レオと月美

 X県立雪街高等学校。六百名を超える生徒が在籍する、自由な校風が看板の地元校だ。

 偏差値そこそこ、部活動は運動部のみ練習熱心で、校則も緩め。


 受験して入ったのは自分だけれど、レオはこの学校のことがあまり好きではなかった。


お昼休みは賑やかで、生徒のほとんどが教室か食堂で友達とご飯を食べる。


「ハルー。」


 同じクラスの荒井月美あらいつきはるに声を掛ける。野球児みたいな短髪。鋭い目つきに鼻筋が通っていて、雰囲気はまるで、昭和映画の伊達男だ。


「今日も焼きそばパンか?」

 ゴソゴソ黒い鞄の中から弁当箱を探しながら尋ねた。


 月美は毎日、美人な母ちゃんに弁当を作って貰っている。それがすごく美味しそうで、レオはおかずをちょっとつままさせてもらう。

朝のうちに購買で買っておいたパンを見せた。十七年生きてきて、レオは最近漸く焼きそばパンの美味しさに気付いたのだ。

 


 雪街高校の用務室は一階の、薄暗くて、少し肌寒い廊下の奥の奥にある。閑散とした通路は、ローファーの足音がよく響く。


 目的の用務室のドアは年季が入っていて、所々ペンキが剥げている。建て付けの悪いドアノブが甲高い音を立てた。全部で六畳ほどの小さな部屋。各々が持ち込んだ家具や装飾品なんかが溢れていた。

 レオはソファに、月美はパイプ椅子に腰を下ろした。


「昨日の心霊特番見たか?」

「見た。めっちゃヤバかった。俺は何で最後まで見てたのかな…。」

「バカだからじゃねぇか?」

確かにそうだが、明け透けに言い過ぎだ。


 購買で買った焼きそばパンの、濃いめのソースがてらてら光る。

もちっとした麺の味付けは濃い目で、パンは甘みがあって、どっしりしている。上に掛けられたマヨネーズが甘じょっぱい。夢中でがっついてしまう美味しさだ。


「がっついてんな。」


 月美はいつもレオより先に話を振る。レオは話好きだが、自分から話を振るのが苦手なことを分かっているのだ。行動が目立つからか、銀髪のせいか分からないけど、レオは友達が少ない。

それでも一人の親友がいるだけで、学校に来ようという気持ちになる。


「家、大丈夫か。」

「……大丈夫。」


 月美が眉を顰めて聞くのは、レオと両親があまり仲良くないのを知っているからだ。十年来の幼馴染は、親のことも勿論知っている。


「何か言われたら、すぐ家に来いよ。お前は悪くないんだから。」


 いつもレオの味方でいてくれて、事情も全部知っている上で言うのだ。

 レオはもう何年も月美の言葉のお陰で何とか生きている。言ったら大袈裟だと言われるだろうけど、本当にそう思っていた。


「ほんと、いつもありがとうね。」

「はいはい。」

 レオは変な奴だとよく言われるし、空気が読めなかったりするから、大勢とは仲良くなれない。月美はもっと自分のことを凄いんだと思っていいと思うのだ。



 

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