第8話 血に狂う蟲毒の晩餐会 2

 あれからどれくらい時間が経っただろうか、一時間か一日か一週間か。

 ずっと戦っているのでよくわからない。

 疲れて集中力が切れたり眠くなったりするが、そういう時は別のモンスターに変身すると全部リセットされて調子が戻る。

 油断から不意打ちを受け、体制を崩したところを周囲の敵によって追撃を食らい、そして体力がきるなんて事もあった。

 今の使用欄のモンスターは『モンコモ』『ニードルウルフ』『グール』『岩マムシ』『酸ゼリー』『牛巨人』の六体だ。選んだ理由は強いの二体とこの場で魔石が手に入るので強くなると思われる四体だ。実際に数の多いグール、岩マムシ、酸ゼリーは二つ星になっているし、数は少ないが基本能力が他より高い牛巨人でも一つ星にはなれている。

 現在の姿は酸ゼリー。ニードルウルフは戦闘と魔石を集めたおかげでもう五つ星になっていたので困った時に出すように待機。岩マムシは体力がゼロになったので全快するまで変身できない状態だ。

 酸ゼリーの戦い方は口から酸を飛ばすか体に取り込んで溶かすの二択、普通の酸ゼリーは体に取り込んで消化を始めた瞬間、動けなくなって他のモンスターにやられていた。

 僕の場合は魔石を回収することを優先して、見つかったら近くのモンスターを何かしらの攻撃で傷付けて注意をそらして逃げている。減ったとはいえまだまだ沢山のモンスターがいるので狙いを付けなくても割と攻撃を当てられている。

 魔石を回収した個体と、していない個体の違いが判らないので回収と同時に体に取り込む。


「【魂の同調:グール】」


 酸ゼリーは何かを取り込むと動けなくなる。なので別のモンスターになって岩陰に隠れる。

 グールは別のグールから奪った短剣と鎖帷子くさりかたびらを装備している。

 逃げながらすれ違った相手を切りつける。


「【土壁】【魂の同調:酸ゼリー】」


 守りを固めてから消化に入る。体に取り込んだものは消費アイテムの食料扱いになるようで変身してもまだ持っていることが出来る。自分の意識の問題なので別にいちいちボックスの画面を開いて設定しなくても「僕はこのモンスターの時にこれを持っている」と認識するだけでも装備している判定に出来るようだ。

 星が上がって消化のスピードも速くなっている。


「お、岩マムシが復活している」


 消化を待ちながらボックスを開き、体力や魔力を確認。岩マムシの体力が戻り変身可能になっている。

 モンスターの回収は岩マムシの方が効率がいい。

 酸ゼリーの場合は取り込むと動けなくなるけど岩マムシは食べ物を飲み込んだ後にスピードは落ちるけど動く事は出来る。前回は欲をかいて少し多く飲み込んだせいでほとんど動けないような状態の所を狙われやられてしまった。相手の大きさにもよるけど飲み込むのは五体くらいが目安となる。そして体に蓄えたモンスターを吐き出して全部酸ゼリーに消化してもらう。


「酸ゼリーは育つの早いな」


 ずっと消化作業をさせ続けているおかげか酸ゼリーの三つ目の星はもう少しというところだ。あと一個酸ゼリーの魔石を手に入れるか、このまま消化を続けていればすぐに三つ星になれるだろう。

 消化を終わらせて戦場へ向かう。戦場をカサカサと動き回り酸ゼリーの状態で一体、岩マムシで五体回収。そしてグールになってモンスターのいない隅っこへ行き【土壁】で引き籠って消化――


 ◇◇◇◇◇


 ――それは牛巨人。そうのだ。

 大量のモンスターを倒し、全身を返り血で赤黒く染め、多くの肉を食らい、魂を集め、そしてそれは

 体の形が変わる。力が溢れてくる。だが足りない。もっと血が欲しい。力が欲しい。自分はもっと上を目指せる。そいていつかへと至る。

 そのためにはもっとにえが必要だ。魂を捧げなければならない。目の前にいる魂をすべてだ。相手もそのつもりなのだ、それがモンスターの本能。存在理由。いつかへ。全てのモンスターがを目指し、他者を食らい魂を捧げるのだ。

 軽く武器を振るう。それだけで半数が消えた。弱い、弱すぎる。それは理解した。あぁそうか、ここは自分のために用意されたエサ場なのだ。そしてこいつらはただ自分に食べられるために集まったのだと。

 エサを集め次へと至るために食事を始める。どうせこの場に自分の脅威となる存在はいないのだから。

 だがそれは気付いた。この場に一匹がいることに。だがそれは同時に極上の料理でもあった。そのからは強い魂の力を感じられた。何百というモンスターが集まり形を成しているような存在。

 あれを食べれば自分はさらなる高みへ行けるはずだ。もしかしたらにでも。

 メインディッシュを前にそれはニヤリと笑った――


 ◇◇◇◇◇


 ――酸ゼリーでモンスターを消化していたら強い魔力の気配を感じた。

 なんだ、いったい何が起きたんだ?

 土壁を解いて外を見る。

 牛巨人から膨大な魔力が溢れたかと思うと、外に出た魔力が一気に中心へと集約された。

 そして牛巨人の姿が変わる。小さくなり、普通の人間と同じ大きさ、もう巨人とは言えないな。

 筋肉質で引き締まった赤銅色の体に牛の頭。上半身は裸で下半身には道着のようなものを履いていた。とりあえずマーク2と呼んでおこう。

 マーク2が右腕を振り上げる。するとその手に巨大な金棒が出現した。もともとの牛巨人が使っていた棍棒と同じ大きさの金棒。それを野球のようにスイングする。

 金棒に当たったモンスターは破裂し、金棒の動いた範囲に生きている存在はいなくなった。それだけではなく漫画で見る飛ぶ斬撃のように直接金棒に触れていなかった存在も上半身と下半身が分かれていた。

 僕も気付いたらゴーストの姿になっていた。


「【魂の同調:グール】」


 たった一撃でこの場のモンスターが大量にやられた。マーク2のいた場所がはしだったのでこの結果だが、もし中心にマーク2がいたらこの一撃で全てが終わっていた事だろう。


「ンムォ~」


 左手に黒い球体が出現、その球体にやられたモンスターが一気に吸い込まれていった。この場の死体がすべてその球体に回収された。

 ドスンと金棒を落とし、球体に手を突っ込む。引き抜かれたその手にはニードルウルフの足が握られていた。その場に胡坐あぐらをかき肉にかぶりついた。

 ニードルウルフの鋼のような体毛を気にした様子もない。どんなあごしているんだろう?

 それに普通の牛って草食だよな、体は人間だし牛風のモンスターだからいいのか?

 何を気にすることもなく食事をするマーク2、それを邪魔しようとするモンスターはいない。隙ばかりに見えるが攻撃した瞬間にこちらがやられる。あれは挑んではいけない化け物だと本能が告げている。

 他のモンスターもマーク2の動きを注視していて戦闘は止まっていた。

 誰一人動かない中マーク2だけは食事を終え、そして立ち上がる。その顔が動き、目が合った気がした。マーク2がニヤリと笑うと消えた――

 殺気!

 短剣を左に。目の前にマーク2が現れたかと思うと短剣が破壊され吹っ飛ばされた。

 鎖帷子も壊れたがまだグールの姿だ。


「【魂の同調:ニードルウルフ】」


 体力が尽きて強制的に変身が解けた場合は体力が回復するまで変身できないが、まだ体力が残っているのなら体力が全快じゃなくても変身できる。どんなに弱っていても何かに使えるかもしれないので温存しておく。

 そしてマーク2の速さにニードルウルフなら対応可能かもしれないので変身。

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