第7話 血に狂う蟲毒の晩餐会

 スケルトンの活用法も見つかったがまだ弱いことに変わりはない。星を上げてもっと強くしなければ。

 それにすでに人型のスケルトンを使って融合すればより人間に近い見た目のモンスターになれるかもしれない。

 人狼と犬の獣人は裸で歩いていれば違いが判らないという話もある。その判別方法は言葉を話せるかどうか、服を着ているかどうか、あとは人狼は共通で銀色の体毛に血のような赤い瞳だという事だけ。

 狼のニードルウルフと人骨のスケルトンを融合すれば人狼になれるかもしれない。そうすれば目的達成だ。

 モンコモで証明されているが経験値をもっとも簡単に貯める方法は同じモンスターを狩り続けて魔石を集める事だ。

 スケルトンには死体が必要、下層に行くほど敵は強くなるがそんな所に行くのはベテランや実力者ばかりであまりやられることはない。

 上層は新人ばかりなので怪我はするが、別の冒険者に出会える確率も高く、出口も近いのでわりと生き延びる確率は高い。

 つまりスケルトンに出会える可能性が高いのは上層と中層の間、新人が少し慣れてきたと慢心して強敵にひどい目に合う場所だ。

 そうしてひどい目にあったのが冒険者三年目の僕である。悲しい。

 モンコモになって縦穴を飛んでいく。ちょっと飛んだだけでモンコモは五つ星モンスターへとなった。これでもう一体五つ星モンスターがいれば融合が使えるというわけだ。

 ブットビも飛べるので縦穴を上に行けるのだが、ブットビの場合浮遊するには回転しなければならないので視界もよくわからなくなり使いたくない。そんなわけで経験値がもったいないけどモンコモで移動中だ。

 飛びながら【足音】で何かモンスターがいないかと探してみる。


「なんだこれ?」


 それに大量の反応があった。気になったので行ってみよう。


 ◇◇◇◇◇


「くそ、武器が壊れた」

「なんでこんなにモンスターがいるのよ」

「俺が注意を引く。お前たちはその隙に逃げろ」

「そんな、貴方を残してなんていけないわ」

「大丈夫だ、俺は頑丈だからな。うまいこと逃げるさ」

「それだったら鈍足なお前より身軽なオレの方が適任だな」

「な、ヴィネガー、お前何言ってんだ。武器のないお前に何ができるってんだ」

「ソルトこそシュガーの気持ち考えろよ。お前を置いて彼女が逃げれっかよ」

「そうだぞ。ソルトはシュガーと妹を連れて先に逃げろ。僕たちがここで足止めしよう。これはリーダー命令だ」

「ソイソー、お前もか」

「行こう二人とも」

「そんなミソ、お前はいいのか」

「誰かがやらなきゃいけないの。それに二人は死ぬ気じゃないわ。生き残る可能性を上げるために二人と三人に分けるだけだもん。お兄ちゃんならきっと大丈夫だもん」

「しかし……いや、わかった」


 反応のした場所に向かう途中、馬巨人三体とスケルトン五体の群れと戦う冒険者パーティーを見かけた。あ、あの人たち何度か一緒に依頼を受けたことのある人たちだ。たしかパーティーの名前はサニーサイドアップだったか?

 クーガ団僕たちとそんなに変わらない強さだったはずだ。

 馬巨人は人の体に馬頭の巨人で三~十メートルくらいの大きさだ。手にはなたを持っている。ちなみに同じ巨人で頭が牛で武器が棍棒という違いのある牛巨人というモンスターもいる。

 力強いうえにタフで厄介だが基本一体でしか現れないのでなんとか戦えるモンスターだ。それが二体だとクーガ団では厳しいので見かけたら逃げる。彼らでもそうしたいはずだろう。

 全員ボロボロで武器や防具は限界を迎えているようだ。

 魔法職っぽい人は目の下にクマを作りゲッソリしている。もう魔力も尽きているんじゃないかな?

 こんな状況じゃ絶望的だろう。知り合いだし、そうでなくても同じ冒険者として助けてやりたいな。モンスター同士が戦いだすのは珍しいことじゃないけど、新手のモンスターとして攻撃されたくはない。人間とは戦いたくないからな。

 倒した後でそく逃げられる早いやつと言えば、ニードルウルフ、それに――


「ちょうどいいかな?」


 せっかくならコイツの姿を彼らに報告してもらおうかな。


「【魂の同調:ブットビ】」


 ギルドに報告してもらうには彼らに生き残ってもらわなければならない。だから助けるし、ブットビの姿や戦い方を見てもらう必要がある。

 そして僕は彼らと戦いになりそうなら【雷光一閃】で即逃げることが出来る。新しい力を試せるし一石二鳥、いや三鳥の作戦だ。

 そんなわけで【雷光一閃】で馬巨人に体当たり。


「え、なに?」

「馬巨人が突然横に跳んだ?」

「いや、なにかに跳ばされたみたいな動きだぞ」

「でもあんな巨体を何が? 七メートルはあるわよ」

「見ろ、馬巨人の顔があった場所、何かが浮いている」


 その何かとは僕です。

 徐々に回転を緩め地上に降りる。


「亀?」

「亀のモンスターなんてこのダンジョンにいたかしら?」

「いや、僕は知らない。だけど正体不明で相手をぶっ飛ばすモンスターになら……」

「え、それってもしかしてブットビ?」

「うそ、あれがそうなのお兄ちゃん」

「でもアイツは深層のモンスターだろ、こんな浅い階層にいるわけ――」

「実際にいるじゃない。今日のヤヤトカイの大穴はモンスターの動きがおかしいわ。深層のモンスターが出てきても不思議じゃないのかも」


 ヤヤトカイはここの近くの街の名前だ。その近くにある穴だからこのダンジョンは『ヤヤトカイの大穴』と呼ばれている。

 姿は見てもらったので雷を纏ってまた回転して浮上。スケルトンを倒していく。


「モンスターの数が多く、下のモンスターが昇ってきている?」

「おい、それってまさか」

「スタンピード――」

「おいおい、こりゃクーガ団に悪いが依頼どころじゃないな。もしスタンピードならしばらくはダンジョンへの侵入が制限されちまうぞ」


 ん?

 いまクーガ団と言いました?

 詳しく聞きたいけど今の僕モンスターだからな、上手いこと話してくれないかな?


「どのみち今回はもう撤退するしかないけどね」

「ブットビがモンスターと戦っている今のうちに逃げましょ」

「そうよ、運よく別のモンスターに勝てたとしてもミソ達じゃブットビには勝てないわ」

「そうだな」

「うん」


 冒険者達は逃げるようだ。もう少し話を聞きたかったが、ブットビの姿を見てもらったから目的を達したって事で満足しておこうか。

 ブットビは一度も攻撃を食らう事もなくモンスターは全滅した。そして魔石を回収したことでスケルトンが一つ星になった。さて、では改めて【足音】の反応のあった場所に向かいますかね。


 ◇◇◇◇◇


 そこは僕が爆弾を使った場所だった。大量に積まれたモンコモの肉を求めて集まったのかな?

 ニードルウルフとグールと岩マムシに酸ゼリー、牛巨人や馬巨人の姿もある。

 様々な肉食モンスターが集まり大乱戦。その戦いの血の臭いに誘われて新たなモンスターが集まる状況となっているようだ。


「とりあえず魔石をもらうかな」


 地面に息絶えたモンスターがいる。そこへ降りて魔石を奪って離脱。


「岩マムシと酸ゼリーゲット」


 岩マムシは体が岩の蛇モンスター。酸ゼリーは体の中に入れたモノをなんでも溶かすドロッとした橙色の液体型のモンスターだ。

 魔石を回収していると牛巨人が巨大な棍棒を振り下ろしてきた。目と目が合ったので【催眠術】を発動。

 牛巨人の巨体が倒れた。すぐさま別のモンスター達が牛巨人に群がって攻撃している。

 この隙に倒れたグールから魔石を回収。いったん上空へ退避。


「お、あれは――」


 洞窟に新たにニードルウルフの群れがやってきた。


「【土壁】」


 ニードルウルフの前後に壁が盛り上がり逃げ場を奪う。さらにその壁が近付いていきニードルウルフを押しつぶした。

 そこへと降りていき、邪魔されないように自分の背後に【土壁】を作って魔石を十三個回収、ニードルウルフが三つ星へと到達した。ついでに血をもらって魔力も回復しておく。

 さて、この倒したニードルウルフはどうしようかしら。

 ここに放置したらまた肉と血の臭いに誘われて新しいモンスターが寄ってくることになるだろう。


「【魂の同調:酸ゼリー】」


 十三匹をすべて包んで体の中に入れる。酸ゼリーの力で血も肉も全部溶かして吸収すればいいだろう。少し時間がかかるけど、他のモンスターで食事だと骨や血が残ってその臭いで次のモンスターを呼ぶ結果になるかもしれないからな。


「戦っているモンスター達、なんかヤバイ感じがするよな。さっきも倒れた牛巨人に即反応して『弱った奴は食料じゃ』みたいなノリで襲いまくっていたし」


 すでに一体跡形もなく消えたが数が多いので消化に少し時間がかかりそうだ。【土壁】で守りも固めているので少し考え事をしよう。


「ずっと戦闘しているせいで魔力切れとか体力減ったとかで肉の事しか考えられなくなっている?」


 モンコモでいる間に魔力が減ると血が欲しくなってそれ以外考えられなかった時があった。ここにいる奴らが全員その状態なんて事あるのか?


「もしかしてボックスの集めた魔石を封印しとかないと暴走するみたいに、たくさんのモンスターが集まったから影響しあって暴走しているとか?」


 ダンジョンから突然大量のモンスターが飛び出して暴れだすスタンピードと呼ばれる災害がある。強いモンスターから逃げているとか食料を求めてとか縄張りを追い出されたとかその時々で理由は様々だけど、わかっていないだけでモンスターは集まりすぎると凶暴化する習性があるのかもしれない。


「この空間は血の臭いが充満しているし、それに酔っておかしくなったなんて可能性もあるかも」


 人間から見たらモンスターは見つかったら襲ってくるし家畜も襲う凶暴で危険な存在でしかない。血が大好きで血の臭いを嗅ぐとハイになるヤバイ奴らだと言われても信じられる。


「なんでモンスター達が大乱闘しているかはわからないけど、集まった原因は僕がモンコモを放置して去った事だし、魔石大量ゲットのチャンスでもあるから何とかしたいね」


 消化はあと二体まで進んでいた。


「とりあえずこれ以上の参戦を防ぐために全部の入り口を塞ぐか」


 一体が消え去った。最後の一体の消化をやめて吐き出す。これからやることにこれが必要かもしれないし。


「【魂の同調:モンコモ】からの【土壁】」


 レンガでこの空間をドーム状に包み込む。広すぎてどんどん魔力が失われていく。

 溶けかけのニードルウルフにみついて血をチューチューしながら魔法を使い続ける。

 とりあえずドームを完成させる事は出来た。後は通路になっている場所につながる壁を出来るだけ頑丈にする作業だ。

 ニードルウルフの血がもう吸えない。体が次の血を欲している。ここで壁づくりはやめておこう。


「【魂の同調:酸ゼリー】」


 最後に死体を片づける。


「【解除】」


 ゴーストになって作った壁を通りすぎてドーム内に侵入。


「【魂の同調:ニードルウルフ】」


 モンコモが魔力切れに近い状態で使えないので二番目に強いこの子だ。

 ドーム内の強烈な血の臭いで鼻が利かない。殺気も溢れているので僕に向けられた攻撃の気配もわかりづらい。

 はたして僕にこの大乱闘を収める事が出来るだろうか?

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