第三章 乙女は海で大きく舞う

伝承4

「かつて、アケイオス半島には無数の国があった。各国の王は己の名誉のために争い、多くの血を流した」


 アケイオス半島の最初期の歴史だ。少し後の時代については、このような記録がある。


「半島内のある王族が多島海を渡りグラエキア王国を建てると、半島内には統一の機運が高まった。同王国が西進し、自国を脅かすのではないかと危ぶんだのだ」


 だが、この時の統一の詳細は完璧な形でなされなかったらしい。


「半島北部の国々は十二の連邦に区分され、それが現在のアケイオス連邦となった。しかし、半島南部のラコニキアは尚武の精神や孤高の精神とやらを理由に、我が連邦に加わろうとはしなかった」


 その後、半島南北で大きな争いが起こった。


「我らがアケイオス連邦は『民主政』を掲げ、『王政』を堅持するラコニキアへと陸海両面から攻め入った。ラコニキアは半島のみならず世界最強の陸軍国であったが、我が陸軍はこれに辛勝を収め、海軍を有さないラコニキアに勝利する寸前だった。しかし」


 最後はこう締めくくられている。


「ラコニキアの王は『海賊女王の国イラクリス』の手を借り、僅かな数の小船で我が世界最強の海軍を散々に打ちのめしたのだ。旗艦に掲げられていた『黒地にムカデの刺繍ししゅうがされた帆』は我らの恐怖を煽った。彼らを使役することを選んだラコニキアの王は人にあらず! 決して和解の道はないであろう」


――『アケイオス年代記』 一巻と最終巻より抜粋

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