第10話
即座にジンがガウェインの前に立ち、三人の攻撃を受け止めた。
影の正体はラーデン諸国連邦では珍しいヒューマンの双子、それとエルフの子どもだった。
(多分こいつがメッセージを送ったエルフだな)
銀髪のエルフはまだ年若く、少女といってもいいくらい。
しかし、意思を失う前に特殊な訓練を受けていたからか、ナイフ
ただ、精霊魔法を使う気配は感じられない。
(ありがてぇ! 精霊魔法を使われるとめんどくさいからな)
残りのヒューマンの双子は男女。
男の方が
エルフの少女ほど洗練されてはいないものの、犠牲を前提とした攻撃には細心の注意を払う必要があった。
暗闇の奥で笑顔を浮かべている老人が、冷たい瞳でその攻防を観察している。
(気にくわねぇジジイだ)
ジンは嫌悪感が湧き出るのを止めることはできなかった。
「じゃあアタシたちも始めよっかー」
女がまるで友人に話しかけるように、不気味に近づいてくる。
「……もう少しお喋りしてくれてもいいんですよ?」
「そう言ってもらえると嬉しいけどー、話すならコレでいいかなー」
いつの間にか女の両手には出刃包丁のような形をした
女がドッと地面を蹴りガウェインと交差する。
ガウェインは杖の持ち手の握りを変えて、少しの風音ともに刃を抜いた。
甲高い音が響く。
「へー珍しいー。接近戦もいける魔術師かー。でもその
ガウェインの手には仕込み杖から抜かれたやや薄刃の剣が握られていた。
「ご心配どうも。でも心配には及ばないよ」
そういうと、みるみる薄刃の剣に氷が広がり、やがて立派な剣となった。
「あー精霊魔法にはそういう使い方もあるのかー。じゃあ遠慮なくー」
ガウェインは精霊を無機物に宿すことのできる特殊な技術の持ち主だった。
ほとんどの精霊使いは、精霊を
だが宿主を持たない状態で呼び出された精霊は、媒体となった魔力が尽きると自然に姿が消える。
その点、精霊魔装は精霊に宿主を与えることで、精霊が嫌と言うまでは半永久的にその力を顕現させておくことができる。
少しの距離が空いていた二人だが、互いに合図したかのように激しい打ち合いを繰り広げる。
女の攻撃は
その動きは先の子どもたちを彷彿とさせたが、より洗練された殺人術として完成されていた。
防戦。
女の刃が嵐のように氷の剣に襲いかかる。
氷の剣は何度も刃こぼれを起こすたびに修復されるが、元の強度に戻るまでの時間が足りないのか、徐々に剣に反射する光が歪んでいく。
(くっ、重たい)
分厚い刃の重量が遠心力と相まって、とても生半可な剣技では捌ききれない。
「……っノーム!」
叫ぶように土の精霊を呼ぶと、ガウェインの足元から重力に逆らって土壁が立ち上がった。
ジンはその様子を横目で確認していたが、なかなか助けに行けないでいた。
ややもするとヒューマンの双子の男の方が、玉砕覚悟で突っ込んできて、またその動きに合わせて双子の女が鋭い一撃を繰り出してくる。
ジンはあまり傷ついていないが、男の子はすでに相当量の血を流していた。
下手に動くと男の子は殺されてしまう。
「ほっほっ、よく
最後の一言は誰に向けてのものか。
何かのスイッチが入ったように、子どもたちの目に正気の光が宿る。
「……あっ、お兄ちゃん」
「うん、どうやらそう言うことみたい」
「不覚。ごめんなさい、シネイド様……」
目を覚ましたようで、それぞれが何らかの思いを口にする。
ジンは首を傾げて様子を見守る。
双子の男の方がそんなジンに話しかける。
「あの、ごめんなさい。僕たちのせいで……」
「……? どう言うことだ?」
「こうなるともう止まらないんだ。せめて、痛くないように殺してほしいな」
子どもはジンの疑問に答えることはなかった。
できなかった。
子どもたちの体内に異常な魔力が渦巻き、大河のように吹き出した。
「さぁさぁ、ここからが本番じゃ! 魔導装具士・ガナージーノの第一研究の成果、とくと味わうがいい!!」
老人、ガナージーノの叫びとともに、目に見えるくらいの魔力を迸らせた子どもたちが雄叫びを上げた。
男の子が
さっきより一段と動きに鋭さが増していた。
ジンも合わせるように動くが、足下に何かが絡みつく感覚。
(精霊魔法っ!?)
身動きできずに正面からの一撃を受け止める。
子どもとは思えない
完全に体勢が崩れたところに、女の子がジンの側面に回り込み、脇腹にナイフを突き立てた。
激しい吐血。
思わず地面に膝をつく。
男の子が後ろに跳ぶと、エルフの子どもが猛スピードで突っ込んでくるのが見えた。
「っおおっ!!」
絶体絶命。
左手の盾を構え直そうとした時、ジンとエルフの子どもの射線を遮るように炎の壁が出現した。
「よかったわ、間に合って」
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