序章
プロローグ1
暗い夜に明るく
「綺麗だ」
一人の少女が『ムカデ』の背で揺すられながら、空を見つめている。スカート状のチュニックからは白い美しい足が伸び、さらにブロンドの長髪が彼女に艶やかさを加えている。
「姉御! 本当に通るんすか?」
少女を姉御と呼ぶ男が、伝えられていた『獲物』の情報に疑問を呈した。彼は少女の上から――柱に備え付けられた籠から海上を観察している。
「安心しな。信頼できる情報筋から言われたんだから」
「そっすか」
「ささ、あんたは目を光らせる」
少女は強引に問答を終わらせ、男に監視を指示する。
男はぶつくさ言いながらも命ぜられた通りにした。
「はぁ、月は本当に綺麗だ」
少女の目に映るのは欠けるところのない満月。
彼女にとって、月は特別な意味合いを持つものだった。
(いいな。何にも囚われずに光ってるなんて。あたしにゃ無理だ)
心中で愚痴りつつ、少女は『ムカデ』の背に設えた寝具を揺さぶらせる。
ハンモックから片足をだらんと垂らしつつ、彼女はその時を待った。
◇
男共が『ムカデ』の腹で暇つぶし――
「綺麗だな」
「あん? 新入り。おめえに月の美しさが分かるのかよ」
口の悪い一人の男が、若い男に声をかけた。無理もなかった。『ムカデ』の腹に集まる連中には不釣り合いな感想だったのだから。
無精ひげに
「あ、いや。違うんです」
「はあ?」
「あれですよ。あれ」
若い男は下品な笑みを浮かべつつ、ハンモックから出ている少女の足を指差した。
「兄貴もそう思いません?」
「ああ、そうだな。最初だけな」
含みのある言い方。若い男が尋ねる。
「どういう意味ですか?」
「姉御の中身を知ったら分かる。まあ、まずは――」
若い男に、年上の男は真剣な顔で注意した。
「死ぬなよ」
と同時に、柱で見張りをしていた男から旗で合図が出された。すると少女はハンモックから体を起こし、
「さあ、一仕事だ! 仲間にも通達しろ。『獲物が来たぞ』ってな」
上機嫌で少女は男どもに指示を出していく。その際に『ムカデ』の腹で待機中の男どもに、
「
と命令。そういってから彼女は忙しく動き回った。
「まあ、確かに綺麗だったな」
「でしょ?」
先ほどから会話をしていた男二人は目に焼き付けておいた。少女が見せた長い足と、その奥に見えた下着を。
「おい、お前ら! 何ぼぉっとしてやがる。さっさと持ち場につけ」
「「は、はい!」」
「まったくもう、鼻の下伸ばしやがって。何考えてんだ」
少女はすたすたとその場をあとにした。若い男はがくがくと震えている。
「な、言った通りだったろ」
若い男は年上の男の言葉の意味が分かり、首を縦に振った。
◇
「準備は終わりました。姉御」
「よおし、みんな張り切れよ。今日の『獲物』は上物だ。逃がすんじゃねえぞ!」
『ムカデ』の背と腹から返ってくる「おう!」という掛け声。それは少女の背後に控える六匹の仲間からも聞こえてくる。
「セレネ! 獲物はもうすぐっす」
「分かった。ありがとう」
籠から見張りを続けていた男が、少女セレネに伝達する。
そして、セレネは男どもに下知した。
「
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