第6話 スケルトン弱すぎ問題 2
「【魂の同調:モンコモ】」
魔力回復にちょうどいいので動かなくなった亀の血をすする。そうしながら触れているので魔石も奪う。
無事に魔石が奪えたという事は気絶しているのではなく倒せたという事だ。
こいつって結局なんて名前のモンスターだったんだろう?
全身の血をすべて吸い尽くす勢いで飲みながらボックスを開く。
亀の名前は「ブットビ」となっていた。なんだ、こいつがブットビだったのか。
ブットビとは正体不明の存在。ダンジョンを探索していた冒険者が突然何かにぶつかりぶっ飛んだ。しかし攻撃してきた者の正体を見つけることは出来なかった。そんな報告が何件か上がり、突然飛ばされることからギルドがこのモンスターに付けた名前はブットビ。狭い場所に行くと攻撃されないらしく、ブットビに遭遇した時の対策は狭い場所に行くのと、ともかくジグザクに走る事だった。
「この死体をギルドに持って行ったら喜ばれるかな?」
ギルドは正体不明なブットビの情報を求めていた。それが真実だと判明したらギルドからお金がもらえることになっている。
「でも中に魔石のない死体は怪しまれるよな」
死体から抜きましたって言っても、その魔石も提出してくれって頼まれてももうボックスに入れたから取り出せないし。だったら黙っていようかな。
「次に出会えたら魔石は取らない方向でってことで、偶然壁に刺さったのを見たんですとか伝えるか?」
ギルドには世話になっている。ハンターギルドがあって依頼が集まるから冒険者もやっていけるわけで、だからモンスターの情報を渡せるなら渡したい。それに
「ブットビの噂ってけっこう奥に行った時の話だよな。深いとは思っていたけど最深部まで落ちたんだな」
最深部に向かう冒険者は一週間とか二週間くらい戻ってこない。だいたい最深部に行けるのは実力のある有名な人達ばかりなので、それくらいの期間で姿を見なかったらダンジョンの奥に行ったのかなって話になっている。
「徒歩で戻るのは時間がかかりそうだな」
今回手に入れたブットビも浮遊能力があるけど回転していたから荷物を持って移動するには向かない。そもそもどこに持たせよう。首からぶら下げる?
というわけでニードルウルフになって移動かな?
いったんモンコモからゴーストに戻って、ブットビに攻撃され透明になった時に落ちた荷物を回収して背負ってからニードルウルフに変身。
「スケルトンはまだ使えないか」
体力をゼロにされたスケルトンはまだ回復の途中。今七割という所だ。
「一撃でやられたもんな」
スケルトンの能力を見る。素早さが一番高く十二。次に高い力が十、あとの数値は一桁だ。
ほかの三体は一番低い数値で一桁、あとは二桁といった感じだ。これは今の数字でなくスケルトンと同じ星なしの状態での話だ。モンコモとウルフに関しては少し前に見た記憶だけどそんな感じだったはずだ。間違っていたらごめん。
この数字が実際の戦闘にどれくらい影響を及ぼすのかよくわからないけど、他のモンスターに比べて弱いという事はわかる。
「何か使える能力ないのか?」
スケルトンの星は結構溜まっていて、もう少しで一つ星モンスターになれそうだ。ブットビにトドメを刺してニードルウルフは二つ星になったし、スケルトンも移動だけでなく戦闘でも活躍できれば経験値が多く手に入るはず。
「装備強化か」
スケルトンは装備強化という能力を持っていた。これは装備した武器や防具の性能を少しだけ上げるというもの。
「武器を持たせれば強くなれるかな?」
スケルトンに装備強化以外の能力は無い。何もしなければこのままだし、それならば試してみるか。
「一回戻りますか」
ニードルウルフ全力疾走。向かうは僕の死んだ場所。そこに置いてきた自分の武器防具だ。
あと欲しいのは土以外の魔法だな。ブットビの使っていたのは光魔法の【
「ニードルウルフでも雷光一閃使えるかな?」
土魔法は何に変身しても使えたがそれが人間だった僕の魔法属性が土だったからなのか、魔法はどれでも共有なのか試した事なかった。
ゴーストの【催眠術】やモンコモの【超音波】も呪術属性の魔法だけどこれは相手がいないと使えないので戦闘中はついつい試すのを忘れていた。
「【雷光一閃】」
魔力を込めて言葉を発する。しかし何も起きなかった。
「二つ星になって強くなったと思うけど魔法の能力が足りなかったか?」
魔法の能力値はブットビより少し下だ。それで魔法が発動しなかった可能性もある。
「【魂の同調:モンコモ】」
いったん止まってモンコモでも試してみることにした。
「【雷光一閃】」
反応なし。土以外の魔法はダメそうだ。
いったんゴーストに戻ってモンコモになった時に落とした荷物を背負いなおす。
「【魂の同調:ニードルウルフ】」
二つ星になってだいぶ早く走れるようになった。この姿で移動したら効率がいい。
「お、この匂いは」
向かう先からモンコモの臭いがする。見つけた、走りながら壁にジャンプ、そのまま壁を蹴って天井に止まったモンコモをパク。
モグモグ、ゴックン。
食べながら魔石も回収。
「無駄だと思うけど使ってみるか?」
他のモンスターは女神様の力で変身しているが、本来の姿はゴーストだ。今だって僕がゴーストであることは変わりないはずだ。だったら【催眠術】は使えるんじゃないか?
そんな仮定から、同じ呪術属性のこの魔法は使えるか試したいので使ってみる。
「【超音波】」
天井に止まるモンコモ達が気絶してポトポト落ちた。
それをパクパクしてモグモグしながら魔石を回収。呪術もどの姿でも使えるようだ。ただしモンコモの姿だと【超音波】を無言で使っていたが、魔法名を唱える必要はあるけど。
クンクン――
食事を終える。向こうにまたモンコモの臭いがする。嗅覚も成長したおかげかモンスターが見つけやすい。
次は無言【催眠術】の実験だ。今もゴーストならば呪文を唱える必要は無いはず。
「お、いたいた」
さっきと同じように壁を蹴って奇襲で一匹パク。その後に【催眠術】発動。
ポタポタポタ――
目が合ったモンコモ達が落ちていく。
「これでスケルトンの戦う方法が一つ増えたね」
ニードルウルフので出来たのだからスケルトンでも出来るという事。これで選べる選択肢がまた一つ。
残ったモンコモを爪で切り裂き全滅させる。
「あと少しで五つ星だ。最初に百体近く出会えたのは運がよかったな」
モンコモの経験値がほぼ一杯だ。見た目もう溜まっているんじゃないの? と思えるけどレベルアップしていないので本当にあと少しなはずだ。
また走り出す。縦穴に到着したので跳躍、壁を蹴て一つ下の階へ、そこから同じことを繰り返し一番下へ。
血の匂いが近づいてくる。
あった、僕の剣と防具。
スケルトンの体力も全快して変身可能だ。
「【魂の同調:スケルトン】」
変身して武器と防具を取り付けた。防具は鉄で出来た釣りで着ているベストみたいな袖のない形のものと膝と肘のサポートをする鉄板のみ。腰に剣を下げる。
何か変わったかな?
ボックスを開いて確認。
スケルトンの力と防御力、魔法が変化して二桁になっている。
「なんだこれ?」
スケルトンの画面に装備の項目が追加されていた。装備を注視していたら画面が変わった。今付けている装備とそれによる伸びる能力が確認出来るようだ。防具では守備が、剣が力と魔法に影響を及ぼしていた。
これは精神体対策に剣に魔法をまとえる機能がついているおかげだろうか?
画面の下に「変身後この装備になりますがよろしいですか?」という文字と「はい」「いいえ」の文字。
前の画面に戻るには「はい」か「いいえ」を選べばいいようだ。
装備したいものも着て、それを「はい」で設定すれば変身後に毎回その姿で現れるようになる。そして変身を解くと装備の破損や汚れは綺麗になるらしい。ただし消耗品は使ったら戻らないから注意。
魂の同調の効果なので考えれば知識が出てくる。ただし、そんな能力があるなんて知らなければ知識を呼び出そうと思わないので今まで知らなかった。
「なるほどね。ん? という事はだよ」
いったん装備を脱いで、運んでいた服を着てポーチも付けてから剣と防具を付ける。
「ついでにこれ直せるかな?」
壊れたポーションのガラス。破損が治るのならこのガラスが試験管の形に戻るはずだ。
ポーチのベルトにあるポーションをセットできる場所に割れたガラスを入れていく。
スケルトンの指だからガラスで傷つく心配もない。大きいのだけ入れて細かい欠片は無視しよう。
血だまりに落ちていたのでガラスに血がついていたりするけど、これもきれいになるか試すのに使える。気にせずそのまま回収。
ボックスを開いて確認。服を着たことで防御力が一上がった。装備欄に服やポーチが増えている。それを確認して「はい」を押す。
「【解除】」
一度ゴーストの姿に戻る。服も装備もこの場に無い。これでスケルトンになれば装備して出てくるのだろうか?
「【魂の同調:スケルトン】」
思った通り装備している。服のほつれや汚れもきれいに直っている。そして試験管も元通りだ。
「え?」
ただしその中に赤い液体。
「直したときについてた血を中身として認識したのかな?」
確認だけして試験管を戻す。
「ま、いいか。モンコモの吸血で使えるかもしれないし」
魔力切れをすぐに直したい時に飲めばいいかな。そんな時のために持っておくか。
「スケルトンにも利用法あったのか。もっと早くこの能力に気づいていれば、荷物気にせず移動できたのに」
今回はスケルトンのおかげで気付けたけど、他のモンスターでも装備して設定すればその状態で変身できるようだ。ただし人と同じ形のスケルトンじゃないと服や防具はつけられなかっただろう。装備に気付けた事といい、服と防具を楽に運搬できるようになったことといいスケルトンに出会えたのはデカい。
何か出来ないかとその能力を確認してよかった。
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