第13話 ついに手に入れた人間の姿 2

 いるいる、人と巨大なモンスターが戦う姿が見える。あれは地竜ハンマーテイルだ。名前の通りハンマーみたいな尻尾の翼を持たないトカゲみたいな見た目のドラゴン。

 ハンマーテイルはこのダンジョンの最深部に住むボスみたいな存在で討伐報告は数年に一度程度。討伐されればギルドはお祭り騒ぎ、倒したパーティーには拍がつく。そんなモンスターだ。

 ヤヤトカイの街にいる冒険者で「地竜ハンマーテイルの討伐」を目標にしてとどまっているパーティーはたくさんいるし、討伐したら自信をつけ、さらなる強敵を求め街を去ったなんて冒険者の過去にいたらしい。

 今回その相手をしているのは――


「あのバスターソードの獅子獣人ライオンはエターナルのリーダーだな」


 エターナル・フォース・ブリザード。全員が二つ名持ちのパーティーでヤヤトカイの街の冒険者ギルドで五本の指に入るくらいの実力を持つパーティーだ。

 そういえば僕たちクーガ団がダンジョンに挑戦する数日前にダンジョンに向かったって話を聞いていたな。

 リーダーのラドンは『鮮血の狂戦士バーサーカー』と呼ばれるライオン顔の獅子獣人。今僕が見た人だ。

 二人目は弓使いで参謀のルーク。眼鏡のエルフで屁理屈が上手く口喧嘩では負け知らず、ついた名前は『俺は悪くねぇノットギルティー

 三人目は暗器や毒を使う小柄な栗鼠リス獣人のシモン。普段は落ち着いた雰囲気で執事さんのような態度や雰囲気を醸し出していることと動きが素早くさわれないことから『不接触ノータッチ紳士ジェントルメン

 四人目は剣士の人の女性アリシア。その美貌からいくつもの男に食事に誘われるが、酒飲み対決で何人もの男を倒してきたことから『蟒蛇うわばみ

 五人目は水と闇の二つの魔法に適性を持つ蜥蜴とかげ獣人の魔導士、彼女の得意魔法から『氷結』のライム

 六人目は猿獣人の槍使い、セイテン。依頼を受けていない日はどこかの街頭で手品やダンス、漫談など様々な芸を見せていることから『百芸の道化師』

 七人目は聖獣使いと呼ばれる特殊な召喚魔法を使えるヒイロイン一族の少女、ユイ・ヒイロイン。聖魔法と一本角の白馬を呼び出せる力があり、小柄で、よく転んだり言い間違いで顔を赤くしている姿が目撃されて「可愛い」「マスコット」「癒し」「天使」などの評価を受けていた。非公式なファンクラブが存在しているとか、いないとか。そんな彼女の二つ名は『白馬の乗り手』だ。


 もしかしたらエターナル・フォース・ブリザードがハンマーテイルを討伐する。そんな伝説の一ページを目撃できるかと思い戦闘の邪魔にならなそうな場所までこっそりと近づいて覗き見することにした。

 冒険者のマナーとして他人が戦闘中のモンスターに手を出してはいけないというものがある。

 もし攻撃したら報酬やギルドへの報告などで面倒な事になる事になるからだ。

 厄介な言い争いを起こさないために緊急性が無ければ手出ししない。手出しする場合は相手が「たすけて」などの発言をしているか、先に一声かけて了承を得てからという事になっている。

 もちろんこれはルールでなくマナーなので破ったところでなんの罰則はない。

 でもそれはピンチの人が気付いていな場合や声をかけている時間のない場合、声を出すことの出来なさそうな場合に助けても、助けた人に損が無いようにするための措置だ。

 罰則がないからともし破ればその噂は冒険者やギルドの中で広まって冒険者の活動がやり辛くなるのであまり破る人はいない。

 いい感じの岩陰に身を隠す。


「落とし穴」


 顔の前だけ岩に穴を開けて戦場を見つめる。

 地面が見えないほどの岩マムシの群れがうごめいていて、見ているだけで気持ち悪い。

 なんだかアドベンチャー系映画のトラップに落ちた時のような状況だな。

 空中を動き回るブットビとハンマーテイル、このどっちかとの戦闘か逃走の途中で岩マムシの巣にでも足を踏み入れた上に、もう一体も戦闘に紛れてきて身動きが取れなくなった。みたいな状況なのかな?

 ラドンは岩マムシ溢れる中をバスターソードを振り回して岩マムシを吹っ飛ばして進みハンマーテイルに攻撃している。

 アリシアはユイの呼び出した白馬に乗って戦場を駆け巡っている。

 他の五人はライムの出したと思われるデカい氷の足場の上にいて、ルーク、ライムは遠距離から弓や魔法でハンマーテイルを攻撃。セイテンの槍とシモンのクナイで氷を登ろうとしている岩マムシの撃退をしている。ユイは目を瞑り祈るようなポーズをしているけど聖属性の魔法が使えるそうだし仲間の強化とか防御の結界とかを維持しているのかな?


「アリシアさん、盾を構えて」


 白馬から女性の声がした。上に乗るアリシアは言われた通りに盾を構える。白馬はそのままL字に直角急カーブ、ラドンの背後に回った。

 盾の位置にブットビがぶつかり弾かれる。あのまま放置していたらラドンに当たるはずだった攻撃だ。

 聖属性って事は僕と同じで【魔獣探知】を使っている可能性があるよな。だったらブットビが見えなくてもその動きを感知は出来るだろう。

 そしてブットビの動きは直線的だから行き先の予想は可能。

 自分が呼び出した白馬とは離れていても連絡できても不思議じゃないし、今ブットビの攻撃を防いだ連携はそうした結果なのかな?

 あんがい目を閉じているのも【魔獣探知】に全神経を集中している結果なのかも。


「【アイスボール】」


 ライムがかざした杖の周囲に四つの水の玉が現れ、跳んでいく。

 ラドンやアリシアの近くに落ち、水の落ちた場所が凍りついた。そこにいた岩マムシは倒せてはいないが氷漬けになり溶けるまでは動けないだろう。魔法だからいつ溶けるのかわからないけど。

 一部の岩マムシは凍る前に地面の中に潜って回避していたのを【魔獣探知】と【足音】が教えてくれた。

 目的は前に出ている二人がハンマーテイルに集中できるようにするためみたいだし岩マムシは足止めしたかっただけなのかな?

 だったら地面全部凍らせればいいんじゃないの? なんて事も思うけど、それだと魔力が足りないとか、足場が滑って戦い辛い、踏ん張りが効かない、なんて理由があるのかも。

 ハンマーテイルが尻尾で地面を叩く。

 すると地面が剣山のように無数の針が飛び出たような形で変化する。

 あれは土魔法だな。僕でも【土壁】で同じようなことは可能だろう。

 ラドンは土が変化して飛び出した瞬間にジャンプしてバスターソードで切りつける。

 アリシアの乗る白馬は剣山でも痛くないようだ。普通に走っている。さすがは魔法の生物だ。痛覚とか怪我は関係ないのだろう。

 他の五人は氷で土の変化を防いでいるので影響なし。

 ラドンの攻撃はハンマーテイルの皮膚を傷付けられなかった。

 バスターソードが当たった瞬間に火花が見えた気がするが、あの体鱗に覆われているのかと思ったけど、あれ全部土色の金属?

 もしかして【岩石の鎧】も使っているかも。

 ハンマーテイルが自分で出した剣山を尻尾で叩いた。

 破壊された飛ばされた土が形を変える。あれは【ストーンスピア】だ。

 攻撃後の着地したラドンに槍の形をした岩が迫る。ラドンの体に岩マムシも迫り動きを止めようとする。

 その岩マムシは白馬の足で踏みつけられ、【ストーンスピア】はアリシアの盾で防いがれた。その後片手でラドンを白馬に乗せる。


「大丈夫?」

「わりぃ、助かった」

「いいわ、早くアイツを倒すわよ」


 二人の周囲にライムの【アイスボール】が落ちて岩マムシの動きをけん制。

 ラドンが白馬の背で立ち上がりジャンプ、ハンマーテイルの尻尾を狙っての攻撃だ。

 一方その頃後方では――


「【輝きの護衛壁】」


 ユイが呪文を唱えると羽のついた四角い光が現れフヨフヨと浮かんでいた。

 その光が弓を構えたルークの横へと移動する。そこはブットビが向かう先。やっぱり彼女はブットビの動きを把握しているようだ。

 正体不明、誰も見たことのない素早く動き回るモンスター、ブットビ。エターナル・フォース・ブリザードも前にも襲われた事があったはずだが、正体がわかってないのだから見えてはいないのだろう。

 現在もユイ以外はブットビの動きに反応出来ていない。

 ブットビの動きが光の前で変わった。急に方向を変えて向かう先はユイ。

 これヤバイ、ルークとユイの距離は近いし、そもそも他の人はブットビの動きがわかっていない。光の壁はブットビの動きより遅そうだし彼女が自分で何とかできないと――

 ええい、考えている暇はない。


「【土壁】」

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