第17話 ついに手に入れた人間の姿 6

 そこは地底湖になっていた。肉の焼ける匂いがする。

 料理担当はシモンとライム、懐に忍ばせたマジックバックから取り出したフライパンとモンスターの肉で料理している。かまどは僕、火はランドの魔法が使われている。

 この匂いによってモンスターが寄ってこないかと気になったが、エターナル・フォース・ブリザードの皆は慣れているのか気にした様子はない。

 大きくひらけ見通しの良い場所だからモンスターが来てもすぐに気付けるからかな?


「ユイ? お~い、御飯だよ、起きれる?」


 食事の準備が終わったころ、アリシアがユイを起こそうとゆすった。


「うぅ~ん――」


 反応あり、意識を取り戻すくらいには魔力が回復したようだ。


「う~アリシアさん。おはおうごじゃいまふゅ」


 呂律が回っていない。まだ魔力が足りないのか、単純に寝起きが悪いタイプなのか。


「お、ユイも起きたし宴会を始めるか」


 ランドが片手にコップを持ち準備万端な状態で宣言する。


「えんか、い?」

「そ~なの。ジオグーン君も~呼んで~一緒に~ハンマーテイルと~ばつの、お祝いだよ~」

「ジオグーンさんも……一緒、に!!!」


 ライムさんが「あっちだよ」と言いたげに僕の方をトカゲの尻尾で指している。

 ユイのギュインと音が出そうなほど動く。


「ふぇ、あ、えっと、その――」

「あ~おはようございます」

「はい、おはようございます」

「おい、早く飯にしようぜ、おら腹減ったぞ」


 肉の盛られた皿とコップを二つ持ってセイテンがやってきた。


「はぅ、ごめんなさい」

「ほい、これユイの分」

「ありがとうございます」

「で、こっちはジオグーンだ」

「お、サンキュー」


 セイテンから皿とコップを受け取る。

 移動中に一緒に戦ってもう仲間だから敬語でなくていい。本人が話しやすいしゃべり方でやってくれと言われたのでセイテンに対してはそうさせてもらった。


「おし、全員に肉は行き渡ったな」

「あぁ」「はい」「うっす」「おっけ~よ」「ちゃんと配ったぞ」「大丈夫そうよ」「……(無言サムズアップ)」

「それじゃ、俺たちの勝利に。乾杯!!」

『乾杯!!』


 宴会が始まった。

 今までに食べたどの肉より美味い気がする。このタレだけで御飯何杯もいける気がする。この世界でまだご飯に出会ったことないけど。

 基本はパンだけど、僕の育った田舎ではうどんみたいな麵料理はあった。どこかには米も存在しているかもしれない。

 話をタレにもどそう。このタレはシモンがマジックバックから取り出したもので彼の自作、秘伝のタレらしい。

 そのシモンは今も追加の肉を焼きながら食事をしている。


「なぁジオグーン。飯が終わったらオラと勝負しねぇか?」

「いや、ジオグーンと戦うのは俺だ。な、そうだよな」


 僕の左右に座るセイテンとランド。


「おいおい、そりゃねーぞ大将。先に誘ったのはオラだぞ」

「順番は関係ねぇだろ。大事なのはジオグーンがどっちと戦いやりたいかだ」

「それもそうだ。でジオグーンは誰と勝負する? オラか? それとも大将?」


 いや、どっちともやりたくないけど。僕は別に戦闘狂じゃないし、それに――


「嫌だよ、二人ともハンマーテイルとの戦いでボロボロじゃないか、体も武器も」

「大丈夫だぞ、体はポーションで治ってる」

「武器などいらん。お前もその身一つで戦うのだ、だったらこちらもその条件で体と体でぶつかり合おうではないか」


 だめだ、戦闘狂からは逃げられなさそう。

 まだダンジョン内だからお酒なんて飲んでないはずだけど、こいつら酔ってんのか?


「いや、でも……」


 助けを求め周りを見るとアリシアと目が合った。やれやれと言いたそうな顔をして彼女が口を開く。


「馬鹿言ってんじゃないわよ。あんた達、残りのポーションはいくつ?」

「もうねぇぞ」「ない!」

「おやおや、ランド君もセイテン君もこれから僕達は地上を目指さないといけないという事をわかっているのですか? それなのにポーションもない状態で無駄に体力を消費する気ですか? もしかしてケガしてもユイさんに治してもらえばいいとか考えていますか? いやいや、先ほど魔力切れを起こした少女にそんなヒドイ仕打ちするわけ――」


 クドクドとルークが喋り続ける。


「あ~わかった、わかった」

「オラが間違ってたぞ、わりぃな、ジオグーン」

「本当に理解しているんですか? だいたい君達はだね――」


 しかしルークにやめるつもりはないようだ。

 僕に関係のない説教を聞いていてもつまらないし離れようかな?

 でもどこに行く?

 料理中のシモンとライムは……なんだか邪魔しちゃ悪そうな甘い雰囲気を醸し出している。

 残るはユイとアリシアの所だ。

 助け舟を出してもらったお礼でも言いに向かうか。


「ありがとう、助かったよ」

「いえいえ、ウチの脳筋二人がごめんなさいね。良い言い方をするとあいつらは強さに貪欲な向上心の塊なのよ。強い奴を見たら後先考えずに挑みたくなっちゃう病気なの」

「僕もこんな状況じゃなければ受けてもいいんだけどね」


 戦いたいか戦いたくないかと聞かれれば、一流の冒険者である二人と手合わせしたい気持ちはある。

 だけど今の消耗した状態で、この先街まで帰る予定があるのに模擬戦している場合ではない。


「街に戻ったら、模擬戦しヤってみたいな……」


 その頃にはもう牛魔人この姿じゃないだろうから僕だと気付かれないだろうけど。


「それを聞いたらあの二人も喜ぶでしょうね。ところでジオグーン君、貴方ってどこかの冒険者パーティーに所属していたりするの?」

「はい……、いや、どこにも所属してないぞ」


 あっぶない、クーガ団に所属してるって言ってもし会いに来られても困るしな。どこにも所属していない事にしないと。


「ん? その解答、なにか訳ありなのかしら? もし良かったらウチに来ないかと思ったけど、どう?」

「誘いはうれしいけど、ごめんな」

「そう、ま、冒険者の中には人に言えない過去を持つ人も珍しくないしね。細かいことは言わなくてもいいわ。でももし気が変わったらいつでも来てね。貴方なら大歓迎だわ」

「ありがとう、じゃその時はよろしく」


 行けたら行く的なごまかしの回答に逃げる。


「ところでジオグーン君て結婚してたり恋人がいたりするのかしら?」

「アリシアさん!?」


 ここまで無言でこちらの話を聞いていたユイが驚いた様子を見せる。

 僕自身も突然の事に驚く。どういうつもりなんだ?

 子どもが生まれないとか、顔の判別が難しいとかで異種族での恋愛ってあまりないと聞くし、気を使って雑談に話を切り替えてくれただけか?

 あまりであって、絶対ないわけではない。その証拠にそこで栗鼠獣人シモン蜥蜴獣人ライムがイチャイチャしている。あそこ付き合ってんのかな?


「嫁も恋人も出来たことないよ」

「あら、優しくて、気遣いできて、強いからモテると思ったのに。ねぇ、どんな女の子がタイプなの?」


 ぐいぐい来るな。だが勘違いするな。前世でもタイプとか聞いてくる女子いたけどその後にその子と特に何もなかった。僕に興味があるんじゃなくて恋バナに飢えているタイミングで偶然僕がそこにいただけというだけの話だ。

 好きなタイプねぇ~。

 好きになるキャラバラバラだからな、共通点でいうと主役級よりその友人Aみたいな立ち位置の子や終盤で勇気出して告白して振られる負けヒロインとか好きだな。でもそんなの言われてもこの異世界では伝わらなだろうしな……

 話のネタとして欲しいんだろうから「特に無いっすね」みたいなこと言ってもシラケるだけだし、何かしら言わないと。


「そうだな~ご飯をおいしそうに食べる人かな?」

「へぇ~どうして?」

「僕の家では食事の時に家族が集まっていたんだよね。それが一日二回はあるわけで、それを一緒に過ごすんだったらおいしそうに食事している人がいいな~って感じかな。つまりは一緒に楽しい時間を過ごせる相手がいいな~的な?」


 結局「好きになった相手がタイプです」みたいな逃げになったけど満足してもらえるかな?

 でも言っていて思うけど「趣味の合う人」「価値観が一緒の人」を僕は求めているんだろうか?


「そっか、で、ユイはどんな人がいいの?」

「へ?」


 満足したのか、コイツの話はもう広がらねーなと見捨てられたかな?

 今度はユイの方に話が振られた。


「ほら、お姉さんは恋バナニュウムを求めているの。若い子達の恋バナを聞かせてちょーだい」

「えっと……ユイは……その……」


 コップのふちを指でぐるぐるとしながら戸惑っている。

 視線はチラチラ僕を見ている。


「ん~これは時間がかかりそうね。じゃぁ後で私にだけこっそりと教えてね」

「は、はい」


 そうだよな、今日初めて会った男にそんな話聞かれたくはないよな。


「ジオグーン君の年齢って聞いてなかったわね。声から少年なのかなって思っていたんだけど。いくつなの?」

「十六だよ」

「あら、偶然。ユイと同い年ね」

「え、そうなの?」

「は、はい」

「これは何かの運命ね」

「ちょ、アリシアさん、そんな、何を言って……」


 年齢が同じだけなら世界に適合する相手いっぱいるんじゃね?


「も~そうやって『運命だからウチに入らない?』みたいな誘い方する気なんでしょ?」


 ユイが困っているし茶化しとこ。


「あちゃ~、バレたか。それだけ本当に君が欲しいんだよ。戦力的にも空気的にもね」


 なんかめっちゃ褒められている。

 それから魔法についてやら、格闘技をどこで習ったのかなんて話になった。

 そんな話をしていると、説教の終わったランド達も加わって僕の昔話を聞くのだった。

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