第10話 血に狂う蟲毒の晩餐会 4

 なんなのだアイツは。何度攻撃を受けても無傷でその姿を現し、疲れた様子もなく自分に攻撃をしてくる。どうすればアイツにダメージを与えられるだろうか?

 触れたら破裂する他の有象無象ザコモンスターとは違う。まさに敵と呼ぶにふさわしい同格の存在。

 おかげで自分は強くなれた。この進化した体で何が出来るのか、色々試す内に新たな戦い方がどんどん溢れてくる。ただ有象無象を蹴散らしていただけでは自分はいまだに魔力を集約することで小さくはなるが強力な金棒を生み出すこともなく、ただ巨大な金棒を振り回していただけだろう。

 敵であり極上のメインディッシュでもあると感じた自分の勘は正しかった。

 戦いのなかでアイツの動きを食らい、攻撃を食らい、防御を食らい、自分は次の高みへと昇っている。

 右手を失った。血が大量に流れている。血を止めよう、二度と失わないように防御を固めよう、右手の代わりを用意しよう。そのためには周囲に出した魔力を回収し鎧を作る。傷を塞ぐための、守るための、攻撃するための鎧を。

 また新しい力が手に入る。後はアイツ自身を食らうことで次の進化へ至るだろう。そしていつか――


 ◇◇◇◇◇


 モンコモの攻撃で有効だったのは【催眠術】か【超音波】のどちらか。同時に発動したのでどっちが効いたのかわからない。しかも効果は一瞬だった。ニードルウルフが回復するまで生き残る。それしかないだろうか?

 問題はそれまでどれくらい時間がかかるのかだ。それにマーク2の体力やケガがその間に回復したり、これまでの成長を考えるとニードルウルフの復活を待つ間に手の付けられない化け物に成長している可能性もある。

 つまりモンコモで倒せるなら倒しきりたい。

 マーク2は黒い鎧姿。兜は巨大な角が二本。肩や全身はトゲトゲで禍々しく、落ちた右手の所には大きくトゲトゲの鉄球がついている。

 マーク2の攻撃。接近して鉄球で殴ってくる。

 スピードに変化はない。早くもなっていないし、鎧のせいで遅くもなっていないようだ。そこは僕の鎧と一緒か。

 まだ鉄球の感覚に慣れていないおかげか攻撃は外れたのは幸運だった。

 続けて左手。第一と第二関節の間にはメリケンサックのようにトゲが生え、殴ったらダメージが出るようになっている。その拳が来る。

 兜の隙間からマーク2が僕を見ている血走る目が見えた。その目をこちらも見返し【催眠術】――

 マーク2の体がガクンとなりすぐに元に戻る。

 僕は飛んでその場を離れる。やっぱり効果があった。一瞬とはいえ寝そうになっていた。問題は近付かないとマーク2の目が見えないということ、そして近づけば向こうの攻撃が来る。それで効果が一瞬ではリスクとリターンが釣り合わない。【超音波】も耳が塞がれていたら効かない。あの兜でどちらも防がれているわけだ。厄介だ……

 さてどうしたものかと様子を見ていると、マーク2が黒い霧を吐き出しその体を隠す。霧の中から何かが飛び出す。

 鉄球だ。鎖につながれた鉄球が飛んできた。


「【ビックシールド】」


 モンコモではニードルウルフの時よりスピードも体力も防御力も低い。ニードルウルフが戦士職向きのステータスだとすると、モンコモは魔法職向きのそれだ。避けるより防ぐ。

 鉄球が盾に衝突――しなかった。空中で動きを変え、盾を回り込んで来た。


「【土壁】」


 鉄球の前にレンガを一つだけ作り出し鉄球を抑える。

 いつの間にか僕の周りまで霧が来ていた。この状況はマズい、まだこの感覚を狂わせる霧の対策は出来ていないぞ。どうしようか――。

 ドスンドスンと何かの落ちる音。これはさっき金棒が降って来た時と同じ音だ。

 そいうえば一度マーク2の臭いを上から感じた時があった。金棒の柱を足場にして空中にいる僕を攻撃するつもりとか?

 武器を足場にしようとかどんな発想だ?

 僕も何か自分に出来ることを別の使い方でやってこの状況を何とか出来ないかな?


「【魂の同調:グール】」


 いい手は思いつかないけど攻撃が来る気がしたのでモンコモを守るために変身。そして殴られた。

 あれ? 右斜め下から来ると思ったらその通りだったぞ。なんでだ?

 たまにはそんな事もあるか。よくわからないけどもう体力が戻るまでグールにはなれないから確認のしようがない。


「【魂の同調:モンコモ】」


 何か新しい魔法を使えるようにならないかな。石化とか毒とか幻覚とか魔法を使えなくするとかダメージ反転とか呪術系で。

 あ、なんか出来そうな気がする。

 見つめた相手を石にする【石化】、武器に毒を付与する【毒の刃】、吸った相手に幻覚を見せる【夢の霧】、刺した相手の魔法をしばらく使えなくする【魔封剣】

 パッと思いついた魔法を並べてみたけどまさか四つの魔法が望んだら使えるようになった。ダメージ反転の魔法は使えるようにならなかったけど、これは存在しないのか魔法の能力値が足りないのか。

さて、使える魔法増えたけどどうしよう。黒い霧をどうにかできる魔法ではないんだよな。


「【魔封剣】」


 光の剣が一本。これを刺すことが出来れば相手は魔法が使えなくなる。ただし現在発動中の魔法が消えるわけではないのでマーク2の鎧も金棒も黒い霧も消えるわけではない。

 まずは周囲の黒い霧から脱出、追ってきたところで光の剣。またはマーク2が攻撃してきたタイミングで刺すかだな。

 気配が、来る!!


「【魂の同調:牛巨人】」


 逃げる暇なく攻撃が来たので捨て石に変身。


「およ?」


 マーク2の姿が見える。鉄球を変な方向に投げた、と思ったら柱に引っ掛け曲げて僕を狙う。

 本体は柱を蹴りながら空中移動。通常金棒で殴ってくる。

 牛巨人では完全に動きが見えているのではなく、黒い塊が見える程度。

 でも黒い霧で見えないはずなのに、霧は全く見えずに普通の視界だ。なんで?

 とりあえずマーク2が来る場所に光の剣を突き刺す。

 光の剣が消えた。無事にいったのかな?

 色々とわからないまま牛巨人の体は消滅した。


「【魂の同調:モンコモ】」


 大丈夫、まだ僕は変身を一つ残している。

 不安だから補充しとくか。切り札として体力を回復させたいニードルウルフは残して選手交代。

 酸ゼリーと牛巨人とグールに変わってスケルトンとブットビと馬巨人を使用欄にセット。こいつらが倒されたらもう変身できるモンスターがいない。かなりやばい状況だ。

 さて【魔封剣】の効果はどうでしょう。無事に当たったかしら?

 確認したくてもモンコモの姿では相変わらず霧の中では何も見えない。牛巨人、それとたぶんグールも黒い霧の影響を受けていなかった。この二体の共通点って何よ?

 わからないけどゆっくり考えている暇はないようだ、マーク2が接近してくる気配がする。


「【魂の同調:ブットビ】」


 ブットビでも霧の中は見えないと。そして変身した瞬間に地上に向け落下する。浮遊するには頭や足をしまって回転する必要があるのだが、それだと周囲の状況は見えないし柱があり障害物の多いこの場所では衝突して動きづらい。それにどうせ攻撃を受けるためだけの変身だし。

 マーク2が霧の中から姿を現す。その首には新たに光る首輪が装着されていた。

 あの首輪の光は【魔封剣】と同じものだ。呪文を唱える口や魔法を意識する脳と魔石の繋がりを首のところで止めている。

 自分の使った魔法なので見ただけでその状況を直感的に理解する。なんだか【魂の同調】の使用方法を記憶から取り出している時と同じ感覚だ。勉強してないのに知っている。

 無事に【魔封剣】が発動できている事も確認できたし、甲羅の中に籠って防御の構えだ。

 戦っている時に苦戦させられたブットビの防御力に少しは期待しよう。一撃くらい耐えられるかも。

 頭を収納しているので見えにくいが、殴られ吹っ飛ばされる。だがまだ変身は解けていない。

 飛ばされながら考える、こいつ浮遊とかできるし回転してんだから風魔法とか使えないかな?

 それでこの霧を全部吹き飛ばすみたいな魔法があれば、今の封印状態なら新しく黒い霧が作られる心配はないから霧に惑わされ回避できない状況は何とかなる。残りの変身がなくなる前にはここをなんとかしなければ。

 だが考えてみても風魔法が使えるような感覚は感じない。残念ながら適性無しです。

 それぞれのモンスターの魔法適正とか確認できないのかな?

 そのなかに風の適性があればワンチャン――

 あった。ボックスからモンスターを表示。星の下に魔法の適性が色付きの丸で表示されている。色は火は赤、土は橙、光は黄、風は緑、水は青、闇は藍、呪術は紫、聖は白、無は黒となっているようだ。

 さらに見やすいようにモンスターをドット絵と名前、適性魔法で一覧表示。なんだかゲームの『超ロボット大戦』の準備画面でよく見た並びになった。僕の記憶の中から見やすい形を擁してくれてんのかな?

 ともかく、これで風の緑色を探してみる。わかりやすいように九つ分の枠が用意され適性のある場所だけ色付きの丸が置かれているので風の場所の縦列を上から見ていくだけでいいし、対象の魔法を押せばそれを持っているモンスターを上にして並び替えも可能だ。

 その結果、残念ながら風の適性者なしだとわかった。土や呪術でやったら岩マムシやモンコモが上に来たので間違いない。

 そしてこれでわかった事が一つ。グールと牛巨人には闇魔法に適正があったという事。ついでにスケルトンもだ。

 マーク2が二発、三発と追撃しているがブットビの甲羅は耐えられている。おかげで考えに集中できる。

 もしかして闇魔法の適性があれば黒い霧の影響を受けないとか?

 今すごく殴られているけど、このラッシュが終わったらスケルトンになって試してみるかな?

 あ、やばい――

 顔面にパンチが入りそうだ。僕がブットビを倒したように甲羅は固くても穴から頭や足を狙われたら弱い。急いで回避行動だ。【雷光一閃】を発動しながら浮遊して回転。先に【雷光一閃】を使っておくと動きが早くなるのでそうした。

 回転したことで攻撃が甲羅にあたりパンチが弾かれた。このまま【雷光一閃】で体当たりだ。

 見えないのでマーク2からの殺気や気配頼りで突っ込んだ。相手は動かない、だが何にも当たらずそのままマーク2の居た場所を通り過ぎる。

 黒い霧の影響で感覚を狂わされ明後日の方向にすすんだようだ。さっきまで攻撃を受けていたんだ。パンチの届く距離にいるのに目視じゃないと攻撃も当てられないなんて……

 敵に当たらなかった体当たりはそのまま金棒の柱にぶつかり、僕の体はピンボールの玉のように柱から柱のへと体当たりを続けわけのわからない動きをしている。

 ちょ、止まってくれ。目が回る。

 光魔法に索敵系の何かないのか、柱の位置が全く把握できない。僕はどうなっているんだ?

 おぉ?

 こんな魔法無いかなと思ったらいつものように都合よくその魔法が手に入ったわけではない。レベブアップして一つ星になっただけだ。

 マーク2に殴られるたび、柱にぶつかるたびに防御による経験値が溜まり、ついに成長したのだ。

 甲羅だけではダメージを受けていないし、なんならいっそこのまま五つ星になるまで体当たりを繰り返すか?

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