レオの家
星守家は、子供がいる家庭の多い住宅街の奥にある。築三十年の二階建ては広くもなく、狭くもない。
日当たりだって悪くなく、壁は白いのに何故か暗くて、灰色のイメージが強い。生まれてからずっと住んでいる、レオの家だ。
「……ただいま。」
玄関で取り敢えず言ってみたけれど、返事は無かった。
そうだよなぁ、と思う反面、少しだけ寂しい気持ちになる。父と母は仕事でいないからとか、用事で出掛けているからとかで返事出来ないのではない。二人とも家に居るけれど、レオの言葉に反応しないのだ。
靴を脱ぎ、リビングに入る。
十畳ほどの洋室の、四人掛けのテーブルに座った父は、レオにちらりと視線を向けて、すぐに新聞に戻した。この人は長年の会社出勤から在宅ワークに切り替わって、ずっと家に居るようになった。
キッチンで洗い物をしている母は、いつ見ても薄幸そうで、表情が無い。
二人がこういう態度なのは自分のせいだし、仕方のないことだと知っているから、レオは反抗したりしない。
一応帰ってきたことは報告できたので、二階の自分の部屋にせかせか帰った。
大きめのベッドにどかっと倒れ込んで、喉の奥から深呼吸する。
レオは最近、家に居ると息が浅くなることに気付いた。ベッドサイドの時計は六時だ。晩御飯まであと三十分程ある。
こんな雰囲気のレオの家だが、晩御飯は毎日家族全員で食べていた。
どれだけ酷い喧嘩の後だろうと、気まずかろうとも一緒に食卓を囲む。
この習慣が無ければ、家族はとっくに空中分解していたかもしれない。
でも最近では、その時間さえ憂鬱に感じるようになってしまった。
バッとベッドから立ち上がる。
「ハルの家に行こう。」
月美の家は工務店で、店主の祖父と、月美の母ちゃんの朱美ちゃんの三人で住んでいる。
二人とも今更、レオが突撃してきたところで困ったりしないが、一応メールを送っておいた。
幼馴染さまさまだ。
準備といっても財布とスマホくらいなのだが、レオはそれだけでワクワクした。
明日は平日だし、泊まるわけでもないから荷物はこの二つのみだったが。財布を入れたスカスカの大きな横掛けリュックは、修学旅行用に買ったものだ。
ピロンと鳴ったスマホを見ると、さっき送ったお伺いのメールに返信が来ていた。
〈母ちゃんが、晩飯ついでに泊まりに来なって〉
レオは月美の母ちゃんのこういう所が大好きだ。
急いで着替えやら歯ブラシやらを詰めたかばんに、明日までだと言う課題も押し込んだ。そのまま駆け走って、リビングには寄らずに玄関から外に出た。
「さっむいなぁ。」
春とはいえ、四月はまだ冷える。考えなしに着の身着のまま出てきてしまった。レオはこういう所が駄目なのだ。
さっきメッセージアプリで母に出かける旨を伝えた。返事はなかったけど、既読はついたから、もういいのだ。
街灯に蛾がばちばち体当たりしている。はぁ、と吐く息が白い。早く着かないかなぁ。
今日もきっと工務店「ツキヤ」はあったかい。
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