第9話 血に狂う蟲毒の晩餐会 3

「【岩石の鎧】」

 岩マムシの持っていた土魔法。自分の体を岩で作った鎧で守る魔法だが、【土壁】がレンガで作れたようにこの魔法も魔力でゼロから作れば岩じゃない素材で生み出せる。空のような青色の金属。魔法で作り出した全身を包むその鎧は全く重量を感じず、何も着ていない時と同じように動ける。その辺にある岩を鎧にした場合はその分の重さがかかるが、魔法だけで作った今回の場合は防御を固めるだけの魔法となっている。

 マーク2が動いた。グールの時とは違いその動きが見える。今度は上から振り下ろし叩き潰す攻撃。

 横に飛んで避けてカウンターでひっかく。

 これで終わり、なんて事は無かった。痛みは感じているのだろうか?

 振り下ろされた金棒を持ち上げ横向きに、背後から攻撃が来る。その攻撃に合わせてジャンプ、相手の金棒に一瞬乗って振られる勢いに乗ってさらにジャンプし一気に離れる。

 振られた衝撃波が無関係のモンスターを襲う。僕は空中でクルッと回って壁に張り付く。

 金棒が迫ってくる。跳んだのを見て投げたのだろう。もう鼻の先にそれは来ていた。避ける余裕はない。


「【魂の同調:モンコモ】」


 小さなコウモリの体になるが変身した瞬間【岩石の鎧】は形を変えこの体にフィットした。

 そして小さくなったことで真横数ミリという所を金棒が通り過ぎ壁に突き刺さる。

 マーク2が走ってくる。効くかわからないけど試しに【超音波】。バタバタと無関係のモンスターが気絶していくがマーク2には効いているのだろうか?


「【ストーンスピア】」


 マーク2を十二本の岩の槍がバラバラに動きながら襲う。マーク2はそれをまったく避けようとはしなかった。槍が当たる。だがそれは肉の壁を超えることは出来ずに槍の方が砕けた。

 マジかよ、傷一つついてないぞ!?

 マーク2の右手に新たな金棒が現れる。それだけではない。マーク2の背後に人間の扱うサイズの十二本の金棒が出現し飛んでくる。

【ストーンスピア】の真似事かよ!?


「【ビックシールド】」


 金棒は【ストーンスピア】と違い空中での制御は出来ないようでまっすぐにこちらを目指している。またはまだ扱いに慣れていないでまっすぐに飛ばしているだけかもしれない。警戒はしておこう。

 三枚の盾を並べて攻撃を受けた。金棒が地面に落ちる。

 マーク2はその間に僕の下まで到達、手に持った金棒で落ちてきた金棒を叩き再び上へ。

 盾によって視界が塞がれたことでマーク2の動きに気付けなかった。

 反応出来ずに一本が当たった。天井まで体が運ばれ、天井と金棒でサンドイッチされる。そして鎧が砕けて消えた。

 鎧で防ぎきれずに体に痛みが走り、口の中に血の味が広がる。

 マーク2の追撃。痛みを消し去るために変身する余裕もない。跳躍からの金棒による突き攻撃。

 どっちでもいいから効いてくれ――

 そんな願いを込めて【超音波】と【催眠術】を発動する。マーク2の動きが一瞬ブレて、金棒が外れた。

 効果があった?

 二つの魔法のどっちが効いたのかわからないけど意味はあった。


「【魂の同調:ニードルウルフ】」


 天井を蹴ってマーク2に飛び掛かる。一緒に落下しながらその首筋に牙を突き立てた。


「ンムォ~」


 マーク2から苦しそうな声が漏れる。

 近すぎる距離に金棒では攻撃できないと判断したのだろう。マーク2は落下中に金棒から手を放し、空いた拳で殴ってきた。右左右左、何度も何度も殴られ、たまらず首筋から口を離す。

 最後に蹴り飛ばされマーク2から引きはがされる。

 殴られた後では遅いが変身前か変身後すぐに【岩石の鎧】を使っておけばよかった。


「【魂の同調:岩マムシ】【魂の同調:ニードルウルフ】」


 飛ばされながら一瞬別のモンスターに変身してもとに戻る。減った体力は戻らないけど痛みはもうない。

 着地して次の攻撃に備える。

 マーク2は殴った拳から血が流れていた。通常ニードルウルフの毛を気にせずにいたマーク2だがさすがに五つ星ニードルウルフの鋼の体毛は耐えきれないようだ。

 爪も牙も毛もニードルウルフのそれは全部効果があったようだ。一瞬とはいえ【超音波】か【催眠術】の影響を受けた様子もあった。こっちの攻撃が全くの無駄ではない。まだまだ全然ピンピンしているけどやれるだろうか?

 空から巨大な金棒が降り注ぐ。吹っ飛ばされて目を離していた時に召還したようだ。


「【岩石の鎧】」


 次々に落ちてくる金棒を避けながら鎧を装着。

 金棒を避けるのは簡単だったが、マーク2の目的は攻撃だけではなかった。

 金棒が柱のように突き刺さり、その間を姿を隠しながらマーク2が動いている。

 さっきの盾で姿が見えなくなった時の攻撃から不意打ちを学習したか?

 背後から迫るマーク2を嗅覚と野生の勘で察知して振り返る。

 柱の立つこの場所で巨大金棒は振れないと判断したのか通常サイズの金棒を持っていた。

 振り下ろされる金棒。


「【土壁】」


 真四角に狭い範囲で天に向かって伸びる壁。金棒にぶつけ跳ね上げる。マーク2が体制を崩す。

 鎧作成時に、より深く傷付けられるように前足の爪に刃を付けておいた。その前足で攻撃。

 胴をひっかく。その攻撃に合わせてカウンターでマーク2の蹴りが来た。蹴り飛ばされ、金棒を三本倒して四本目で止まった。土埃つちぼこりが舞い視界が塞がる。

 鎧が無ければ飛ばされた先に立つ金棒のトゲに刺さり、さらなるダメージを受けていただろう。 

 右目が流れる血で赤く染まり痛くて開けられない。後ろ足は骨が折れうまく立てない。


「【魂の同調:岩マムシ】」


 変身して魔力を流して鎧の損傷を直す。


「【魂の同調:ニードルウルフ】」


 変身しなおしたことで全ての傷がなかった事になり、折れておかしな方向に曲がっていた後ろ足も元通りだ。

 もうしんどい、まだ倒れないのか?

 埃が収まる前に移動開始。

 向こうもどこかに隠れこっちを狙っている事だろう。


「【ストーンスピア】」


 おとりとして四本の槍を土埃の中からバラバラの方向に打ち自分も走り出す。飛び出した時に攻撃は来なかった。少し慎重になりすぎていたか?

 さっきまでマーク2の居た場所を見た。当然そこにその姿は無い。

 どこに行った?

 臭いで探る。上?

 臭いが強くなる。確認もせずに動く。地面が大きく揺れた。

 クレーターの中心に金棒が突き刺さりマーク2が着地の姿勢を取っていた。立ち上がり金棒を担ぐ。

 揺れで僕の周囲の柱になっていた金棒が抜け、倒れ始める。


「【魂の同調:岩マムシ】」


 最悪体力がなくなってもいいやという気持ちで変身したが小さな体になった事で運よく重なる金棒の隙間に収まった。

 そのまま隙間を縫うように進んでいく。

 突然金棒が浮き上がり、吸い込まれた。

 マーク2の手には黒い球体が浮かんでいた。最初に使っていた死体を回収するのに使っていたあの球体だ。

 一瞬で僕の姿があらわになる。


「【魂の同調:ニードルウルフ】」


 岩マムシのままではグールの時のようにマーク2の動きについていけないので変身。

 黒い球体からさっき吸った金棒が飛び出す。僕を狙ったものではなく、また柱として刺さる。

 マーク2が口から黒い霧を吐き出した。

 こいつ、戦いの中でどんどん新しい戦法を――

 さっきの土埃で見えなくなったのを参考にしたんだな。でも魔法だとしたら使用者がこの霧で見えなくなるなんて事は無いはず。

 ――右!!

 右から攻撃が来るかと思ったが、実際は左からだった。金棒が思いっきり体に入る。

 今度は上かと思ったら後ろから、左だと思ったら正面。嗅覚も聴覚も役に立たない。

 信用出来るのは殺気だけ。どこから来るかはわからないけどタイミングだけは今まで間違えたことは無かった。

 右から金棒が来る。それを見て、受け、そして爪によるカウンターの一撃。

 それは今までで一番の、まさに会心の一撃と言ってもいい攻撃だった。

 胴体は遠すぎると腕を狙った爪は金棒を持つ右手をとらえ、吹っ飛ばされる勢いも加算され右手首を切り落とした。地面に金棒と右手が落ちる。


「ンムォ~」


 マーク2から怒りの視線を向けられた。そしてマーク2は地面に落ちた金棒を蹴る。

 その金棒が僕の体をとらえた。黒い霧を抜け、柱を倒し、壁にめり込む。さすがにここまでやられればニードルウルフも限界を迎え変身が解けた。


「【魂の同調:モンコモ】」


 残る手札でマーク2に対抗できそうなのはこれだけだろう。モンコモでダメなら逃げるしかない。逃げられればだが。


「ムォ~!!」


 黒い霧が消えた。柱になっていた金棒が浮かび形を変えマーク2の体へとまとわりつく。

 トゲトゲした見た目の漆黒の鎧。今度は【岩石の鎧】をマネてきたか?

 右手を切ったことで怒らせた結果だろうけど、ゲームだとボスは体力を半分削ると変身して攻撃方法を変えてくる場合がある。まるでそれみたいだ。

 実際にどれだけ体力を削れているのかわからないけど。

 こちらはニードルウルフを失い向こうは右手を落とし鎧姿に変身した。ここから第二ラウンドの開始だ。

 

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