第15話 ついに手に入れた人間の姿 4

 勢いで助けに入っちゃったけどなんとかなってよかった。エターナル・フォース・ブリザードの人有名人とお話ししている緊張からユイを持ったままだったのは失敗したけど、それ以外はまぁ今のところ大丈夫かな?


「それにしてもおめぇすっげ~な。コイツ倒したのか?」

「いや~、あはははは」


 猿獣人のセイテンが僕の背中をバンバン叩く。どう返せばいいかわからずに笑って誤魔化す。こういう時コミュニケーション強者はどういう返しをするんだろうか?


「この亀がブットビですか……」


 エルフのルークはブットビの死体を見ながら眼鏡の位置を直していた。

 ブットビはユイを助けに飛び出した時に【ストーンスピア】で出した丸ノコで攻撃して横から上下に切った。

 さっきまでここにいた蜥蜴トカゲ族のライムはセイテンと交代で戦闘に戻り、ユイは同じ人族のアリシアと話している。

 あとの二人、栗鼠りす族のシモンと獅子族のランドも戦闘を続行中。


「ところで、これはどうやって切ったのですか? 武器は持っていないようが?」

「あ、それは……」


 ルークが甲羅を軽く叩きながら訪ねる。

 確かに今の僕は武道家スタイル。そしてブットビは鋭利な刃物で切られたような状況。

 正直に【ストーンスピア】でやりましたっていうのはなぁ……。丸ノコ出すなんて明らかに別の魔法だよな、魔法を本来の形から変化させるとか聞いた事なし。

 さてどう誤魔化そうか?


「もしかしておめぇ、魔力飛ばせんのか?」


 魔力を飛ばす? あ、そういえばそんな魔法もありましたね。武器に纏わせた魔力を飛ばす無属性魔法。


「あ~、あれですか。ランド君もまだ覚えられていないセイテン君の【伸びる刃】」

「そうだぞ。なぁおめぇもでっきか、これ?」


 セイテンが槍に魔力を込めてそれを振り下ろした。衝撃波が岩マムシ一体に当たるが倒せはしなかった。

 僕に見せるためだったので手加減したのだろう。

 会話的にこのパーティーで出来るのはセイテンだけのようだ。僕の所属するクーガ団で出来る人はいなかったし、さすが『百芸の道化師』の二つ名を持つだけはある。多芸な人なんだな。

 なんだかセイテンが期待したような視線を向けている。これはアレだな、僕も同じように見せろって事だろうな。

 まず右足に魔力を集めて纏い、そして蹴りに乗せて撃ち出す。狙いはセイテンが攻撃した岩マムシ。

 モンスターが破裂したら困るし手甲の手加減効果も乗せておこう。これで倒せても切れる程度だろう。しかも狙うのはセイテンの攻撃で弱っているヤツ。倒せてもおかしくないだろう。完璧だ。

 スパパパパ――

 狙った岩マムシに当たり真っ二つにした。そこで衝撃波が終わればよかったのだが、その後ろにいた岩マムシも同じように切れていく。

 そうか、一体で攻撃が終わるように考えていなかったからそのまま後ろまで衝撃波がいってしまったのか。

 セイテンやルークが驚いた顔をしている。それだけでなくハンマーテイルに集中しているランド以外の全員がこっちを見ている。

 あーこれはやっちまったようだ。どうしよう?


「す、すっげーな、おめぇ~えっと名前何てぇんだ?」


 ユイやルークにはもう名乗ったけどセイテンには名乗ってなかったけ。

 あれ、でも来た時にセイテンにも伝えていたような?

 ま、一度で人の名前を覚えられない人もいるよね。自分にはあんまり関わりないと聞き流していたのかも。

 強者として認められたら覚える気になったとか?


「ジオグーンです」

「そっか、よろしくなジオグーン」


 また背中をバンバンと叩かれた。


「ちょっといいかしら?」


 やってきたのはアリシア、その背後にユイもいる。


「おう、どうしたんだ姉御?」

「仲間を救ってくれた礼とお願いにね。ジオグーン君、私はエターナル・フォース・ブリザードの副団長アリシアよ。ユイを救ってくれてありがとね」


 前半はセイテンへの回答で後半は僕への感謝だ。後はお願いか、いったいなんだろう?


「恩人に対してこんな事を頼むのは申し訳ないのだけど現在私達は岩マムシの巣とハンマーテイルとの遭遇でとても追い込まれている状態なの。誰も見る事やダメージを与える事が出来なかったブットビを倒し、一撃で大量の岩マムシを倒したその力をもう少しだけ私達に貸していただけないかしら?」

「いいですよ。僕にできる事なら」


 あの有名なエターナル・フォース・ブリザードと共闘できるチャンス、逃すわけにはいかない。


「あら、そう言ってもらえると嬉しいわ、ありがとう。もう少し説得が必要かなって思っていたから意外だわ」

「それで、僕は何をすればいいですか?」

「岩マムシの数を減らすのを手伝って欲しいの」

「わかりました」

「それじゃ早速報酬の話を――」

「おーい、誰か助けて~。ランドのフォローで手いっぱいで~岩マムシの足止め間に合ってないよ~!!」

「おう、今行くぞ」

「すまん、ブットビに夢中になってた」

「あ、ユイも……」


 セイテン、ルーク、ユイの三人が呼ばれて戦闘に戻っていった。


「さて、報酬の話ね、この状態じゃどれが貴方が倒したものかわからなくなるだろうし、倒した岩マムシはすべて報酬として貴方のものという事でどう? もしこの場を逃げる事になり岩マムシが手に入らなかった場合や、その条件で納得できないならばそれ相当の金銭や食料、回復薬を私達の持ち物から渡す方向でもいいけど?」

「岩マムシ全部ですか!? そんなにもらっていいんですか?」


 ここにいる岩マムシ全部貰えるだって!?

 そうなれば四つ星の岩マムシが五つ星モンスターになって、さらに融合後に一つか二つ星の岩マムシまで行けるんじゃないかな?

 肉はダンジョンから出るまでに腐るから自分の食料にしかならない。売れるのは皮と魔石くらいだ。解体する技術やマジックバックや【カオスゲート】のような収納系の道具や魔法がなければ荷物になってあきらめて捨てるしかない。そう考えると人によってはお得ではない条件だ。

 だからこそ後のソレに相当する金やアイテムを用意しるという代替案も用意してくれたのだろう。

 僕としては岩マムシをもらえたら大満足なわけで「気前のいいひとだな~」という感想しか出てこない。


「仲間の命を救ってもらったんだもの、これでも足りないくらいだわ」

「ではここにいる岩マムシはすべて僕の獲物という事で。いただいていきます」

「うっ、お、お願いね……」


 気持ちを戦闘に切り替えると、何かを感じたのかアリシアは腰に刺した剣の柄に手を伸ばしいつでも動ける体制になった。

 魔石がもらえる嬉しさから殺気でも出ていたかな? 悪いことしちゃったかも?


「それじゃ、僕は行きますね」


 走り出し、エターナル・フォース・ブリザードの誰もいない方向に全力の蹴りに乗せた【伸びる刃】原型を残せる程度の手加減を添えて。

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