第6話

 相手は、戦士と拳闘士それと魔術師の三人。

 真っ先に、ジンは大斧を振りかぶって突っ込んできた戦士に合わせように意識を向ける。

 切るというよりは叩き潰すかのような一撃だった。

 その一撃を左手の盾で受け流す。

 間髪入れずに右手に持つ身幅の広い剣をふるおうとするも、死角から手甲に覆われた鋭い連撃が繰り出され、すんでの所で後ろに跳んで距離を取る。


 決闘の啖呵を切った男だ。

 怒りでがむしゃらになるかと思いきや、かなり冷静にジンたちを観察し、絶妙なタイミングで攻撃を加え、さらにシーリスへの牽制も行っている。

(へぇ、さすがに実力派って呼ばれているだけあるな)

 まだ感心する余裕があった。

 ステップを踏みながら大斧をいなし、蹴撃をかわす。

 そこに氷礫ひょうれきが豪雨のように降り注いだ。

 轟音とともに空気が冷やされジンの周りに白いもやが立ち込める。


「シーリス!! ジンならあれくらい大丈夫! それより、くるよっ!!」

 とび出しかけたシーリスをガウェインが止める。

 意識をそちらに向けた間隙かんげきを縫うように、素早く手甲の男が迫った。

 後ろでは魔術師の女が次の詠唱を始めており、大斧の戦士はもやの奥を警戒している。


 シーリスは手甲をレイピアで流し、相手の体勢を崩すと素早く腕を引き、矢を放つような速度で突く。

 しかし男は崩された体勢を利用し、アクロバットに剣を避けた。

 腕が伸び切り無防備な格好のシーリスに今度は炎弾が殺到する。


「地底より出よ、ノーム!」

 ガウェインが言葉を紡ぐ。

 直後にシーリスの足元から分厚い土の壁が現れ炎の弾丸を防いだ。


「やるじゃない!」

「これくらいはできないと、ジンの相棒はやってられないのさ! ほら、次で決めるよ!」

 ガウェインは何かを確信しているようだ。


 そんな彼の様子に相手は気づかない。

 炎弾が防がれたことで、三人が次の攻め手に移る。

 その時、全員の意識がジンから外れた。


「……よそ見してていいのかよ?」

 まるでこの瞬間を待っていたかのように、もやの中から勢いよくジンが現れた。


 戦士のふところに踏み込む。

 彼は虚を突かれたことで、雑に大斧を打ち下ろしてしまった。

 当然、ジンには当たらない。

「こんだけ得物がデカいと咄嗟に反応するのはきついだろ?」

 勢いそのままに盾で戦士の下顎を打つ。

 戦士の体は宙を舞い、意識を刈り取った感触があった。


「ダイン!!」

 魔術師が宙を舞う大男の名前を呼ぶ。

「馬鹿野郎っ! キアラ!!」

拳闘士の男は注意を逸らした魔術師に叫ぶ。


「もう遅いよ。此方こなたより来て眠りの砂をまけ、ザントマン」


 キアラと呼ばれた魔術師の顔の周りにキラキラとした光の粒が舞う。

 抗うこともできずに、彼女は意識を手放した。


「このっ!!」

「残念。今度は貴方の番。--いきなさい」

 残った男は隙だらけ。

 シーリスの言葉に従うように彼女の指先から炎が流星のように撃ち出された。


 空をかける蛇のようだ。

 炎蛇は男の首に噛み付くと、その体で締め付ける。

 男はしばらく暴れていたが、やがてダラリと手が垂れ下がった。


「そこまでっ!! 勝者!……ってお前らパーティ名あんのか? ない?? 勝者、えー……、あー……、めんどくせぇな。勝者、エルフと少年!!」

 濃いクマの男が宣言すると訓練場は悲喜交々ひきこもごもの様相となった。


「なんだか締まらないわね……」

「同感だ」

「まぁでも、思ったより早く終わってよかったよ」


 気絶した相手が運ばれていくのを見ながら、ジン、ガウェイン、シーリスは歓声を背景に誰ともなく集まった。


「それにしても……。 貴方は一体幾つの精霊と契約しているの? 私、エルフ族以外で初めて二柱の精霊と契約している人を見るのだけれど」

 戦闘中は気にしないようにしていたシーリスも、やや気が抜けたのか疑問に思ったことを口にした。


 精霊は精霊魔法への適性があれば、どの属性でも呼び出せると考えられているが大きな誤解だ。

 実際には、精霊にも好みがあり、魔力や術師自身の性格とその精霊の質が合わなければ呼び出すことは不可能だ。


「さて、どうだろう? 僕も意識して数えたことないな」

(意識して数えたことがない? ていうことは他にも……?)

 まさに天才。精霊に愛されし者。

 シーリスは、ガウェインを心底羨ましいと思った。


「まっ……細かいことはいいじゃねーか! それよりシーリス、この後時間あるか? 少し話したいことがあるんだが?」

 珍しくジンが空気を読んだ。


コクリと頷くシーリス。

(いつぶりかしら。『羨ましい』なんて……。でも、彼らの実力なら申し分ないわね)

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