王都到着

 それは突然の訃報であった。わたしたちは安全のため1日待機してからロンドニに向かうよう近衛騎士たちから言われて商人たちと食事をしていた時だった。


「王太子ご夫妻事故!容態不明!」

「王太子妃負傷!」

「第1王子殿下重症!」

「アーデルハイド令嬢ご無事!」

「双方ご無事!浮足立つべからず!」


 何が正しいのかわからず商人たちと食事を続けながらもそれぞれの商人は使いに耳打ちをしていた。連絡を取るか調査にでも出したのだろう。原作にあった記憶はまったくないのだけど?まぁ大事なかったんだろうなぁ、と思ったのもつかの間、数日後には王太子の儀の中止が伝わった。流石に商人たちも大慌てで去っていったりでまさに阿鼻叫喚だった。


「ララさん、おそらく第1王子殿下はご逝去なさりました。村へお送りします」

「う、嘘でしょう?」

「延期ではなく中止です。おそらく初期の混乱で間違えたのかもしれないと思ったのですが……次の早馬が来ても訂正がありません。おそらく第1王子婚約者のアーデルハイド様も……」


 流石に嘘だろう、原作では私の面倒を見てくれた王太子ご夫妻が?


「第2王子殿下は大変ですね……」

「本当に大変なのは第2王子殿下なのかそれとも……」


 商人のまぁまぁ危ない発言を聞いてそういえば第2王子って荒れてた時期あるんだっけ。まぁ学院に入れるかも怪しくなったし……セーター職人としてやっていくか……仕方ないわね。


 村に帰ると内務大臣と文部大臣の使者が来ていたらしく学院の入学案内と馬車を出す旨を連絡したらしい。内務大臣?公爵令嬢の父親だっけ?へー……関わってたんだ。文部大臣はわかるんだけど……ライバル令嬢のお父さんよね、ライバル……?

 まぁとにかく支度をしないとと思うと商人たちが来季は王都でと挨拶して去っていった。もちろんちゃんと丁寧に見送ったわよ?もうどうなるかわかんないんだしさ。

 まったくどうしちゃったものかしらね……異世界生活とはままならぬものねぇ……セーターで成り上がればよかったわ。それにしても早めに行く意味あるのかしら、到着は原作1年前よ?




 王都に付くと原作と同じような家に宿泊して卒業まで過ごすらしい。この頃には第1王子と婚約者死亡が公式発表。葬儀に子爵の処刑やらてんやわんやだったみたいね、私はそこまでわからないことが多かったけど。

 そういえば寮生活じゃないわね?男性版は寮生活になったみたいだけど、まぁ男性版は王太子と市井で合う必要まったくないしね、BLルートないでしょ。ないわよね?あればやっておけばよかったとは思うけど。まぁとりあえずヴィルヘルム王子がフラフラしてる市井にでも行けばいいでしょう。目立つ鎧がいればそこにいるわね。


 と思ったが何処にもいやしない。よく考えたら正式発表はされてないが兄夫婦、まだだったけど……死亡したわけだしね。そんな暇はないわね。原作で1年どうやって王都で潰してたのかしら?とりあえず毛糸買って冬に出荷するセーターでも作るか。それのほうがバイトより儲かるわ。デザインでもなんとかやれないかしら?次に来た商人にでも聞いてみましょうか。


 そう考え通りをブラブラしているとギャーギャー騒いでる男がいた。朝から酒?いやもう昼でもいいけど……どっちにしろこんな人前で騒いでるなんてたいていろくでもないやつに違いないわね。


「俺様を誰だと思っている!」

「存じておりますよ、お帰りください」

「この店を潰すことだってできるんだぞ!」

「どのような権利と権限で?」

「俺の権限と俺の命令でだ!」

「潰す根拠は?我々王都商業組合は王城に対して強く抗議いたします」


 そう商人っぽい人が言うと何処からかでてきた男たちが騒いでる男を押さえつけ何処かに連行していった、黒フードとか目立つでしょ。この時は取るに足らない事件でしかなかった、明日同じ人物に会うまでは。


 それは私が毛糸を追加で買い込んでいたときのこと。馴染の商人がたまたま王都にいたのでお茶を飲みながらセーターの試案を見せていた時だった。


「気にいった!これを私に献上せよ」


 何いってんだコイツ?と思ったら昨日の黒フードだった。王都の治安悪い?

 すると馴染の商人は吐き捨てるように


「おやおや、我々北方商人組合の最上クラスの賓客に向かって大層なものいいですな、おい!乞食だ、追い出せ」

「我々と同じ二階席のテラスにいたので乞食ではないのでは?」

「ああ、そうかも知れませんが乞食も入れるのですよ、店主さんにも言っておきます、出禁でしょうな。まったくここの店主が優しいからと言って……ララさん、お怪我はありませんか?いやこれは王都で護衛を付ける必要もありますかな……レズリー大臣に陳情せねば……」


 昨日と同じように騒ぎ始めるのだろうと思ったら黒フードの不審者は急に声色を変えて騒ぎ始めた。


「北方組合だと?貴様ら公爵家の手のものか!王家に仇なす一族はここで討つ!」


 そう叫んだ瞬間、昨日のよう男たちが取り押さえた。馴染の商人は吐き捨てるように貴様らの無能は覚えたぞ、無能近衛騎士共がといって追い出した。


「近衛騎士?」

「ああ、ええと……あれは第2王子でしてな」

「えっ!?」

「ああ、疑問はご尤も。第1王子がいれば大丈夫だったので見逃されてたのですがあれが次期王太子ですからね。我々も愛のムチですよ」

「近衛騎士はどうしてあのような?その……」

「見放したのでしょう、あっいや……此度の責任を取って入れ替わるので……まぁ色々変わるのでは?」

「もし次期王太子が私のセーターを着ることがあったらセーターの評判は上がりますかね」

「あがるでしょうね、あれで美術品を見る目はあるので……」


 まぁ本人の価値は上がらんでしょうがねとつぶやいた商人はこちらを伺うように聞いてきた。


「あれに献上いたしますか?人間性はともかく評判は得られますし」

「そうですね、ここで大作を作って冬といえば私のセーターと刷り込みましょう。冬前に作って……場合によってはデザインを担当して専業化するもよし……皆様のお力添えが必要ですね、セーターを必要とする人は多いので優先順位を作らないと」

「我々の売り先を優先していただけるなら北方組合に図りますよ?」

「もちろん、私も北方組合の皆様方も乞食ではありませんでしょう?もし乞食になってたら、もしもそうなりかけていたら優しく教えてくれるはずでしょう?」

「ええ、たしかに。では乞食にならないように頑張りますか。北方の意見を固めますね。では第2王子のセーター制作をよろしくお願いいたします。必要なものがあったら経費で落とすので自腹じゃなく直接こちらに強請ってください」

「あら、乞食みたいですわね」

「出来上がったものを見たら材料費しか出さない乞食と皆が私を言うでしょうな」


 一笑いした後でたいそう上機嫌になった馴染の商人は後日迎えを出しますといいずいぶんと高そうな編み棒・編み針をワタシてきた、そのうち専用で作るから待っててほしいとのことだ。やっぱこれゲームにかかわらなくてよかったかしら?

 まぁ、私がヒロイン枠で教育すればいいでしょ、1年で原作レベルになったのなら簡単簡単!王太子夫妻なんて仕事あったうえで教育してたんだから。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る