ヌルゲーか?
そうと決まれば話は早い。早速引きこもり、図案をいくつも出し、馴染の商人さんのところで糸を頂き編み始めた。ほとんどこれだけ、これだけに特化したのよ!普通では1ヶ月、図案に凝るなら2,3ヶ月もありうる。
が、それは普通の人の話。私はこれで食っているといっても過言ではないわ。薬草拾いすらもたまのリフレッシュの散歩でしかない、これだけをやり続けることを家族から許されているの!3歳からやってるのよ?これで利益を上げて編み物専担ったのが5歳よ、北方の女神らしいわよ。私が5歳でどれだけのマフラーや帽子を北方に流行らせたと思っているの?まぁ、北方で実際に見たわけじゃないけど。
大量のマフラー、大量のセーター!大量の帽子!大量の手袋!図案を編むところ手前までは家族に任せることもあるのよ?できるなら図案部分の編みもも任せることもあるけどね。
今の私は1週間、1週間でセーターを編める。勉強?仕事?これが仕事だ!勉強は前世のアドバンテージだ!悔しかったら異世界転生しなさい!
そうして私は1ヶ月かけてセーターを編んだ。いや、そんないい図案あっさり浮かばないわよ。違う作品作ってたわよ。
それがこのセーター、図案も意匠ももう細かいこと、細かいこと……セーターにしたのがもったいないくらい。いやセーターしか作れないんだけども……まぁよし!あとはこれを第2王子に献上するだけね。
いや……なんかあの顔の人間がこのセーターを着てると……下品ね。なんか成金みたい、金の使い方わからない成金。これ来てたら逆に評判下がるんじゃない?これ着こなせる人間そうはいないわね。
…………作り直すか!シンプル、これはもうシンプルにあの顔を引き立たせる。意匠を減らして、図案は簡略化を増やす。家紋だけ真面目に細かく……ここだけ毛糸を着色できないかしら?出来なくはないはず……めんどくさいことこの上ないし失敗すれば廃棄だけど……やってみるか!この簡略化なら1週間と少しでいけるわね。着色は職人のつてを借りましょう!完成品の毛糸の染色って難しいわよね、できるのかしら。
と、言う事で作ってもらい完成したのがこれ。出来た後に一部を染色とかウール舐めんな殺すぞという職人に対し出来ねぇなら出来ねぇって言えヘボ職人と言葉の応酬を交わし続け3着をダメにしたところで別のやつで試しながらやればいいだろう、最初から染色してない糸でやればいいんじゃないかと馴染の商人に言われ切り替えた。
「見る人が見ればこれがどのような一品かわかりますね、それにしても素晴らしい……派手ではなく、地味でもなく、それでいて見た瞬間にこれはすごいものだとわかります。見える芸術のようですね……これ本当に献上するんですか?もったいない気もしてきますね……私がこれを着たいですねぇ正直……」
「作りますか?結構時間がかかったんで多分今年の生産量減りますけど」
「それは恨まれますねぇ……とある家の御用商人をやってますけど普通に組合から詰められますねぇ……これを着ていったら失脚しそうですねぇ……」
「セーターで失脚するなら名も上がるかもしれませんね」
「違いないですね、じゃあ失脚のおそれがないのに王太子になれてない男に献上してきます」
と、辛辣な評価を聞いて解散し家に戻ると、そう時間も立たずに馬車が来た。緊急事態かなと思うと丁重に乗せられて馴染の商人の商館に連れて行かれた。
「これは貴様が作ったものか!?」
「はい、第2王子殿下」
「ほう?わかるか……」
「もちろんでございます、第2王子殿下。第2王子殿下に合わせて作ったものです、今年の冬用にどうかと思いまして……殿下を際立たせるために意匠は最小にし着る人間を主役として作りました。」
「なるほどな、俺ほどの人間が着たら服が目立たねば裸のようなものだ」
何を言ってるんでしょう?高貴な方の比喩?冗談?流石にこの辺は前世のアドバンテージがないわね。
「……当初は違う服を作りましたが、第2王子が着るとどうも互いが主役のようで下品に感じるので諦めました」
「こちらですね……」
「おお!これはなんと素晴らしい……!!これが……毛糸でできているのか……」
「着るべき服が着せてやる感じが第2王子には合わないのでこちらは諦めました」
「これは別に売るそうです」
「……そうか」
これもよこせっていいそうになったけど諦めた感じね。それにしても本当に荒れてるのね……ゲームの爽やか覚悟決めた系イケメンとは大違いだし。平民にも優しい感じだったけど名前も聞いてこないし……これ元から?次期王太子夫妻がなくなったから?この次期って1作目だと描写されてないからわからないわね……?ファンディスクか何かで描かれたのかしら。
「お前、名前は?」
「ララです、来年は学院に通うことになっています」
「おお!私と同じだな!ララ!ヴィルヘルムと呼ぶことを許そう!」
え、もう?2年目のイベントだよそれ。チョロくない?
「ありがとうございます、ヴィルヘルム第2王子殿下」
「うむ、うむ、このセーターはどうやって思いついたのだ?この染め方、シンプルなのに高級感が見ればわかる出来……」
「ヴィルヘルム第2王子殿下に合うよう考えました。派手さよりも質実剛健さ、見るものが見ればわかる魅力を本人にもセーターにも、柔らかい雰囲気も第2王子に合わせましたわ」
「そこまで……そこまで……俺様のことを思って……」
泣き始めた!?何があったらこうなるのよ!?商人さんがめちゃくちゃ笑いをこらえてる!ゲームだとそんなかや等だったし……
「ヴィリーと呼んでくれ……ララ……」
「光栄ですわ‥…」
「友人同士の会話でいい、気楽に接してほしいララ」
「わかったわ」
なんでもヴィリーが泣きながら語るには辛いことが続いて全てが嫌になっていたそうだ。まぁ兄と婚約者亡くなってるしねぇ……ちょうどボロボロの頃に私が本来のヴィリーを見たからみたいなことね。あるある、よくあるわね。主人公差し置いて攻略キャラ奪ってくタイプのやつ。
まぁ、主人公は私なんだけどね、流石に計画外すぎるわ……。
ま、切り替えていくわ。これで王子ルートに入ったわね、ヴィリーが愛称呼びを許すのは確定だったはずよ。つまり、もう退けない。勝手に追い詰められてしまったわ。ヴィリーは帰っていったけど市井で遊ぶときには声を掛けるといってたし多分大丈夫よね?
めっちゃハイペースで来るわね。昼食時にほぼ誘いに来て一緒に食べて街ブラして帰るわ。なんか……すごいわね、生活が。
なんかどんどん性格も丸くなっていくのよね、前がハリネズミならトゲいっぱい抜けた脱毛症のトゲネズミくらいには丸いわ。
原作はハムスターくらいの触り心地のいい優しい人だけど。とりあえずこれで安泰ね、公爵令嬢と折り合いが悪いとこ絶対婚約破棄してやるって息巻いてるし……本人にも毅然と言ったとか……これ第2王子ルートで側室か妾になったら死ぬわね?ハーレムに舵を切るしかないか……毛糸の編み物でここまで来たんだけどな……セーターといえば私。まぁ名前は出してないけど北方組合の商人お抱えの職人扱いだし……王都でしばらく活動したけど本当に北方組合所属以外にはバレてないみたいね。やっぱ商人の力はすごいわね。
さ、学園では頑張るわよ!卒業後に死ぬか、ろくでもない男に切り替えるか、ハーレムで自らの身を守るか!
「と、言うわけでバカ王子は泣いていました。よほど王城で叱責されたことが堪えたようですね」
ララの馴染の商人は御用商人としてとある家に赴いていた。彼にとっては帰省でもあるのだが。
「本当にそのセーターを作った相手に泣きついてたんですの?」
「はい、困った表情でしたね……平民ですし」
「でしょうね……」
対応した令嬢は呆れたような、さもありなんと言ったような表情をしていつもより下がったテンションで応対した。するとそれを察した商人は持ってきたものを用意させておいたトルソーに着せた。
「その平民の職人が作ったのがこちらのセーターです」
「すっ……素晴らしいですわー!!!この意匠!構図!図案!細かさ!色使い!あえて染色の色を均一にせずここまで仕上げたんですのね?セーターとしては世界で1番美しいですわー!!専用のものを作っていただきたいですわー!どなたですの?」
「それはエリーゼ様にもいえませんねぇ……王子のセーターで時間がかかって今年の北方セーター生産量が減ってしまいましたから、貴族分が足りないんですよ……手袋などはもう出来てるようですが……」
「いい職人ですわねぇ……他人が欲しい言葉もかけることができるところに興味が湧きましたわ、職人なんですのよね?」
「駄目ですよ、お嬢様」
「まぁ、ウチの御用商人ですしね。供給がなんとかなれば深くは聞きませんわー!分家のベルク御用商人家の利益は本家のライヒベルク公爵家、ひいてはワタクシの利益ですわー!」
今年の冬はこのセーターを着ていきますわー自慢ですわーと喜ぶエリーゼを見ながらララだけは隠し通さないと北方組合から何されるかわからない……とエリーゼの大伯父であるベルク・ライヒベルク、別家の当主としてはベルク・ベルク伯爵と名乗る商人は戦々恐々としていた。
が、エリーゼに献上したといえば黙るだろうとも思い、ララ作成の優先仕入れ商品を一部放出することにした。北方権益は公爵家こそが握っている。なれ合いより高め合わなければ先はない。
我欲にのみ突き進めばこの
かつて北方の蛮族と戦い続け、バーゼル山脈を国境線に押し上げた父よりも、陰謀を使い蛮族ごと当家を葬ろうとした貴族を消し去り中央で復権した兄よりも、王太子にもなれないが王太子になるしかない第2王子の如き小物よりも、内務大臣として辣腕を振るって中央で戦う甥よりも、わずか1ヶ月で宮中勢力図を完全に塗り替えたエリーゼ・ライヒベルクという姪孫こそを皆が恐れている。
そしてベルクは彼女の蛮族を利用した建国の計画を知っていた。おそらく身内で一番蛮族の恐怖を知る男は一番蛮族のような彼女を恐れていたのだった。
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