第5話 スケルトン弱すぎ問題

 一匹の狼がダンジョンを進む。

 その狼こそニードルウルフに変身している僕だ。

 今はひと段落したので埋めてある荷物を掘り起こすために戻ってきた所だ。

【落とし穴】の魔法で盛ってある土をどける。


「これ、どうやって運ぼうか?」


 即席で服で作られた荷物をまとめた袋。

 この姿ではくわえる以外の方法で荷物を運べないな。

 それだと人間の姿を手に入れて服を着ても袖が牙でボロボロになっているかも。それは嫌だな……


「【魂の同調:スケルトン】」


 スケルトンに変身して首に袖を巻いて背負う。

 なんだか泥棒のイラストでよく見る風呂敷を背負う姿みたいだな。

 この状態で変身したらどうなるだろうか?


「【魂の同調:ニードルウルフ】」


 狼の状態になっても首に荷物を背負っていて荷物の位置は変わっていない。


「【魂の同調:モンコモ】」


 コウモリの姿に変わると荷物は地面に落ちた。

 体が小さすぎて輪がすり抜けてしまったのだ、仮にもし持てたとしてもうまく翼を動かせなくなっていたかもしれないからどちらにしてもこの姿では運べないか。


「【解除】」


 ゴーストに戻って荷物を背負いなおす。浮かべるのはコウモリかこの姿だけ。

 荷物を持って縦穴を浮かんでいくにはこの姿しかないようだ。だがこの姿だと経験値は入らないのがもったいない。

 スケルトンになった時に何も着ていなかった事から人間に近い姿を手に入れたら服は必要だ、だから服をここに置いていく選択肢はない。


「経験値稼ぎだと思えばいいか」


 目的はダンジョンの脱出と人間の姿を得る事。そのためには経験値を貯めて融合を使うか人型モンスターの魔石を手に入れる必要がある。

 荷物を持って外に出るためには経験値の入らないゴーストでショートカットかニードルウルフかスケルトンで地道に上を目指してダンジョン内を彷徨さまようしかない。

 外に出るまでには時間がかかるが人型モンスターを探す目的や経験値稼ぎを思うとダンジョン内を動き回るのは悪いことばかりではないはず。

 モンコモは四つ星モンスターとなりだいぶ強くなったから一人でもそれなりに戦えるはずだ。

 そんなわけで僕は地道に上を目指す道を選ぶことにした。


「【魂の同調:スケルトン】」


 せっかくならまだ星ゼロのスケルトンになる。歩いたり魔法を使うだけでも経験値は増えていくので戦闘に入るまではこの姿でもいいだろう。


「【足音】」


 魔法を使い、モンスターを探るが正直意味はない。魔法の適性が低いスケルトンでは手の届く範囲と同じ距離しか探索できていない。ただの経験値稼ぎだ。

 魔力がモンスターごとに別々でよかった。そうでなかったらもったいなくて使えない方法だ。

 そんなことを思いながらしばらく歩いていく。すると、

 ――ドシュッ

 突然僕の体が吹っ飛んだ。


「いった~。何が起きたんだ?」


 変身が解けて僕はゴーストの姿になっていた。状況がわからない、身の安全のためすぐに透明化。

 シュン――

 何かが空中を飛び回っているが正確にとらえられない。それなりの大きさがある。

 子供が乗って遊ぶ車のおもちゃみたいなのが回転している?


「変身が解けているってことはスケルトンの体力が一気に刈り取られたんだよな」


 相手の攻撃方法が魔法か物理かわからない。ゴーストの状態で殺されたら終わりだ。


「【魂の同調:ニードルウルフ】」


 一番強いのはモンコモだが敵の正体がわからないので様子見のニードルウルフだ。

 攻撃の気配――

 空中にジャンプ。僕の下を敵が通り過ぎる。


「甲羅?」


 ニードルウルフの動体視力だと飛んでいる何かがしっかりととらえることが出来た。それは亀の甲羅だった。

 周囲に雷をまとった亀の甲羅がコマのように回転しながら動き続けている。


「なんだあのモンスター?」


 雷を発して空飛ぶ甲羅のモンスターが出るなんて話を聞いた事がない。ギルドで確認できるこのダンジョンのモンスター情報にもそんなやつ居た記憶がない。

 僕が忘れているだけか?

 ともかく姿を確認しても相手の情報はなし。


「【ストーンスピア】」


 近くの岩を穂先に変え撃ち出す。電気には岩なんて相性が存在するわけじゃないけど、雷をまとった相手に体当たりをする気にもなれないので遠距離攻撃だ。

 しかしその攻撃は外れた。


「早すぎて当たらないか」


【ストーンスピア】を避けた甲羅はぞのままジグザグに動き横から体当たりをしてくる。


「【魂の同調:モンコモ】」


 体の小さなモンコモに変身、目の前を甲羅が通り過ぎた。ニードルウルフの時より動きがゆっくりに見えるぞ。さすがウチの最高戦力、四つ星モンスターだ。

 通り過ぎる甲羅に【超音波】をぶつけてみる。気絶してくれればいいのだけど――

 しばらく見ていたが甲羅はそのまま元気に動き回っている。近距離の【超音波】で三半規管をやられたなんて様子もなさそうだ。


「【ストーンスピア】」


 周囲の岩を変化させ十六本の槍を生成。魔力で一から生み出すよりその場にある岩を使った方が魔力の節約になる。そして節約した分で撃ち出す弾数を増やした。

 素早いけどその動きは直線的だ。攻撃して行先さえわかればその進行方向に攻撃をすれば当たるはず。

 まず一本で攻撃、相手が動きだしたら残りの十五本を向かわせる。


「よし、当たっ……え?」


 命中した槍が甲羅の回転に巻き込まれ弾き飛ばされてた。そして周囲の槍も連鎖的に吹っ飛ばされる。

 四方八方に散らばり壁や天井に刺さる槍。幸いこっちには飛んでこなかったけど、相手にもダメージはなさそうだ。

 向こうが攻撃してきたタイミングで効いてくれと願いながら【超音波】を使う。

 これもダメだったらどうしよう……。

【ストーンスピア】は当たらないか、当たっても弾かれる。動き回る相手に吸血も難しいというか不可能。ニードルウルフの爪や牙も同じだ。目では追えていても、止まってくれないと物理を当てるのは大変だ。当てたとしても槍みたいに弾き飛ばされてこっちだけダメージを受けて終わるかもしれない。


「なんで僕の魔法適正は火とかじゃなかったんだ」


 槍の形にしているだけで、今やっているのは結局岩を投げてぶつけているだけ。これが火だったら当てた後に相手を燃やし続けることが出来る。もしかしたらそれなら倒せたかもしれない。

 ちなみに魔法の適性は、あとは回復や強化のと弱体化や幻覚、睡眠なんかの、それと特に属性のない誰でも使える魔法か特定の個人や一族しか使えない特殊な魔法など特に属性としてカテゴリー出来ない魔法を集めたの九つだ。

 どの属性だったらこの甲羅に対応できるだろうか?

 なんて現実逃避をしながら接近してきた甲羅に三度目の【超音波】――動きを見るに効果はなさそうだ。


「有効的な攻撃方法がない、どうすればいいんだ」


 相手の攻撃は避けられているし、あきらめてこのまま逃げてしまうか?

 それで新しい力を手に入れてから再戦のした方がいい気がするな。


「あたっ」


 考え事をしてたら相手の攻撃を食らってしまった。吹っ飛ばされるが翼を動かし空中で停止。壁にはぶつからなかった。少し体が痺れた気がするが数秒で元通り。そんなに痛くないし変身も解けていない。


「スケルトンが一発だったから食らったらまずいと思ったけど、意外と耐えられそうか?」


 現状の問題点は攻撃しても当たらなかったり吹っ飛ばされてしまう事。そのどちらも甲羅が高速回転しながら移動しているから。だったらその動きを止められたら、なんかいい方法が見つかるかもしれない。

 攻撃されても耐えられるならそのまま張り付いて回転を止めてみようか。

 止めるとなると空中では踏ん張りがきかないので飛ぶのをやめて地上に降りる。

 足止めという意味で使えそうな魔法が一つ思い浮かんだ。そういえばこの魔法は四つ星になってから試した事なかったな。

 甲羅の動きがこちらに向く。また攻撃してくるつもりのようだ。


「【土壁】」


 壁を作る機会がなかったので使ってなかった魔法。

 敵を攻撃するという目的では使えないので選択肢にも上がらなかったこの魔法だけど。

 土を寄せて盛り上げるのでは間に合わない。ゼロから魔力で壁を生み出す。出来るだけ頑丈に、そして甲羅の進行方向を最優先で。空中に生み出されるレンガ造りの壁。壁か?

 レンガ壁に甲羅が当たる。

 壁は完成していないが他を作るのを止めて浮かんでいる一部、それも甲羅を防いでいる場所にだけ魔力を集中させる。

 壁は弾き飛ばされることもなく甲羅を受け止め続けている。


「これはもう壁って言うより浮かぶ盾だな」


 そんなことを思っていると新たな魔法を手に入れた。


「【ビックシールド】」


 人一人隠せそうな大きさの鉄の盾が出現。


「もういっこ、【ビックシールド】」


 左右から甲羅を挟み込む。壁のせいでここからじゃ何が起こっているか見えない。

 飛んで状況が見えるところまで移動。

 甲羅はまだ回転を続けている。削られているのか鉄の盾が火花を散らしていた。

 盾と壁に魔力を込め続け、削られた部分を修復し続けていく。


「あ~喉が渇く、血がホしイ」


 魔力がどんどん失われていく。それに合わせて血が欲しいという感覚に意識が奪われていく。

 人間だと魔力が少なくなると頭痛や手足の痺れがあり、最終的に気絶する。

 ニードルウルフも似たような感じで眠気が来る。

 そしてモンコモの場合はコレ。

 このままではダメだ、戦いに集中できない。

 フラフラと甲羅の背後に移動して着地する。ここなら魔法が消えてもすぐに甲羅が飛んでこない安全な位置だ。


「【魂の同調:ニードルウルフ】」


 姿を変えたことで血への渇望かつぼうは完全に消えた。

 魔力がそれぞれで別扱いなのはやっぱりいいなと改めて感じられる。

 甲羅の回転は弱まっている。

 まぶたが重い――盾やレンガの修復はニードルウルフの魔力量ではすぐに尽きてダメみたいなので魔力を込めるのをやめた。

 魔力を消費しなくてもすでに発動した壁と盾の操作は可能だ。

 あとは壁と盾が壊れるのが先か、甲羅が止まるのが先か。

 壁や盾のヒビがどんどん大きくなっていく。甲羅から足を出す穴が確認できるほど回転が遅くなっている。今ならいけるか?


「くらえ」


 タイミングを見て飛び上がり頭のある穴にむけて爪を振る。穴の中に二つの目が見えた。

 攻撃の瞬間に甲羅の纏っていた雷が僕の前足へと伝わり痛みが走る。


「ギュエェ~」


 着地したら痛みが走った。攻撃した右前足から焦げた臭いと煙が上がっている。痛みで眠気が覚めた。すごく痛いけど、叫んだのは僕ではない。

 甲羅が地面に落ちる。片目から血を流す亀の頭が出てきた。

 ここで逃したら勝機は無いかもしれない。

 壊れかけの二つの盾で亀を押さえつけ、足の痛みを無視して飛びつき、出てきた首にみついた。

 肉を嚙みちぎる。ゴックン――


「ギュエェ~」


 亀の全身から雷が発せられ浮かぼうとしている。また回転して攻撃しようとしているのだろう。

 押さえつける盾がガタガタと音を立て震えている。だがその震えや雷はすぐに止まった。

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