第2話 ぼくとジュリエと探索者ギルド

 妙な寒気を覚え、目を覚ました。


 毛布がモゾモゾと動き、ぼくに馬乗りになった態勢のジュリエが、にゅっと頭を出した。


「……なに、ジュリエ。寒いよ……」


 眠気にしょぼつく目を窓に向けると、うっすら霜が下りているのが見えた。


「……」


 ジュリエは応えない。ぼくを見下ろす切れ長の瞳は潤んでいて、目元が赤く染まっていた。


 コボルト族は多産多死。雄雌共に性欲が強く、繁殖力旺盛だそうだ。落ち着いて我慢できなくなったのだろうか。

 ぼくは動かないでいた。


「えっと……したいの……?」


「…………」


 ジュリエは喋れない。ぼくを見つめる瞳は目尻が下がっていて、酷く惨めな思いをしている事だけは理解できる。


「いいよ……」


 ジュリエとはいずれ『そういう』関係になろうと思っていたし、特に問題はない。ただ色々な事をすっ飛ばしているように思えて釈然としないだけだ。


「……」


 静かにぼくを見つめるジュリエの瞳が、黒く煌めいた。

 あんぐりと開いた口に、鋭く尖った犬歯が見える。


「あっ……」


 ぼくは――『魔物』を舐めていた。




 ――――いただきます。




 そんな声が聞こえたような気がして、ジュリエがぼくの首筋に噛み付いた。鋭い牙がぷつりと首に刺さる感触があって――死んだと思った。


 この朝、ぼくは食べられた


◇◇


 再び目を覚ますと、目尻を下げ、媚びたように鼻を鳴らすジュリエと目が合った。


「……おはよう。ジュリエ」


 身体を起こすと濃厚なジュリエの匂いがする。噛み付かれた首は、きっと怪我していると思ったけど、実際は甘噛み程度の力だったようで出血はない。


「……きみのしたことは、ぼくの世界だと犯罪だ」


 ……まぁ、気にしないけれど。


 宿を引き払った後は、先日と同じように教会前の広場で炊き出しの列に並んだ。


「ジュリエ、お腹が空いたかい? ここで朝食にして、その後は服を買いに行こう」


 その後は予定通り探索者ギルドで登録を済ませる。適当に昼食を済ませて後は装備品を買って宿に戻り、またジュリエに回復魔法を掛けなきゃいけない。


 そうつらつらと考えている間に、ジュリエは炊き出しの雑炊を平らげていたので、ぼくの分を差し出すと、それは申し訳なさそうに食べた。


「気にしなくていい。お腹は膨れた?」


 やっぱり目尻を下げ、申し訳なさそうな顔をするジュリエの髪を撫でていると、背後から声を掛けられた。


「おはよう。リトル・スノウ」


 声を掛けて来たのはパーシ。女騎士、ノエル・パーシだ。会うのは一日ぶりになる。


「ああ、おはよう。パーシ。何か用?」


「これはご挨拶だね。用がなきゃ、声を掛けちゃいけないの?」


「そんな事はないけど……」


 赤髪をかき上げるパーシは笑っていたけど、浮かべた笑みは何処か引きつって見えた。


「……私のアドバイス通り、ちゃんとコボルトを買ったんだね」


「まあね」


 コボルトのジュリエはぼくより小さくて、長い体毛がふさふさして犬っぽい。抱き寄せてモフモフしていると、パーシが目を細めた。


「ふーん……なるほど。いい犬っぷりだ。リトル・スノウは当たりを引いたね」


 ぼくはこの世界の人間じゃない。この時のパーシが、ぼくを馬鹿にしたのか、褒めたのか、それは分からなかった。見回り中の彼女は胸当てだけの軽装で兜は付けてない。腰には長剣をぶら下げている。マントの裾は風もないのに揺れていて――


「……?」


 パーシはぼくの視線を追って、気になるマントの裾を捲ってその部分を掴んで見せた。


「尻尾だ」


「今さら何を。私はワードッグさ。知っていただろう?」


 ふかふかで艶やかな毛並みをした尻尾を弄びながら、パーシは笑っていた。


「……ああ」


 くそっ、隠していたな? でもどうやって……彼女には添い寝してもらった事だってある。ぼくはそんな事にも気付かないような間抜けだってのか?

 ……違うね。『スキル』の存在を考慮すべきだろう。

 そして……ワードッグと人間の相性は『抜群に良い』と言ったパーシと『あまり良くない』と言ったミギー。どちらが本当の事をいっているのだろう。


「それで、スノウはこれからどうするんだい?」


「それだ。探索者ギルドに行きたい。案内してもらえると助かる」


「いいよ」


 ぼくは稀人だ。有益な能力がないと判断された今も保護対象なのは変わりない。ある程度の頼みは聞いてもらえる。パーシは笑っていて、でもジュリエの方は一切見ないのが気になった。


◇◇


 馬にぼくを乗せ、パーシはその手綱を引く。少し離れてジュリエ。


 道中露店が立ち並ぶ通りに差し掛かり、そこでジュリエの衣服を数枚購入して、バックパックに詰め込んだ。


「……服を与えるんだね」


「そうだけど、なに?」


「いや……」


 朝食を取ってないぼくはお腹が空き、露店で美味しそうな匂いがする焼き肉を購入した。

 何の肉かは分からない。焼いた大きな肉の塊を店先に吊り下げてあって、注文すると店主が目の前で肉を削ぎ落としてくれた。それをジュリエと二人で分けっこして食べる。


「私のぶんは?」


「売ってるよ?」


「……」


 それから、黄色い果実のジュースが売っていたので、それもジュリエと二人ぶん購入して飲んだ。


「……私のぶんは?」


「だから、売ってるよ」


 よく分からないけど、パーシは不機嫌になってしまった。


◇◇


 道すがら、ぼくはこれからの展望についてパーシに話した。


「探索者ギルドに登録して、ジュリエとダンジョンに潜ろうと思う。深い階層は無理だけど、浅い階層で採取の仕事をしながらポーションの作成なんかもやってみたい」


「……」


 ギルドが見えてきた頃になって、すっかり不貞腐れたパーシは在らぬ方向を向いて、ぼくとは話してくれなかった。


「ありがとう、パーシ。ここでいいや。じゃあね」


 面倒臭くなり、別れを告げるとパーシは目を剥いて仰天した。


「……えっ? そ、そんな……!」


「行くよ、ジュリエ」


 ぼくは探索者希望。男娼をやってる訳じゃない。パーシの機嫌はどうでもよかった。


 探索者ギルドは立派な石造りの建造物で、入り口のエントランスを抜けてすぐの場所に大きな木のカウンターがあり、受付と思われるお姉さんたちが忙しそうに探索者たちと話し合っていた。


「ジュリエ、字は書ける? ぼくは書けないんだ」


 代筆屋を呼ぶ事もできたけど、書類に記載する度に呼んでいたんじゃお金と時間の浪費だ。

 木のカウンターを挟んで、強面のおじさんの前にあった椅子に座り、ジュリエは膝の上に座らせる。


「探索者として登録したいんだ」


「……」


 おじさんはチラリと一瞥しただけで、余計なことは何も言わない。

 関係書類への記載はジュリエが済ませ、ぼくはFランクの探索者カードをもらい、ジュリエはぼくのテイムモンスターとして銀色の首輪をもらった。登録費用として、しめて金貨二枚。これを二十万円と換算すると痛い出費だ。


「採取の仕事を中心に請けたい」


 そう言うと、おじさんは親切に初心者用のバックパックを準備してくれた。


 中身は魔力を燃料にして灯りを放つランタンに、採取や剥ぎ取りに使えるナイフが2本。携帯食料が10食分。小さい結界石が3つ。包帯や傷薬などの簡易治療キット。煮炊きできる手鍋、その他諸々の雑貨が付いて、それが銀貨で三枚。初心者のぼくは、きっちり購入した。


 その後は、ダンジョンの場所とギルドで扱っている採取の依頼を確認する。


 傷薬やポーションの原料になる薬草はダンジョンの低層で採取できるけど、ダイアウルフやスライムなんかのモンスターも出る。ぼくが採取をしている間は、コボルトの元兵士長であるジュリエが護衛する……予定。


「……兵士長か。囲まれん限り問題ないだろう。自分からは仕掛けるなよ。後は……未踏区域や二層より下には行かん事だな」


 強面だけど親切な受付のおじさんが言って、それにはジュリエも深く頷いた。今のところ、計画に粗はないようだ。


 満足したぼくとジュリエがギルドを出たとき、太陽はすっかり真上に昇っていた。


◇◇


 ギルドから出たぼくらは、おじさんの勧める探索者御用達の武器防具を取り扱う万屋に足を向けた。


 ジュリエの喉に鈍い銀色の首輪が光る。テイムされたモンスターの証。彼女はぼくの財産で、無断で連れ去ったり、理由なく殺害したりすると法に照らされて処罰される。彼女の為にも必要なもの。


 道すがらあった食堂で昼食を済ませ、ぼくはこれからの事をジュリエに告げた。


「ジュリエには色々やってもらうけど、一番大事なのはぼくの護衛だ」


 だから、身体に不備があるとまずい。ぼくが気に掛けるのは当然だけど、ジュリエにも注意してほしかった。


 昨日、低級の治癒魔法を二度使用して、ジュリエはほぼ復調したように見える。歯や爪も治ったし、若干引き摺っていた足も問題ないように見える。


「戦える?」


「……」


 その問い掛けに、ジュリエは静かに頷いた。

 ――トウが立っている。

 ミギーの言葉だけど、ぼくにコボルトの年齢はよく分からない。顔立ちは人間に似ているけど、身体は毛むくじゃらで大きな犬のようにしか見えない。

 一晩過ぎて、ジュリエは大分落ち着いた。

 知性はそんなに低くないようで、食事を摂るときも木のスプーンを使っていた。ギルドでは受付の説明に考える素振りも見せていたから、これから先も問題ないように見える。


「きちんと働いてくれれば、衣食住は保証するし、あっちの方も不自由させない」


「…………」


 ジュリエは軽く頬を掻き、少し気まずそうに目を逸らした。


「きみとぼくじゃ種族自体が違うんだ。しょうがないよ。ぼくが嫌なら、別に男娼を買う為の給料も払う」


「……」


 ジュリエは静かに首を振った。ストレス解消の相手はぼくでもいいみたいだ。野生って大変。食欲と同じように性欲も抑えられないんだから。


 万屋では主にジュリエの装備を整えた。

 羽飾りの付いた兜。胸や腰は革の鎧。上下分かれたセパレートタイプもあったけど、ジュリエは一つになっているものを選んだ。脚部には硬い革のレギンス。小型のヒーターシールドに、靴底がしっかりしたブーツも買って。防具だけで金貨一枚。これでも安い方だって言うんだから、ぼくは頭を抱えそうになった。

 武器は短槍と小剣を一振り。弓も欲しそうにしていたけど今回は勘弁してもらう。それに剥ぎ取りナイフの大きい方を渡しておいた。


「……ジュリエ、カッコいい……」


 装備が整い、兵士として落ち着いた佇まいを見せるようになったジュリエに、ぼくは感心した。


 このまま出歩いても問題ない格好だったけど、そこにぼくは外套も買い与えた。これはギルドのおじさんのアドバイス。

 肝心のぼくは軽装を選択した。

 衣服の下に着込む鋼線で編み込んだ軽いチョッキ。それにジュリエと同じ外套を購入して武器はなし。


「結構散財した。明日からは、バリバリ稼ぐよ」


「……」


 うっそりと頷いて見せるジュリエは迫力が増した。心強い。その心強いジュリエを伴って、ぼくは万屋を後にした。


◇◇


 それからのぼくらは、町外れにあるダンジョン付近の宿を取り、部屋に入った。


 ダンジョン付近にあり、利用者に事欠かないせいか、昨夜取った部屋より少し狭いにも関わらず、一番安い部屋でも倍の値段。銅貨四枚。ベッドは一つ。食事は別料金。


 装備を解き、水石と赤石を使って入浴した後は味よりボリューム重視の食事を取った。


 適当に切った野菜や肉がゴロゴロ入ったシチューに、バサバサの大麦のパンが二つ。あまり美味しくなかったので、ぼくは半分以上残したけど、残りはジュリエが食べてくれた。


「ダンジョンか……」


 まさにファンタジー。その事に興奮は覚えないけれど。


 食事の後は少し寛いで、ジュリエに治癒魔法を使用したけど、痛めた喉はどうしようもなかった。完全に声帯が潰れているようだ。


 それから、ぼくは『付与術士』のフリをして、ジュリエの防具に耐性付与を行った。


 物理耐性付与の魔法。それに生産職である鍛冶士のスキルを用いて効果を永続的なものにする。


 一度失敗したけど、鎧に刻まれた魔力印を見て、ジュリエは驚いたように目を丸くしていた。


 ちなみに魔力を持った武器や防具は価値が増す。これだけで元の価格の二倍にはなるけど、安定しないぼくの力じゃ売り物にはならない。……なるのか?

 なんて事を考えていると、ジュリエが鼻を鳴らして腰にしがみついて来たので、ぼくはもう休んでしまう事にした。


 ……ジュリエは、人間のぼくに抵抗は感じないんだろうか。


 でもまあ、この関係は信頼を築く上で悪くない。持ちつ持たれつ。ジュリエの上目遣いにぼくを見つめる視線は、やっぱり目尻が下がっていて、少し申し訳なさそうに見える。


「気にしないでいいよ。所で、ジュリエって子供はいるの?」


 ふと思い付いて問うと、ジュリエは見る見るうちに落ち込み、項垂れた。

 ジュリエは石女(うまずめ)だ。どういう訳か身籠る事は出来なかったらしい。それを彼女の口から聞くのは暫く後の事だ。そしてコボルトという多産多死の種族では、そういうメスは、オスから忌避される。だからこそ、彼女は兵士としての道を選んだ。


「ああ、ごめん。つまらない事を言ったね」


 この時のぼくはそう言ってジュリエを引き寄せた。相変わらず獣臭い。毎日洗えば匂いはなくなるだろうか。

 食欲と性欲と。

 それらの欲求に従い、コボルトは産み増える。ちなみに人間の生存域でコボルトやゴブリンのオスとメスを交配させる事は固く禁止されている。多産で、あっという間に手が付けられなくなるからだ。

 一週間の保護期間中は、一般常識を主に叩き込まれた。日常生活でも見掛ける事が多いコボルトやゴブリンの生態は知っている。

 力を使って、少し疲れてしまった。

 ぼくが欠伸してベッドに転がると、ジュリエが馬乗りになってくる。


「……」


 人とは違う薄くて長い舌。ねっとりとした口付けは、何処かしら遠慮しているように感じた。


 ちなみに、コボルトのメスは娼館では一番安く買える種類の娼婦だ。体力があり、性欲旺盛で悪環境にも強い彼女たちの需要は高い。


 ――役に立たなければ、娼館に売り飛ばせばいい。


 漠然と、薄情に考える。信頼されても信頼するな。ぼくはそんなに強くない。油断して、それでも渡って行けるほどこの世界は甘くない。


「ふっ、ふっふっ……!」


 ジュリエの喘ぎを聞いている間は天井を見つめていた。


(毎日は、嫌だな……)


 喘ぐジュリエの口元に尖った犬歯が見え隠れしていた。


 ぼくは頭の後ろに手を組み、静かに目を閉じる。


 エッチの魔法はここでも健在で、身体を重ねる度にジュリエとの繋がりは増して行く。思い込みでなく、スキルが告げている。肌を重ねる事で親密度を増すのは、何も人間の男女に限った事じゃない。


(スキル、か。まるでゲームだ……)


 ――リトル・スノウはおかしいよ。


 険しい表情で言ったパーシを思い出した。


 ――普通は、もっと混乱するんだ。泣いたり喚いたり。でも、スノウは最初から冷静だったね。


 ぼくは鼻を鳴らした。


 やってることは、神さまとの喧嘩だ。現実でも異世界でも、それは変わらない。


 神さまとの喧嘩は続いている。


◇◇


 たっぷり一時間は楽しんだ後、ジュリエは眠くなったのか、大きな欠伸をした。


「満足してくれた?」


 微かに笑みを浮かべるジュリエは小さく頷き、柔らかい体毛を擦り付けるようにしてぼくに抱き着いて来る。


 寒くなって来ると、昨夜やったように魔法使いのフリをして暖炉に火を入れた。ジュリエは、やっぱり不思議そうに見ている。


 fake meter (偽計)の能力は使い勝手がいい。使えば使うほど手に馴染む感じがして、スキルの出来が良くなって行く。嘘から出た実なんて言葉もある。この力には、まだ奥があると思うべきだろう。


 ぼくが『生産職』のスキルも使えるって、パーシは知らない。教えなかったからだ。fake meter (偽計)に成長の余地がある事も知らない。教えなかったから。――ぼくは能力の大部分を秘密にしている。

 嘘つきだからしょうがないね。


「さて、ジュリエ。今夜は休んでしまおうか」


 明日はダンジョンだ。

 fake meter (偽計)の力を十全に使えれば、生活の基盤を築く事はそう難しいことじゃない。新しいアトラクションに臨むような気軽さがある。

 ダンジョンが楽しみだった。


◇◇


 ダンジョンの深層で入手できる秘宝の一つに『猿の手』というアイテムがある。

 使用効果は、願いが一つ叶う、というもの。たまに売買されて店に出るときもあるけど、お値段は金貨一千枚。日本円に換算すれば約一億円。今のぼくに手が出る代物じゃない。


 ダンジョンに潜るぼくが最終的に目指すお宝はそれだ。将来的には深層にチャレンジする事になる。


◇◇


 翌朝は少し肌寒い時間から活動を開始した。

 探索者御用達のこの宿屋では、朝っぱらから食事もボリューム満点。見ただけでお腹いっぱいになったぼくは、やっぱり半分ジュリエに押し付けた。


 ジュリエが満腹になった事を確認して宿を出た。足りなそうにしていれば教会の炊き出しに行くつもりだったけど、今朝はその必要はなさそうだ。一路、探索者ギルドに向かう。

 ギルドは24時間営業。深夜でも探索者相手に取引している。道中、早くから開いていた露店で玉子をパンに挟んだサンドイッチのような代物を見掛けたのでそれを三つ購入した。

 朝食は軽いものに限る。

 ぼくは行儀悪く食べ歩き、ジュリエは紙で包んでバックパックに入れていた。


 早朝ということもあり、人影疎らなギルドで、ぼくは昨日と同じ強面のおじさんが受付しているカウンターに向かった。


「おじさん、おはよう。採取のお仕事で良さそうなのある?」


 ぼくが玉子サンドイッチを差し出すと、おじさんは少し笑って相好を崩した。


「どの程度やるか分からんからな、一つ取ってある。先ずはそれをやってみろ」


 ぼくが初めて受けた依頼は、ポーションの原料となるスライム核を五つと様々な薬品に使われる赤色キノコ十本の納品。達成報酬は銀貨二枚。それ以上は歩合で買い取りもしてくれる。


「ありがとう」


 受け取った依頼書に、さらりと筆記体でサインした。


 ――Little Snow――


 依頼書にサインされた文字を見て、おじさんが片方の眉を釣り上げた。


「おいおい、希少文字か……?」


「知らないね」


 素っ気なくそう返すぼくはリトル・スノウ。


 明日をも知れない探索者だ。

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