駄菓子屋「なかむら」

 俺とレオは、昔作った〈秘密基地〉に向かった。あそこは誰にも見つからないように作ってあるし、レオも落ち着くだろう。

 さっきからレオはうんともすんとも言わない。俯いたまま俺に手を引かれて歩いている。

「おばさん、いい人だな。」

「……うん。」

「アイス、当たりだといいな。」

「…うん。」

 少しずつ相槌の間隔が短くなってきた。レオは俺に手を引かれずとも着いてくるようになった。

 

 バシュッ。

 透明な袋に入った棒付きアイスを開ける。爽やかなオレンジ味の匂いが鼻をついた。レオとお互い無言でアイスを食べる。

 秘密基地は、俺たちが小学生の時に作った。山の浅い所の林の中でロープを繋いでシートを掛け、テントみたいにしたり、小さい机を持ってきたりして、ちょっとした空間が出来ていた。

「……あ、当たり。」

 レオは食い切ったアイスの棒をこちらに見せてきた。そこには〈アタリ〉と書かれていた。

「よかったな。」

 俺はハズレだった。


「で、お前は峠に何言われたんだ。」

 本題に入ると、ずん、とレオの雰囲気が沈んだ。また唸り始めそうだ。

「……お前はどうしてそうなんだって言われた。」

 その時のことを思い出したのか、ぐうぅと、お腹を抱え始めた。

「それを言ってる時の峠先生の目が何かこう、すっごい嫌な感じだったんだよ。俺のこと、嫌いなんだろうなって。」

「……そうか。」

 俺は丸まったレオの背をゆっくり撫でる。レオは一生懸命に話した。レオは話すのが上手くない。分かりづらい所もあったけれど、うんうんと頷きながら聴く。

「俺、峠先生のこと、苦手だ。」

「そうだな。根本的に合わない所があるんだろうな。」

 全部話し終えた時には、レオは少し顔を上げていた。

月美ハル、俺どうしたらいいんだろう。」

 レオは俺にこの間と同じことを訊いてきた。

 俺は少し考えて言う。

「俺は、峠先生と無理に仲良くしようとしなくていいと思う。

ただ、こちらから何か行動を起こすべきじゃないとも思う。」

「どうしてだ?」

 レオが不思議そうに訊ねる。

「そしたらまた峠先生はお前の行動が気に食わないだろ。状況悪化待った無しだ。」


 今度こそレオは頭を抱えた。今こいつの頭の中ではこの状況を何とかしようと、考えが堂々巡りしていることだろう。

「この前言った、峠先生とお前が気付くべきこと、覚えてるか。」

「うん。」

「お前は気付いたか?」

「……正解かどうか分かんないけど。」

 視線を彷徨わせながら、しどろもどろ話す。


「峠先生にいくら嫌われてようと、俺は俺のこと嫌いじゃないし、月美ハルもいるし、どうって事ないな、と思った。」


 俺はうん、と頷いた。

「それでこそレオだ。」

 いつだって自由奔放で、天真爛漫で、好きな人間からの評価以外どうでもいい、弱い所も多々あるけれど基本的に無敵。それが星守レオだ。


「……そっか。そうだよね。」

 レオはすっくと立ち上がって言った。

「俺が落ち込む事なんて何も無いんだよね!」


 そしてぱあっと笑って手に持ったアイスの棒を空に掲げた。

月美ハル!当たりのアイス貰いに行こ!」

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