舞い込む幸運
「大変です!」
騒がしい議会に触れ役が姿を見せた。予期せぬ訪問者に驚く議員たち。だが、すぐにその場を適切な――エリートの集まる会場に変えると、
「緊急の報告かね?」
とコーネリアス執政官が彼に尋ねた。息を切らせつつ、触れ役が告げる。
「レス島で争いが起こったようで……。避難民が港に到着し、保護を求めております」
コーネリアスは「上手く利用しよう」と企み、
「それは執政官たる私が対処せねば。案内を頼む。困った者をほおっておくことは出来ない」
と触れ役に先導を命じた。コーネリアスの素早い行動に、パウルス以外の者はついていけなかった。いや、いきたくなかったのだ。無理もない。
穢れた海の民とは、出来る限り近づきたくなかったのだから。
グラエキア共和国は海に面しているが、基本的には陸地に住まう人々で構成されている。同国の書物に記載されているように、海の民と交流など持ちたくなかった。もちろん、コーネリアスも同じ心持ちのはず。
(どうして、奴は海への進出に
コーネリアスを追いながら、パウルスは思案する。海を嫌う我々がなぜ海洋進出に
祖国の繁栄か。人々からのさらなる支持か。それとも、後世の歴史に名を刻みたいのか。パウルスの見立てはこうだった。そして、全て当たっていた。それを叶えるための品を、コーネリアスは求めていたのだ。
ルビーの指輪。現在セレネの手元にあるそれは、本来コーネリアスの手に渡るはずの物だった。
◇
「指輪を嵌めたものには太陽神ヘルメイアスの加護が与えられん」
共和国の神話にある一節だ。これをコーネリアスは、
「太陽神の力を宿すことが出来る」
と解釈した。自説の補強を図るため、彼は都の太陽神に仕える巫女のもとを訪ね、事前に伺いを立てた。
「指輪は存在するのか。また、それを
神託はこうだった。
「場所は分からぬが存在はする。そして、それを嵌めるものは王となれるだろう」
コーネリアスは神託を信じた。そして大いなる野望のために指輪を求めた。
自身がグラエキアの王として君臨するために。
そして、かつて存在した王政の復活を成し遂げるために。
さらに一つ。これが最も叶えたいことだった。
己の高貴な血筋に穢れをもたらした海賊王国を、地上から抹殺するために。
コーネリアスは追放された王族の血を引いており、祖先は追放こそ免れたものの財産没収と貴族身分の
(これを利用しない手はない!)
執政官就任の矢先に幸先の良い知らせ。コーネリアスはまるで、「自分の野望を遂げるために、ヘルメイアス様がお膳立てをなさった」と受け取ったようだ。
「ああ、何と
コーネリアスは避難民を抱き寄せて
「レス島に軍を派遣して、彼らに報いを受けさせねばならない!」
と声高に宣言。これを見ていた市民の激情をかき立てることに成功した。
(避難民を利用するとは!)
◇
こうして舞台は整えられた。
西側に住む連中を支配下に置くことで自身の権威を底上げし、指輪を嵌めて王となる。
コーネリアスの目的を達成するために決議された海軍派遣は、難なく元老院を通過した。
彼に付き合わされる形のパウルスにとっては災難でしかなかった。執政官の職務には、軍団の総指揮権もあったのだから。
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