第5話 口裂け女のメトロノーム
「立てばモンロー座ればクリスティ歩く姿はヘップバーン♪そうよそれが私の代名詞♡」
え〜と、ちなみに…
モンローとはマリリン・モンロー…
クリスティはシルビア・クリスティ…
ヘップバーンはオードリー・ヘップバーンである。
何気にチョイスする例えに年代を感じずにはいられないが、今はそれは棚の上に祀っておこうと思う。
何処からか照らされるスポットライトの中。
サ◯エさんの舞台になりそうな住宅街の電柱にその姿はあった…
そんなスポットライトを独り占めしながら恍惚とした表情を浮かべ悦に入る長身で黒髪のロングヘアーをなびかせるこの女性(汗)
「そして今日の衣装はメー◯ル風♡」
…いい加減彼女の自己紹介をしなければ、際限なく続きそうなこの小芝居…
仕方ない…
そこで一升瓶を握りしめながら、一人寂しく踊っているマスク姿のこの女性…
タイトル通り〜
名を《口裂け女》…
来月の誕生日で200+28歳になる。
独身、彼氏いない歴=年齢。
勿論処女である。
職業はフリーター。
主に夜勤専門でコンビニを掛け持ちしているらしい。
それとお酒が好きだけど癖が悪く酒乱で露出狂…
そういえばワイドショーも好きらしい…
趣味は深夜のストーカー行為&人を脅かす事…
まぁ〜色んな意味で危ない女性であるのは確かだ(汗)
今もロングコートの下は何も身に着けていない。
どうも自宅の玄関先で脱いだらしい。
でも毎度の事なのだが、酒が抜ければ羞恥心で部屋の角で震えるくせに…
全く学習能力が無い女性である。
そんな彼女…
今日はバイト中、酔っぱらったクレーマーの対応でストレスがMAXになっていた。
しかも嫌な事は忘れようと仕事が終って速攻で自宅へ帰り入浴したんだが、ふつふつとその時の怒りが蘇ってきたらしく、今に至るのであった。
「…ヒック♪あの《歩くセンシティブオヤジ》!何が《もっとオッπ大きくしてやろうか》だ!!こちとらこれでもFはあるんだ、ほっときやがれ(怒)」
※注)実際はDだったりする…
どうやらバイト中、お客からセクハラ発言を受けた様だ(笑)
まぁ〜この辺の深夜のコンビニなんて酔っぱらったエロオヤジやヤンキー関係の来店が多いのは仕方ない事である。
「あ〜〜あ…また島で暮らそうかしら〜」
ひとしきり愚痴をこぼした後、突然静かになり電信柱にもたれ掛かる様に座り込む彼女…
そしてゆっくりとマスクを外すと、その裂けた口元をさらけ出した。
「でもさ…こっちの暮らしも好きなんだよな〜」
確かにこちらには島には無い世界が広がっている。
人間を脅かしたりするいたずらも楽しい…
それに…
「指切りげんまんしたしね…」
口裂け女はそう呟きながら右手の小指を淋しそうに見つめた。
そしてあの日の事を思い出していたのである。
あの日…
それはもう20年以上前の話だった。
当時彼女が住むアパートの隣の部屋に引っ越してきた母子家庭の母と息子。
只、実はその息子…
実母とその父親との間にできた子供らしい。
要は近親相姦の末にできた子供なのである。
只、近親相姦と言っても本人が望んだ訳では無い。
実の父親に…
そして妊娠…
それが実の母親にバレ家庭崩壊。
当時高校三年だった母親は、両親の目を盗みキャッシュカードを手に入れて引き出せるだけ預金を引き出すと、両親から逃げる様に家を飛び出し一人で子供を産んだらしい。
そして居場所がバレそうになると、引っ越してを繰り返していたそうだ。
そんな事情を彼女が知ったのは、意外にもその息子からだった。
10歳になるその少年…
何でも何度か母親の両親が、各々居場所を探り当て金を返せと押しかけて来た時、罵り罵声を上げるその中で不意に自分の耳に入りその生い立ちを知ってしまったそうだ。
「お母さん何も悪い事してないんだよ…僕を産んだのだって《子供に罪はない》からって…だから一生懸命頑張って働いてるんだよ…でも僕…あまり無理はして欲しく無いんだ…」
転校ばかりで友達も出来ないその少年は、よく近くの公園のベンチや図書館で借りてきた本を読んでいた。
家にいると電気代がかかるからだそうだ。
口裂け女は、たまに見かけるその少年が何となく気になり、時々自分の部屋に招いては勉強を見てやったり話をしたりしていた。
それは普段の彼女の性格からして、信じられない事だった。
そんな中、最初は遠慮がちに接していたその少年も段々と打ち解けてきたらしく次第に仲良くなっていった。
そしてある日…
「あんた、私が怖くないのかい?」
普段マスク越しにしか接しない彼女が迂闊にも少年の目の前でマスクのゴムが切れ素顔をさらした時…
「なんで?口が大きいだけだもん…怖くないよ(笑)」
その少年の言葉に、気付かないうちに涙を流していた彼女…
「お姉さんず〜っと仲良くしてね、黙って居なくならないでね♪」
そう言って差し出す小指を見て口裂け女は指切りげんまんをしたのだった。
それから約一年後…
その母親と息子は殺された…
近親相姦した挙げ句、実の娘を妊娠させた事が職場にバレ、解雇されたのを逆恨みした父親にだ…
包丁で滅た刺し…
辺り一面血の海の中、母親は息子を抱きかかえる様に死んでいた。
そしてあの少年もまたその腕の中で死んでいた…
背中に包丁が刺さったまま…
その光景を最初に目撃したのはバイト帰りの口裂け女だった。
そして気がつけば…
彼女はその父親を頭から食い殺していた。
残っているのは食い残された右腕と両足の膝から下のみ…
その場に立ちすくんでいた口裂け女…
彼女は静かに親子の傍らに膝まつくと、愛し気に物言わぬ少年の頭をひとしきり撫でた後、その場に転がっていた携帯電話で警察に通報し終わると煙の様にその場で姿を消した。
行き先は黄泉姫が治める妖霊島の名もなき崖の上…
口裂け女は激しく打ち付ける波の音に紛れ、思いっきり泣いた。
口の回りにこびりつく血の跡を拭こうともせず、声が出なくなるまで大声で…
その後10年…
島から一歩も出ず死んだ様に暮らしていた彼女だが、黄泉姫や島の住人達お陰で徐々に回復していった。
そして再び島と向こうを行き来して暮らす様になった時…
『あの子の変わりにこの世界を感じ生きてみよう』
満天の夜空を見上げてそう誓ってのだった。
だけど…
その誓いから更に10年…
ちょ〜っと生き方の方向性が最近横道にそれかかっているように見えるが…
まぁ〜その辺は見なかった事にしておこう(汗)
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