由で牛魔人のままでいる。

 後は【カオスゲート】から岩マムシの魔石を取り出して星を五にする。こっちは見られても荷物の整理をしていたとか言えば誤魔化せそうなので実行した。これでチュパカブリを合成する相手の確保は出来たわけだ。

 合成後は合成前の全モンスターの能力値の合計を半分にした数値なので出来るだけ多くのモンスターを混ぜたい気持ちもある。これはチュパカブリが五つ星になった時に合成可能なモンスターの数でどうしようか考える事にしよう。

 テントの入り口が開いてセイテンが入ってきた。

 もう交代の時間か? 次の見張りは僕だ。

 布団から出る。


「お、起きてたのか」

「少し前にね。交代?」

「そうだ。じゃ、頼んだぞ」


 それだけ言うとセイテンは自分の布団に入っていった。

 テントから出るとシモンと遭遇、女子テントの方にユイを起こしに行っていたのだろう。ユイの姿はまだない。

 とりあえず明かりの前に行く。ここは洞窟内で燃やすものがないので魔力で光るランタンだ。こんなのなくてもモンスターの視力だと普通に見えるんだけどね。

 それと砂時計。これは三十分で砂が落ちるタイプらしく、これを三回ひっくり返し砂が落ちるまでの間。つまり一時間半の間見張りをすることになっている。

 砂時計をひっくり返す。地面に線が三本書かれていた。たぶんカウントに利用したのだろうと予想して二本を足で消しておく。


「【足音】」


 馬巨人に変身出来ないので【魔獣探知】は無し、【足音】と気配を感じるか目視しかモンスター接近に気付く方法はない。

 今の所【足音】に反応は男のテントと女のテントに一つずつ。眠るシモンと起きたユイのものだけだ。モンスターの反応は無い。

 斜め上では動きがあるけどこれは遠すぎるので関係ないだろう。

 テントからユイが出てきた。


「おはよう」

「おはようございます」


 ペコリと挨拶。

 これから一時間半一緒か。宴会の間も間に他の誰かがいたから会話になっていたけど、直接ユイと話した回数ってそんなにないんだよな。あっても感謝とか挨拶の必要最低限の内容だけ。

 アリシアの勧めで同い年なんだからお互い敬語やめればという提案も向こうは緊張するらしく「まだ無理です」との回答だった。エターナル・フォース・ブリザードの仲間にも敬語だったからそりゃそうよ。と思うので無理にとは言わない。

 それにこのパーティーにはもう一人、誰に対しても敬語のルークがいるから、そこは個性って事でいいと思う。

 まともな会話を今までしていない状態で二人っきりの一時間半。気まずい空気で終わらないようにしたい。

 挨拶が終わり地面に腰を下ろしたら無言の時間が過ぎていく。

 何か話さないとな……


「あの~」「ジオグーンさん」


 二人の声が重なた。


「あ、ごめん。なに?」

「いえ、ユイの話は大したことないのでお先にどうぞ」

「僕の方はユイの白馬がどこから召喚されてて、普段はどこにいるのかな。とか聞いてみたくて」

「あぁ、あれはですね、ユイの魔力を使って疑似的にモンスターを生みだしていまして、生み出した間しか存在していないんです」


 魔力だけで作るなら僕のレンガ壁みたいなものか。

 無機物ならともかく生物って出来るものなの? だからこその特別な魔法って事なのかな?


「それだと白馬の意識ってどうなってるの? 戦闘中自由に動き回っていたような気がするんだけど」

「それはユイにもよくわかっていないんですが、お父様に教えてもらったのはユイの中にある『馬はこう走る』とか『こんな時にはこう動く』みたいな術者の知識や判断をトレースして疑似的に人格を作っているらしいんです」


 よくわからないけどユイの人格をコピーして入れているって事?

 でも記憶を引き継いでいるとは言ってないからコピーではないか。

 たしかに説明されてもよくわからん。そういうもんだと納得しておくしかない。


「そうなんだ。じゃあさ、あの魔法が白馬の形なのは何か意味があるの? 他の姿で作れたりとかは?」


【ストーンスピア】で好きな武器を作り出せるように自由度が高いのかどうか。

 これによって本職の魔導士は魔法を好きにいじれるのかの参考になるし。

 ちなみにクーガ団の魔導士でそんな事を出来た人はいないし、そんな話も聞いた事ない。だから人前では【ストーンスピア】で岩の槍以外を作らないようにしようと思うのだけど。

 もし「魔法の状態変えるなんてふつうだよ。そのまま使うとか小学生までだよね」なんて返しが来るのなら気にせずに刀とか出せるんだけどね。


「あれはユイの魔法が聖属性だからです。火属性だと狐、水属性だと魚のようにその人の持つ魔法属性で召喚獣の見た目が変わるんです。他にも複数属性だとまた別の形に変わりますが、ユイが召喚できるのは白馬だけなんです」

「へぇ~。ちなみに、魔法を本来の発動と違う形に変化出来たりってするの? 例えばユイの【輝きの護衛壁】を星型にするとか、翼を虫の羽みたいにしたり、先を尖らせて攻撃に使うとか」

「魔法を変化ですか? あぁ、勇者クナイ・ハタラキタと一緒に冒険していた大魔導士プルトン様のお話ですね。呪文一つで七色に輝く光の雨を降らせて魔王群の進行を一人で撃退したという。その雨は千の武器へと姿を変えたとも伝えれれていますよね」


 かつてモンスターを操り世界を恐怖と混乱に陥れ、魔王と呼ばれた十二のモンスターがいた。

 五百年前、そのモンスターを全員倒したのが勇者クナイ。

 彼の功績は書籍になって今も伝わっている。長寿な種族の中には実際に目撃した人もいるんじゃないかな?

 僕も子供の頃に村長に絵本で話を聞かせてもらったし、自分でも読みたいと興味を持った村の子どもたちが文字を覚えるために利用されていた。

 僕も絵本でなく普通の小説版が読みたくて文字を覚えた一人だ。いや、だって勇者の大冒険なんて、そんなの大好物ですもの、そうでなければわざわざファンタジー異世界に転生なんてしないさ。

 この勇者クナイが僕がこの世界に来るきっかけとなった「モンスターのいない世界に生まれ変わりたい」と願った人物なんじゃないかと思っている。五百年のズレがあるけど、世界規模で大活躍した冒険者の話がこの人以降に無いし、エルフやドワーフなどの長寿族だとまだ生きている人もいる。神様感覚だと五百年なんて数日かもしれないからあり得ない話ではない。女神様にあった時に聞いておけばよかったな。

 さて、勇者の仲間の大魔導士の話だがこれは死霊魔王ヘルとの戦いの時の話だ。数十万の死霊の群れを倒した時の話だな。

 強くなるため勇者と別れ師匠のもとをへ修行に行っていたその帰り、勇者と合流予定の街へ向かう途中で立ち寄った村で新魔法を使ってモンスターを全滅させた。そんな話だった。

 その時に使った魔法を今ユイが言ったような魔法だと伝えられている。


「アークヤレイジョ学園ではこの魔法の研究がされていて、込める魔力の量を変える事で大きさを変える事は可能。あと炎や雷の色を変える事にも成功しているそうですよ。ただし色は発動したとき最初に想像した色になるだけで、途中で別の色に変える事は出来ていないそうですよ」


 アークヤクレイジョ学園はキタキタ魔法国にある魔法を研究している学校だったな。キタキタは中立国なので、色々な国の貴族の子どもが集まって初等部から通っているんだっけか?

 魔法に関してはやっぱり隠しておいた方がよさそうだな。

 魔法発動後に岩を金属に変えたり姿を変えるのも出来るしな、そんな事が知られたら面倒な事になりそうだ。


「ユイも勇者クナイの物語好きなのか?」

「はい!」


 これはオタク特有の好きな話題になると饒舌じょうぜつになるやつだな。

 類は友を呼ぶというやつで、前世では何度も遭遇したことがある。こういう時は相手が満足するまで語らせてあげれば何時間でも時間が潰せる。しかも内容は勇者に関するもので、僕自身も退屈しない話題だ。

 話題選択に成功したようだ。よかった。

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